67話「来たる! 最悪な未来!」
ついに運命の日が近づいてくる!
サンライト王国。未だ平和で健在な町々が並び、人々はいつもののように賑わっていた。
子どもがはしゃぎ回り、おばさん達が囲んで駄弁っている。魚屋がアピールするように叫ぶ。空を鳥が飛び回る。
だがそんな平和日和とは裏腹に、自宅でナッセは険しい顔を見せている。
まるで眼に刃が宿るかのようにギラギラしてカレンダーを凝視する。
「フクダリウスたちが殺される日……」
そう、前世では偽ドンイ王国での戦いで生き残ったが、オウガ、ドラゴリラ、フクダリウス、コンドリオンが結局皆殺しされるという忌まわしき日だ。
そして初めてオレが妖精王に覚醒した日でもある。
帝国の四天王、東のニカ大将軍。
名前からしてモブとしか思えないが、実態は殺戮マシーンのような帝国の四天王だ。
しかも『魔海』出身の魔鱗族で、帝国とは盟友関係で帝国軍に在籍している。
コイツのせいで多くの国や人々が大勢殺されている。
「だが、今世では何故かそういった被害が極端に少ないし、今はドラガオンがいるし……」
ニカ大将軍……! 前世通りなら、必ず攻めてくる!
「どうしたのよー? カレンダーとにらめっこしてさー」
「おまえなぁ……」
剣呑とリョーコがキャミソールとパンツだけの姿で歩いてきてて、ナッセはジト目する。
我が家のように住み着いているのも甚だしい。
サンライト城へ、ナッセとリョーコが赴く。
そしてサンライトセブンを集めて、作戦会議を行った。……とは言ってもドラガオン、フクダリウス、モリッカ、ノーヴェン、ナッセの五人のサンライトセブンだ。
副官としてリョーコも同席している。
「……五日後の昼に、帝国のニカ大将軍が軍勢を率いて攻めてくる」
「ムウ……、前世でそういう事が?」
フクダリウスの問いにナッセは頷く。
「ああ。エビエ将軍やヤドカ将軍など、ニカ大将軍直属の部下もいる。こいつらも魔鱗族で割と強敵だ」
「東の四天王ニカ大将軍は魔海では人望が厚い武将デース。かなり長引きマース」
「でもドラガオンさんがいますし」
ドラガオンへみんなが注視する。
「フッ! あんの竜さんと多少渡り合えたや、この強さでやってやんやがぜ!」
腕を組んで立っているだけで、滲み出る戦意で威圧が膨らんできて、この部屋がミシミシ軋んでいく。
フクダリウスが「ちょい抑えてくれ」と言ったので、収まってくれた。
「だったら楽勝じゃん! ね?」
「ああ……」
リョーコは余裕そうな顔でナッセに振る。
あの竜さんと比べれば、ニカ大将軍と軍勢が来ても、それほど脅威ではない。
龍魂山脈の件がなければ相当脅威だったかもしれない。
「ニカ大将軍……。ナッセ勝てたのだろう? 前世で?」
「……二つ前の前世では大爆裂魔法にも耐えてたから強敵には変わりない。あの後、モリッカ、ノーヴェンでぎりぎり接戦してやっと勝てた。そして一つ前の前世ではオレが妖精王に覚醒して倒した」
「ええっ!? ……あの大爆裂魔法を耐えたんですか!?」
「ウソでしょー!?」
リョーコとモリッカは驚く。ナッセは頷く。
軍勢もろともニカ大将軍を大爆裂魔法で吹き飛ばしたはずが、耐えきられてしまって絶句した記憶が脳裏に蘇る。
それでも大ダメージは免れなかったんで、モリッカとノーヴェンが必死に闘ってくれた。
でもやっぱり、妖精王に覚醒したら違った。全盛期だったから終始圧倒した。
「それだけ強いんやがで、ワレなんらば全然勝てる相手なんやです」
自信満々とドラガオンは胸を叩いた。
ナッセとリョーコは「……確かに」と同意する。フクダリウスもノーヴェンもモリッカも安心していいやら、複雑な心境だった。
────その三日後、遠くを偵察していた見張り兵から連絡が来た。
「大変ですっ!! 四時方向の空で敵影が確認されました!」
城で大勢の兵隊はザワザワ戸惑い始める。
将軍は「空兵が攻めてきた? どれくらいの兵数だ?」と聞くが「いやニカ大将軍単騎で飛んできてます!」と返ってきて、騒然とする。
そして慌てて「サンライトセブンに連絡しろーっ!」と伝達する。
「二日早いな……。本当にニカ大将軍が!?」
ナッセは振り向く。兵士は「はい!」と頷く。
リョーコは「ちょっと前世と違ってきた?」と疑心に駆られる。
「……妙だな。単騎で攻めてくるだなんて一体何が?」
「だったらドラガオンで返り討ちしましょー!」
「そうだな。よし!」
サンライト王国郊外の城壁で、ナッセ、リョーコ、モリッカ、ノーヴェン、フクダリウス、そしてドラガオンが待ち構えていた。
ナッセは気張って杖を取り出す。他も各々の得物で構えていく。
「ニカ大将軍! お前はここで倒してやるッ!!」
最悪な未来を乗り越える為に────!
「ニカーッカッカッカッカ!! 貴様らが、かのサンライトセブンにか!」
凄まじい威圧を撒き散らして、空で滞空するニカ大将軍がこちらを見下ろしてきた。
空に浮く、カニを彷彿させる風貌の真紅に染まった装甲に、体格はフクダリウスをも凌ぐ巨躯。
「むうっ……! こ、こいつが……本物の魔鱗族!」
フクダリウスですら汗を垂らして睨む。
モリッカもノーヴェンも初めて見るので、息を呑む。
「なんか数が足りんようだが、この東の四天王ニカ大将軍さまが全滅させてやるにかーっ!」
轟音を伴って全身から激しいオーラが吹き荒れてきたぞ。
地響きが大きくなっていって、地面から破片が浮いていく。誰もが汗を垂らす中、ドラガオンが前に出る。
「ワレに任せるんやぜです」
ドラガオンは自信満々に笑んで、拳を鳴らす。




