58話「モリッカ 対 槍さん!!」
圧倒的スピードで押していた槍さんは一転して、モリッカに封殺されて氷漬けに……。
「終わったようだな」
「そっちもフィナーレですネ」
「だといいんですが……」
胸を撫で下ろしたモリッカは、氷漬けになって唖然としたままの槍さんを油断なく見ていた。
すると案の定、槍さんの視線がこちらへ向いた。
フクダリウスとノーヴェンは「あっ!」と竦む。ベキベキベキ、氷塊が砕けていく。
「もう許さないわーっ!!」
なんと龍人と同様に巨大な赤いドラゴンとなって、氷解を跳ね除けていく。
怒り狂っている槍さんはモリッカを見下ろす。
小さな槍を手で握ると、それを媒介にするように瞬時にオーラの槍が生成される。
「今度こそ容赦はしない!! 竜さんと同等の、この『竜化』で貴様を跡形もなく消し飛ばしてやる!!」
モリッカはフクダリウスとノーヴェンへ振り向いて「ちょっと待ってくださいね」と笑む。
状況的に協力して戦った方がいいと感じていた。
なにしろ、戦闘力だけを言うなら三人衆の中で最強だからだ。
「オウガとドラゴリラが怒らした龍人さんの事を聞いてましたからね。やっぱり変身するんじゃないかと思ってたんです」
「その通り! 我々龍人は確かにドラゴン種の中でも中位に位置するけど、竜さん同様にドラゴンになれるわ!」
「ええ、知ってますよ。龍脈で本読んでましたからね。でも少し違いますよ」
「なに!?」
落ち着いたモリッカに、槍さんは見開く。
「竜さんは『魔獣の種』を埋め込まれた男。変身のように上位生命体のドラゴンへ戻るのに対して、龍人は元々が人型の生命体。なので一時的にドラゴンへ変身する生態です。似て非なるものなんですよね……」
「ぐぬ……! だが、それでも数倍もの戦闘力に膨れ上がってるのよ! あなたに勝ち目はない!」
モリッカは笑む。四つの魔法陣を描いて、それぞれ額、両手首、みぞおちに張り付かせていく。
「いえ、勝ち目は十分あります! 来い! コンセット!!」
「よし!」
「おう!!」
「三週間の修行の結果を出すぜー!」
「接続合体だー!」
なんと四体のコンセットがモリッカへ吸い寄せられていく。
それは魔法陣を経由して融合していく。四体のコンセットの頭が、モリッカの額、両手首、みぞおちから出た状態になっていた。
するとモリッカの威圧が爆発的に膨れ上がって、周囲を席巻した。
「な……なっ…………!?」
「これが僕の時空間魔法! 名づけて『コンセットブースター・カスタムモリッカ』ですっ!」
コンセットの頭を各部位の融合したモリッカが自信満々に笑む。
それを見てノーヴェンは震えていく。
コンセットはモリッカが召喚する特殊な獣。しかし実は分身でもあり、視覚と思考が共有されているので単なる召喚獣とは全く違う。
同じ分身が一つに統合されたという事は……。
「初めてですので、手加減が難しいかもです……。なにしろ相乗効果で信じられないぐらいパワーアップしてますからね」
「ほざけっ!!」
槍さんはこれまで以上の超高速で目の前から掻き消えた。ただ大地が爆発しただけ。
目にも映らぬ速度で駆け回る槍さんが通った地面が爆ぜていく。しかしモリッカは落ち着いたまま待ち構えている。
「死ね!!」
背後から刹那の突きが迫る。
しかしモリッカは背中を反らして、目の前を突きが通り過ぎる。遅れて余波が衝撃波を放つ。
平然とするモリッカの髪が舞う。
「全方位から無限突きだあああっ!!」
超高速で周囲から連続の突きが繰り出される。
しかしモリッカは突っ立ったまま、上半身を縦横無尽に反らすだけで全ての突きがかわされていく。
「なにッ!? どんなトリックをッ!?」
「ただ合体しただけじゃありませんからね」
「なっ!?」
モリッカは片手でオーラの槍を掴み、その反動で動いていた槍さんは惰性で宙返りして「ぐっ!」と呻く。
なんとか着地して槍を引き抜こうにも微動だにしない。
「基本的な身体能力の倍加に加え、反応速度や思考速度も倍加してますからね。あなたの攻撃なんて止まって見えてるんですよ」
「お、おのれ……! そんなはずはっ!」
モリッカは蹴りを放ち、大きな体躯の槍さんをぶっ飛ばす。
そのまま森へ突っ込んでバキバキ木々を散らし、ズズーンと奥行で煙幕が立ち上る。
「オー……ワンダフル……! 今のモリッカのスペックは十倍以上に跳ね上がってマース……!」
「なんと……!」
「まさかモリッカも時空間魔法を会得してたとは……、人が悪いデース」
以前に「運用できないから」って自分でパスしておいて、実はこっそり会得してたという。
「おのれえええええッ! もう全身全霊でもって貴様を葬り去ってやろうッ!!」
なんと森から飛び出した竜さんが最大最速で突進して槍を構えたまま、モリッカへ突く。
音速を何倍も超えるほどの目にも映らぬ超絶神速の突き。それこそが槍さんの最大奥義だった。
誰も認識する事もせず、一瞬の死を受けてしまうほどだ。
「この奥義・刹那閃でッッ!!」
「ワンパターンなので、もう興味ありません」
それすら見切っていたモリッカは同じ速度で突きをかわしつつ、足で踏ん張って拳を添えるだけ。
それだけで勝手に槍さんが拳を腹に受けて、ドンと周囲に衝撃波を破裂させ、森林が騒ぐ。
「ごばあッ!!」
槍さんは見開いて盛大に吐血して、沈むように仰向けに倒れてしまう。
もろにカウンターを受けた以上、頑丈なドラゴンの体といえども大ダメージは必至。
ドラゴン化が解けて縮んでいって白目で痙攣する。モリッカは「ふう」と肩を落とす。
あとがき
この頃から、モリッカが人外レベルになっていくんだよねぇ……。
初期は普通の魔道士って感じだったのに。




