44話「ついにゴールだ! 時空間魔法の秘密!」
深海のような亜空間が消え、ボス戦部屋へ戻った。
四天王の襲撃でもうボスはいないし、後は奥行の扉だけ。開けると周囲は研究所みたいな薄暗い広場が見えてきた。
所々ガラスの筒の柱が並んでて、青白く発光している。中には文字の羅列が記されている半透明のウィンドウが浮いていた。
「もうゴールだよ」
ナッセは安堵の一息をついた。
肩を貸しているリョーコは「おつかれ」と労う。
「もう懲り懲りやわー」
「こんな……糞迷宮など糞くらえじゃ……」
ドラゴリラは介護するかのように、姫抱っこしていた一三〇代のオウガを静かに下ろした。
あと縛り上げられたイワシローを引きずっていた。
「ぐすんぐすん、すみませんでした〜〜!」
「魔法陣の資料……デスカ?」
ノーヴェンはガラスの筒の中を見つめている。
各々のガラスの筒には色んな時空間魔法が展示されている。そしてノーヴェンはその資料のある記載に眉を跳ねる。
「いずれも恐ろしく消耗するものばかりデス……。魔法専門のミーやモリッカでさえ一回でMPが底をつくような消耗量……!」
「ええっ!?」
モリッカも駆け寄って資料を見る。本当だ、と目をおっ広げる。
コンドリオンはふと見た時空間魔法が気になった。思わず「これは……?」とガラス筒の資料に食い入る。
なんか『異世界のもう一人の可能性』というあからさまなタイトルが……。
リョーコに肩を貸してもらいつつナッセは目を瞑る。
「……時空間魔法の試練は、容易に手に入らないようにする為にあるものだ」
誰でも時空間魔法が会得できたら、重いリスクで自滅する人が増えてしまう。軽く考えて会得できるものではない。だから一種の保護装置として役目をしているのだと……。
フクダリウスは「うーむ」と唸り、ナッセへ振り向く。
「それと試練は全て時空間魔法によるものだな?」
「ああ。会得するに相応しいか最適なのを、そして効果のプレゼンとしてもな。もちろんゴールしてれば、同じやつを会得も可能だよ」
「それは納得デス」
材料要らずのゴーレム生成、迷路空間、絶対防壁、特殊効果のパネル、浮遊ブロック生成、時空間ワープ、透明の壁、ライフバーによる損傷の自動修復、空間転移……、会得できれば強いだろう。
もちろんそれ以外の時空間魔法の会得や、オリジナルの作成も可能。
だが欠点は使うエネルギーが多い事だ。
「実用的だけど運用は無理ですね。燃費が悪過ぎるのが困りますし……、今はパスした方がいいです。もったいないですが……」
「そうか」
モリッカの残念そうな決断にナッセは頷く。
コンドリオンは「ヤマミって人が、止めに来たのも分かりますね」と納得してた。
しかしノーヴェンはメガネでピッピッと資料の記述を記録しているようだ。
フクダリウスはチラッとイワシローを見やる。
「それに調べたいものはもう済んだ。後でコイツを尋問しないとな……」
「ひええええ!! ごめんなさいごめんなさーい!!」
「待て! 試したいものがある」
「それは?」
ナッセはとある資料を差し出す。
「対象を若返らす時空間魔法……。これだ」
「あっ!」
「やはり……」
ナッセは資料通りに魔法陣を床に書いていく。
その魔法陣にドラゴリラが、一三〇代オウガをゆっくり乗せた。
ナッセ、モリッカ、ノーヴェン、フクダリウス、コンドリオン、ドラゴリラが魔法力を注ぎ込んで魔法陣を発光させた。
「お……おおっ……!!」
なんと、見る見る内にオウガが若返っていく。
女神像タルパを相手に寿命を無駄に払った代償がなかった事にされていった。
取り戻せた事に歓喜するオウガに、フクダリウスは「二度とやるな」とゲンコツする。
「糞巨漢がぁ! なんで殴るんだよっ!!」
「勝手に突っ走ったりと多大なヘマをやらかして、ナッセたちに迷惑をかけている。さぁ謝らんか」
「くっ! す……すまない……。迷惑をかけて申し訳ない……」
オウガは渋々と頭を下げてみんなに謝ってくれた。
彼は頑固だから謝るのはなかなかできないけど、これでよし。
「今は疲れたから帰ろう!」
「ああ。そうだな」
「はい!」
なにもかもスッキリした。ナッセはサンライトセブンと共に帰路についた。
それを物陰裏から眺めていたヤマミはクールに笑むと、ズズズズ……と花吹雪の渦に呑まれて消えていった。
サンライトセブンが時空間迷宮から出るのを待ち構えていた一人がいた。
冷酷な目線を見せる令嬢……。そう、シュパンシア帝国四天王の鳳凰ニメアだ。
「やっぱりイワシロー敗れたのね。でも、おかげで遊びやすく……」
ニヤリと醜悪な笑みが釣り上げられた。
「そこで何をするつもりだ?」
ニメアは背後にいる黒騎士にピクッと竦む。振り向かず、手を振る。
「疲労したサンライトセブンを始末しておけば、サンライト王国も制圧しやすくなるでしょう?」
「皇帝陛下が激怒されている。勝手な行動をするな、と」
「……この絶好な機会でも?」
すると黒騎士はカードをスッと出してくる。
「望みとあらば召喚しよう! 皇帝陛下を……!」
「なっ!?」
半顔で振り向き、顔色を変えたニメアは仰け反る。
悔しがりながら「チッ」と舌打ちし、炎の尾っぽを複数尻から出すと自らを包んで消えていった。
時空間魔法で消えたか、と黒騎士は確認すると溜息をつく。
「……つか、オレだって時空間ワープしてぇよ。親父は送るだけ送って帰りは頭に入れてないよな……」
ブツブツぼやきながら黒騎士は帰っていった。
数日後、サンライトセブンは王国へ無事帰還した……。
あとがき
よくあるのですが、敵幹部とかが絶好の機会なのにボスとかに強制的に呼び出されて、主人公側が助かる展開……。
さっさと主人公たちを殺してから帰れば問題ないのに、なぜかボスの用事を最優先する。
……まぁ、今回は明確な理由(ナイショ)でそういう展開にしてますがw




