26話「独り善がりのナッセ」
杖を高らかにかざし、二〇もの複数の魔法陣を生み出す。ナッセは広大なMPによる物量で押す事に決めた。リョーコは「あっ! さっきの魔法陣!」とビックリする。
これでしか仮面女の神出鬼没ワープに対抗できない。
「行くぞッ!! 魔導円陣・二〇段射撃・烈光魔蓮弾ッ!!」
ナッセが杖を振り下ろすと、二〇もの砲式による射撃が唸りを上げる。
無数の光球が軌跡を描いて仮面女へ殺到。絨毯爆撃で爆発が連鎖していく。今度はあっちに時空間移動した仮面女へ杖を向けると、軌跡を描く光球が標的を追う。
どこへ時空間移動しても、絶えず絨毯爆撃が覆い尽くして逃げ場をなくしていく。
「……甘いわね」
仮面女はナッセの後ろ間近に時空間移動し「深淵剣!」と闇の刀身を伸ばした杖を振るう。それを読んだナッセは「星幽剣!!」と光の剣で受け止めた。周囲に衝撃の余波が広がる。
「そう来ると思ったぞ」
「へぇ」
幾度か剣戟を重ねて押された仮面女は弾かれ、後ろへ着地。その瞬間にナッセの絨毯爆撃が襲うが、仮面女は即座に時空間の渦へ姿を隠す。
仮面女がどこに現れてもいいように、全方面へ弾幕を散らして絶えない爆発の連鎖が続く。
「……ッ!!」
ナッセは身を怯ませる。なんと左右の壁に無数の魔法陣が浮かび上がっていたからだ。
どこからか「『魔導円陣・闇閃殲滅弾』に沈め……!」と響いて戦慄を覚えた。
挟み撃ちするように漆黒の弾幕がナッセへ殺到。今度は漆黒の爆発の連鎖が鳴り響く。
「ナッセ────ッ!」
お返しとばかりに耐えない爆撃が続く最中で、仮面女が花吹雪から抜け出てきた。
すると更にその後ろで亀裂が走ってガラスをぶち抜いて出てくるようにナッセが仮面女へ飛びかかる。同時に光の剣が振り下ろされる。
仮面女は「闇焔!」と半顔で魔眼をギンと凝らす。黒炎がナッセを覆う。
「ぐうっ……」
ナッセは苦しそうに顔を歪ませ「光輪爆震天!!」と全身から光の衝撃波を放って黒炎を吹き飛ばす。
同時に仮面女にも衝撃波が及んで吹き飛ばしていく。
「独り善がりね」
「何っ!?」
仮面女は離れた所へ着地し、そう言い捨てた。
黒炎弾を乱発してくるが、ナッセは光の剣で次々と霧散させていく。
「確かにお前を突き動かすその強い信念は並々ならぬものがあるわ。だけど、所詮は自己満足の独り善がり。自分だけで全てをやろうとしている。闇夜天嵐旋!!」
仮面女は両目で凝らし杖を向けると、ナッセの周囲から漆黒の竜巻が包むように吹き荒れていく。やがて天井へ届くほどの漆黒竜巻が暴威を振るう。
地響きとともに烈風が吹き荒んでいく。
普通の竜巻と違って、標的が息絶えるまで延々とまとわりつく闇の竜巻……。
「ぐッ! 烈光天嵐旋ッ!!」
漆黒竜巻に翻弄されながらも、光の竜巻を生み出して内側から押しのけていく。
「く……おおおおおおおッ!!!」
相殺しきり、光の竜巻とともに漆黒の竜巻を破裂させた。
なんとか着地し、傷ついて血まみれのナッセ。はぁはぁ息が荒くなる。
そして察していく。確かにMPは広大ではあるが、連発し続ける魔法の威力の反動によるダメージが自分に蓄積しているんだ。
つまり湯水のように魔法を撃てば撃つほど、体は逆にどんどん傷ついていく。
「……うかつだった。そうそう何度も大技を連発するものでもないか」
「だから言った。一人では限界があるから……」
「くっ!」
例えるなら、体力が無限でも延々と全力疾走は不可能。筋肉が次々と断裂していって、いずれ走れなくなってしまうからだ。
ナッセは物量でゴリ押しすればいいと軽く考えていた事に痛感した。
「闇焔」
黒炎がナッセの肩に付着し「ぐっ!」と焦るままに光魔法で弾き飛ばす。
このままでは負けると焦ったナッセは光の剣で仮面女へと疾走して、接近戦へ持ち込もうとする。
「おおおおおッ!!」
「意固地にならないでッ! 深淵剣ッ!!」
仮面女がそう吠えると共に、電光石火の鋭い突きがナッセの腹を穿つ。その強撃で周囲に衝撃の余波を撒き散らす。
「がっ!」
腹から血を噴き出すナッセは床に沈む。
そして仮面女は杖を振るって血を飛ばす。しかし彼女は見開いた。刺したのはキツネの獣人だったからだ。
「マジいてぇ……」
そう言いながらもニヤッと笑むキツネの獣人。ボン、と煙となって虚空へ溶け消えた。リョーコはパチクリする。その獣人は知っている。コンセットだ。と言うことは────!?
「急所は外して、王国へ移転させて後で治すつもりだったけど……」
邪魔が入ったか、とでも言うように仮面女は振り向いて目を細めてくる。
「も、モリッカ!? なぜッ……ここに!!?」
「全く、勝手に一人で行かないでくださいよ! 一応サンライトセブンのメンバーなんですから!」
あちこち傷ついたナッセに、回復魔法の光を灯すモリッカは呆れる。
刺される前にコンセットとナッセの位置を入れ替えて救助したのだ。これがモリッカの“血脈の覚醒者”の力である。リョーコはホッと安堵する。
「僕だけじゃありませんよ」
なんとオウガとフクダリウスが馳せ参じて仮面女へ立ちはだかる。更にナッセとモリッカの後ろから、ドラゴリラとノーヴェン、コンドリオンが歩いてきた。突然のサンライトセブンにナッセは唖然とする。
「一人で無茶してくれるなよ? そういうのはワシらに相談してからな……!」
フクダリウスは頼もしい笑みを見せてくれる。




