24話「ナッセを待ち受ける仮面女!」
夕日が沈み、夜空の星々が煌くその下、森に囲まれた広場で焚き火の炎が轟々と猛っていた。その側でテントがある。ナッセは焚き火近くの丸太に座ったまま魚を刺した串を並べていく。リョーコは近くに座る。
「ナッセ、どこ行くの?」
「前に言っただろ。時空間魔法を会得しにダンジョンへ行くんだよ」
これだから、と困惑顔で魚を炙る。
「聞いた。でもなんでこんな山奥にあったの!? 初めて聞くけど??」
「……本当はオレだけで行って取得するつもりだったが」
「そんな寂しい事言わないでよー」
自分が背低いからって頭を撫でられるのは納得いかないがスルーする事にした。
本来ならリョーコ達は連れて行くつもりはなかった。前世じゃ自分一人で時空間魔法を取得していたからだ。
だが、ヨネ王の言葉が気になっていてしょうがなかった。自分は元々笑うのが苦手な方だ。他の人のように笑う事は中々できない。どうやったらそれができるのか皆目つかない。
「物思いに耽ってて悪いけど、時空間魔法ってどんなの?」
「……空間を操る高度な魔法だよ。何日もかかる遠くの場所すら一瞬にしてワープできるって感じだ」
「あー、いいな。それ欲しい!」
「言っただろ? 高度な魔法ってな。初歩魔法すら取得していない人が手に入る訳ないだろ」
ぶーぶー言うリョーコ。やっぱ連れて来たのは失敗か。
焼いた魚を二人で食べていった。
「ってか、そんなに難しいのー?」
「当たり前だ。いくつもある次元空間を理解して、それを操作するインテリな魔法だよ。特に遠くの空間や広い範囲を操作するほどエネルギーを多く使う。だからMPが広いオレに向いているんだ」
「へー」
屈託なく口角を上げるリョーコの顔を見てると心がぽかぽかしてくる。……これが笑いの力か。こんな風に笑えれば周囲の人も同じ気持ちになれるんだろうか。
「なに? あたしを見て? 惚れちゃったー?」
「アホか」
ニヤニヤからかってくるリョーコに、ナッセは呆れた。
食事を終えて、ナッセは指で光の軌跡を虚空に書いていく。まずは円を描いてから、文字の羅列を並べていく。
「なにしてるの?」
「魔法陣の作成」
「使う時に出てくる事があるやつ?」
数十分かけて小さな魔法陣を描き終わると、杖に吸い込ませていく。
「魔法陣が勝手に生成されると思ったか?」
「そーゆーもんだって思ってたけど違うんだ?」
「違う。複雑な手順が必要な召喚魔法や転移魔法を一瞬で使えるようにする為の短縮術式だ。あらかじめ術式を描いておいて、杖などにダウンロードしておけば発動の際に出てくる」
ナッセは杖をかざすと、先ほど描いた魔法陣が浮かんできて光線が斜め上へと迸った。
「普通に放つのと変わらないじゃん!」
「こういうのもできる。三段射撃・烈光魔蓮弾」
なんとコピペしたかのように魔法陣が二つ浮かんできて、三つ同時に光線が放たれる。
「増やせば弾幕撃てるからな。そしてもう一つ利点があって……」
三つの魔法陣がそのままあって、まるで砲台を並べているかのように次々と光線が放たれる。
しかも魔法陣を軽やかに動かして射線を変えたりも見せた。
ナッセが一息つくと、スウーッと虚空へ溶け消える。
「簡単な魔法なら、弾幕を連発だってできる。ただ、集中力を継続しないと維持ができないから、召喚や転移など大規模なものはほぼ一発使い切りになる」
「え? 大きな魔法は普通にやったほうがいいんじゃない?」
「全然違う。普通なら大規模な魔法は発動するまで、死ぬほど詠唱や儀式に時間をかけるから、魔法陣で短縮しているんだ」
リョーコは「ふーん」とのんきに相槌をうつ。
「今回のダンジョンで得られる時空間魔法は、魔法陣形式でダウンロードするのから、自分の固有魔法として組み込むのまである」
三日間かけて、快晴の光が木の葉から差し込む深々とした森やいくつか山岳を越え、ようやく目的地にたどり着いた。そこでは崖の岩壁の麓に石版のような扉があった。
別に古代遺跡って訳ではなく、ちゃんと今でも管理されているものだ。
「ここがそうね」
「ああ。時空間ダンジョンだ。……開けるぞ」
重々しく石版の扉が左右に開けられると、広大な玄関が広がっていた。
天井がやや高い。床、壁は装飾もなく質素。奥行には更に扉がある。灯りは天井の円状のライトからで、隅々まで明るい。リョーコは呆然と見渡している。
「止まれ! 何者だ!?」
その声にナッセは足を止めた。鋭い眼光で見渡すが、誰もいない。
奥行の扉の手前でズズズズッと黒い花吹雪の渦が広がってきて、黒いローブの人が屈んだ体勢のままザッと降り立った。
「き、急に現れたッ!?」
「魔法陣の展開もなく転移……、固有の時空間魔法か……!?」
まるで阻むように一人が静かに立ちあがる。
質素な紋様で彩られたケモミミ付きの白き面で顔の素性が窺えない。双眸が覗くのみだ。切り揃えられた黒髪ロング。黒いローブで身を包んでいる。スレンダーで小柄な女性と見受けるが仮面越しに伝わってくる殺意は尋常ではなかった。
「……そういうお前は誰だ?」
ナッセは杖を手に、前進を始めた。だが仮面の女は沈黙するのみ。




