20話「王様に期待されるナッセ!」
入隊試験という事でヨネ王とナッセが戦っていく。
相手はサンライト王国の王様であり、聖剣を振るう王国最強の剣王とも各国で知られた男。
聖剣アポローアは攻守一体の光の盾を具現化できる。
「極大爆裂弾!!!」
ナッセは爆発系最強の魔法を放ち、差し出された杖から稲光迸る奔流が大気を唸らせる。
コロシアム闘技場を呑み込むほどの大爆発が周囲を震わせた。
されど、光の盾のいくつかが粉々に散っても、ウロコのように新しく生成された光の盾で完全に防がれていた。
「ほっほ。頼もしい限りの魔法オンパレードじゃ」
「やはり力の差は歴然か……」
「そうかのう?」
ナッセは天に杖をかざして、はるか上空で暗雲が渦を巻く。ゴロゴロ……鳴り響く。
フクダリウスらサンライトセブンは呆気に撮られた。
暗雲の中心から、激しく迸る稲光を散らす巨大な雷球が圧倒感を放つ。
「天空轟雷閃」
まさか雷系最強の魔法まで、とモリッカとノーヴェンはびっくり仰天。
ナッセが振り下ろした杖に従い、巨大雷球が一気に落雷して闘技場を穿つ。周囲のコロシアム壁が破砕するほど壮絶な破壊力が蹂躙した。
なおも迸って暴れ狂う稲光。吹き荒れる烈風。サンライトセブンたちは「ぐっ!」腕で顔を庇う。
しかしそれでもヨネ王は太陽のように円の盾と放射状に並べた菱形の盾を生み出していて、ナッセは絶句。
ヨネ王はカッと「今度は君が余の本気を受けてみよ!」と聖剣を振り上げる。
「太陽王・天翔閃────ッ!!!」
太陽を模した盾から凄まじい閃光とともに衝撃波が吹き荒れて、ナッセは上空へと舞うほど吹っ飛ばされ、服がビリビリに破かれ、破片が散る。
「ぐわあああああーっ!!」
荒れたクレーターになった闘技場を煙幕が流れていく。
光の盾を並べて仁王立ちするヨネ王と、ズダボロにうち伏せられたナッセが床に這い蹲っていた。
「がはッ!」
吐血を床にぶちまける。
流石のサンライトセブンも言葉を失い、呆気にとられていた。
あのナッセが敗れたのだ。
ここまで得意な得物で戦うヨネ王など記憶にない。しかし圧倒的とも言える王の強さ、世界の中でも有数の実力者は伊達ではない。
「──やっぱ結果は分かりきってたんやな」
「それでも十分も戦えてたデスネ」
震えるドラゴリラに、ノーヴェンもメガネをかけ直して冷静を保つ。モリッカも気が気でしょうがない様子。
フクダリウスもほおに汗を垂らして「むう……」と唸る。
「ヨネ王様! やり過ぎですさ!」
なんとクスモが拳を振り上げ、抗議する。ヨネ王は振り向く。
「ごらん。彼は……まだだよ」
なんとか立ち上がろうとナッセは震えながら床に手を付き、腰を上げていく。ぜぃぜぃと荒い息をつきながらも必死な眼差しを見せている。
「……ナッセ君!」
「そうだ。彼はナッセ君だよ。内に秘める情熱と信念は強い」
クスモは唖然とする。何がそこまで彼を駆り立てているのか分からない。だが、彼からはひたむきな強き意志が感じられる。アクトも静かに成り行きを見守っていたが、彼もまた心情を察しつつある。
「まだ……まだ!」
二の足で立てたナッセは苦しい顔ながらもヨネ王を見据える。
サンライトセブンは騒然する。どこにそんな力が残っていたのか信じられない。そんな小さな体に底知れない何かが秘められているのを感じる。フクダリウスは僅かに驚きの表情を見せる。そこまでの根性があるとは思ってもいなかったからだ。
「ナッセ……」
初めて会った時の心証は良くなかった。我が国の事情を勝手に知っている小僧、としか思ってなかった。なのに、なぜ己の感情が昂ぶってくるのか自分でも不思議だった。
「行く……ぞ!!」
地を蹴る。が、力なく前のめりに体が沈む。
「ナッセ────ッ!!」
叫びながら走り出したリョーコがナッセの倒れる身を受け止めた。
もはや意識を失っている。リョーコはどことなく熱い感情が胸に沸き、涙が溢れる。
何故だか分からないけどジーンと胸が熱くなってくるのだ。
アクトもそれを見納めて、ニッと快く笑う。その育まれる絆が気に入ったようだ。
「ナッセァ……、リョーコも自分も大切にしろよァ……?」
しかしフクダリウスは逆に顔を曇らしていた。
確かに強き情熱と信念が窺えるナッセの直向きな根性。だが、それを行うには余りにも若すぎる小柄な身体。これからも無茶を続けるだろう。
「糞餓鬼なんて、所詮こんなもの……。これで不合格は確実だ。スッキリしたよ」
オウガはせせら笑っている。
「早くするさ!! 緊急で僧侶を呼ぶさ──!!」
「は、かしこまりました」
腕を振って掌をかざすクスモに命令された兵士は駆け出して行く。
その夜。静かになった暗い城内。そして王室への扉を前にクスモは苦い顔で赴いていた。
まだ若いであろうナッセを叩き潰した事に納得がいかない様子だ。扉をノックする。しかし開いていた。不用心さ、と思いつつ入ると、目の当たりにした光景に思わず見開いた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
後ろ向きのヨネ王は壁に手をついて、床に血をぶちまけていた。
「────ヨネ王様!?」
「ふふっ……、ナッセ君。ワシにとっても希望だよ」
震えながらも笑うヨネ王。もはや余命いくばくもない。唖然としたままクスモは突っ立つしかなかった。
だからこそナッセに自分の全力を見せつけたのだ。
新しい未来を切り開けられるように、厳しい道と可能性を与えたいがために──、クスモはそう察して目を静かに伏せた。
あとがき
王様がなんかフラグ立ててるが……。




