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18話「血脈の覚醒者モリッカ!」

挿絵(By みてみん)


 ナッセは落ち着くように息をつく。


「──このサンライト王国にも何人かいる“血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)”の一人だよ」


 名指ししないナッセに、モリッカは安堵した。同じメンバーであるコンドリオンもそれを察して笑む。


血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)ってなーに?」


 ぐいぐいと裾を引っ張るリョーコは素っ頓狂顔で聞く。


「それは、とある強いトラウマを負った時に発症する。スキルと言うよりは生態に部類されるもので、体の一部のように発動できる。強力過ぎて正式試合では参加を禁じられているほどだ。……まぁ、発症者に内気な人が多いから積極的に挑戦する事はあまりないかな」

「発症者って……。まるで……」

「ああ。精神病の一種だからな。重症化すれば見境なく発動して被害が出る事もある。国一つ滅ぶケースもあったほどだ。だから奴隷制度やカースト制度はとっくの大昔に廃止された。更に言うなれば人間同士の戦争も国際協定で禁止されている」


 唖然とする一同。コンドリオンも唾を飲み込む。

 アクトは依然と落ち着いた様子で聞き入っている。

 彼が話した通り、国同士での戦争は長年起きていない。それでも軍事が存在しているのは魔王やモンスターに対する防衛がほとんどだ。

 もし他国に侵略しようもんなら大量発生した血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)に返り討ちにされてしまう。


「コンドリオンの象に変態する力も()()かもしれない」


 ナッセが視線を送ると、一同もコンドリオンへ視線を注ぐ。ドラゴリラも「すまんかったな」と後頭部を掻く。


「いや。僕はもう大丈夫」

「それなら良かった。まぁ、ある程度の年齢に達すれば重症化する事は滅多になくなる。だから安心していい」


 ナッセは真顔でそう告げ、それを聞いたコンドリオンは安堵する。

 モリッカはそんな彼を信用していく。ちょっと見透かすような取っつきにくくて、あまり笑わない人間と思っていたが、言葉に暖かみはあった。

 それに自分を追求されるところを、わざわざ別の話に変えてくれたのだ。そして彼もまたその発症者なのだろうと思い始めた。


「あなたも血脈の……」

「いや、オレは妖精の種(フェアリー・シード)だ!」

「ふ、妖精の種(フェアリー・シード)!!?」


 この場にいた一同はざわめく。だがナッセは真剣な顔だ。


「それ、妖精の種(フェアリー・シード)を埋め込まれて不思議な力を持った人ですね……。だから、その髪と目がそうなんですね」

「ああ」


 モリッカの言葉に、笑みながら頷く。リョーコは呆気に取られる。確かに輝くような白銀と瞳は異質に感じる。今はいつものより瞳が滲むように光ってるように見えた。


「オレには“転生できる能力”がある」


 騒然とする一同。アクトは眉を潜める。

 だがナッセは相変わらず真剣な表情だ。誰もが言葉を失う中で、更に話を続けた。


「故に何度も前世を繰り返した。だからサンライトセブンの事もよく知っている。そしてその先の未来も大体知っている。コンドリオンとドラゴリラを止めようとここへ来たのは、それが理由だよ」

「……マジもんかいな?」


 ナッセに振り向かれて、思わずドキッと驚くドラゴリラ。


「ああ。止めなければドンイ王国を帝国に攻め込まれて全滅する。何しろ戦えるのが実質コンドリオン、ドラゴリラ、フクダリウスのみしかいないからな。オウガも後に向かうが帰らぬ人になる」


 腰を抜かして床にへたり込むコンドリオン。

 慌ててドラゴリラはしゃがみこんで介抱する。リョーコもナッセの動機に納得がいった。死なせたくなかったから、今日の内に動いたのね。

 ただ気になるのは、笑った顔を見せていない。心配させまいと愛想笑いする事はあるけど、楽しそうに笑うとか一度も見た事がない。つまり滅びの未来は確定しているっていうの!?


「大切な人の死を多く見てきた。だから今度こそ止めたいんだ!」


 ナッセの切羽詰まったような強い口調に、リョーコは思わず身を竦ませた。


「……信じられるか! 糞が!」


 なんと水浸しで憮然とするオウガと一緒に、ヨネ王様がこちらへ歩んで来ていた。思わず一同に緊張が走る。


「よ、ヨネ王様! もう会議は終わったんですか!?」

「ああ、モリッカ君。おかげで肩が凝ったよ。さて……」


 優しい笑顔のヨネ王はナッセへ振り向く。

 相変わらずの優しそうな目にナッセは懐かしく感じた。世界が滅んでからしばらく孤独で生涯を過ごして来た彼にとって何もかもが暖かく感じられた。

 そしてヨネ王へと跪き、頭を垂れる。リョーコは驚く。


「突然の訪問と無礼をお許しください」

「よいよい。君は仲間と想って助けようとしたのだろう。むしろありがたい事じゃよ。これからも頼りにしてもらうかな」

「はい。ありがたき幸せです」


 頭を下げてて他の人には見えていないがナッセは悲しそうな顔をしていた。

 優しくて民にも好かれる良き王。それでも死の運命が刻々と迫って来ているのだ。


「ふむ。もう顔を上げて良いぞ。立ちなさい。……早速だが、君には入隊試験を受けてもらう」


 驚いて呆然とするナッセの様子に、リョーコは「あ、このルート初めてなんだ」と察した。


「ま、待ってください! 早過ぎませんか?」

「おや? 何をおっしゃる? 自分でサンライトセブンに入りたいと言ったのではないかね? これはチャンスかもしれないぞ? ナッセ君」


 慌てるナッセに、ヨネ王はフフフと微笑む。

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