14話「ドンイ王国を滅ぼした鳳凰!」
「そうなんや……。もうバレとったかいな」
椅子に座しているドラゴリラは観念してうな垂れた。
ナッセと出会って一悶着起きた一部始終をコンドリオンから聞いたのだ。今はゴリラの体躯ではなく優男バージョンだ。
「もういい。もう取り繕う事もない。もう僕は大丈夫だ」
コンドリオンはドラゴリラの肩に手を置き、諭した。それを見てアクトはニッと笑む。
「すみまへん……。すみまへん……。どうしても好きなドンイ王国が滅んだと受け入れたくなかったんや……」
泣き崩れていくドラゴリラに、ナッセは神妙な顔で見下ろす。
アクトはそのドンイ愛に、さっきまでの怒りは鳴りを潜めていった。赤の他人とは言えタルパでドンイ王国を具現化するほど入れ込みは凄まじいものだと認めたのだろう。
「ったく、ドンイ王国を好きになるのは構わねェがなァ……、具現化してるものにドンイ文化を誤解してるのもある。後でちったぁ教えてやらァ!」
「え!?」
もう一人のドンイ人がいる事に気付き、ドラゴリラは驚いた。
「……彼はアクト。コンドリオンと同じドンイ人だ」
「マジかっ!? まだ生き残りいたんやね〜、良かった。良かった」
ナッセの紹介で、ドラゴリラは歓喜に打ち震え嬉し泣きした。そして「うわ〜ん」と大泣きしながらアクトの股間を右手で揉み揉みしてきたぞ。
「気色悪りィわァァ! 離れろァァァァ!」
アクトは思わずドラゴリラを殴って大の字で壁にめり込ませた。
白目でピクピクと痙攣する。
「ドラゴリラは男スキーで、よく男の股間を揉みたがるんだ。女性には一切興味がない」
「うっわ! きっも!!」
「それは同意する」
ナッセの冷静な説明を聞いてリョーコはドン引き。ムリもない。
ようやく落ち着いた所で、やがてドラゴリラは椅子に座ったまま昔の話を語り始めた。
まだ幼いドラゴリラは両親のゴリラと一緒にドンイ王国へ何度か旅行していた。
ドンイ王国は陽気で明るいドンイ人が住まう所で、独特の文化で彩られているのが特徴だ。ほとんどの人は肌が濃くて、頭にターバンを巻いて、巡礼服を身につけている。食べ物はパンに似た薄い生地のモノと、カレーである。
「うわー、何度行ってもドンイ王国最高や!!」
目をキラキラさせてはしゃぐゴリラこと、ドラゴリラ。ゴリラ両親は優しく微笑む。
「やぁ、君はどこかの国の人間かい?」
なんと身なりがいい細身の少年が微笑んできた。彼こそ幼い頃のコンドリオン王子である。
お忍びで城下町に来ていたようである。ドラゴリラとコンドリオンはすぐに打ち解けたのである。そして二人は国中を回って遊んで行った。
そんな折、轟音と共に国の中心部に位置するドンイ城は一瞬にして破壊され、破片が飛び散った。
「ぼ、僕の家が……!! ああああああああああっ!!!」
コンドリオン王子は悲鳴を上げた。
そして上空へ広がる黄金に燃え上がる鳳凰。それが視界に焼き付いた。凄まじい威圧が国中を震わせた。尾っぽが一振りするだけで、凄まじい嵐が巻き起こり、並み居る建物や木々を薙ぎ散らしていく。
人々は悲鳴を上げ、吹き飛ばされていく。阿鼻叫喚の地獄絵図だった。尚も容赦のない鳳凰は破壊と虐殺を繰り返し続けて行った。
ついでにゴリラ両親も死んだ。
「コンドリオン王子さんっ!!」
嵐の最中、頭を打って血を流して気絶しているコンドリオンをドラゴリラは涙を流しながら介抱していた。
「王子様! ご無事でっ!!」
急いで駆けつけたフクダリウスは大きなドアを肩に抱えていて、それを開くとなんかズズズズと渦巻いていた。
フクダリウスはコンドリオンとドラゴリラを抱えてドアの中の渦へ飛び込んだ。
ドアはその時に破壊され、繋がらなくなってしまった。
「なんかドアの事が凄い気になるんだけどっ!?」
「細けぇ事は気にすんな」
ナッセはキリッとした顔でリョーコのツッコミに切り返す。
「……そうか。それで僕は記憶喪失になったのか……」
コンドリオンは悲しそうな顔で俯いた。ドラゴリラも俯いていて悲壮感に打ちひしがれていた。だがアクトは「鳳凰…………」と恨むように呟く。
「鳳凰ってなに?」
聞いていたリョーコにナッセは振り向く。
「帝国の四天王である紅蓮鳳凰ニメア。鳳凰の魔獣王。見た目は麗しい令嬢のようだが、自分の笑いの為に周りを踏みにじる最低な女だ。だが恐ろしく強かった」
「そいつがドンイ王国を……、許せないわね」
憤慨するリョーコ。アクトはその元凶の名を聞き、「二メア……」と歯軋りする。
疑問に思ったリョーコは眉をひそめる。
「なんか前から知ってるみたいな言い方だよね?」
「勘だ」
「そっか。勘かー。って誤魔化されないわよっ!!」
やはり納得いかずリョーコが食ってかかる。ドラゴリラやコンドリオンは頬に一筋の汗を垂らして驚いたままだ。そんなこともお構いなしにリョーコはズズイとナッセへ詰め寄る。
「まさか帝国のスパイって訳じゃないわよね?」
「いや、それはない」
キッパリとナッセは首を振る。
「ふうん。じゃあ何故? あたしには言えないってか~!?」
据わった目をしたリョーコの顔がにじり寄ってくる。ナッセも冷や汗たらたらで後退りするが、壁に背がつく。
ドン、と壁に手をつけて迫るリョーコ。
まさか女に壁ドンされるとは思わなかった。
「お取り込み中で悪いが、ちっとツラ貸せないかな? そこの糞餓鬼さん」
振り向くと、ドアの側で背もたれして腕を組んでいる男がいた。細身の男で、赤色の全身タイツ、首には短めの橙色マフラー。顔は傲慢でドングリのような細い顔型である。
「お、オウガ……!?」
「ほう? このサンライトセブン最強の俺様を呼び捨てか? 随分失礼な糞餓鬼だ! 俺様を敬って“様”をつけろ! ブッ殺すぞ!」
オウガは中指を立てて、敵意満々でナッセを睨む。
「いやだ。断る」
「あぁん!? 今なんつったぁ!?」
ヤンキーかよ、とリョーコはドン引き。




