12話「激情のコンドリオン!」
「ぼ、僕はドンイ王国の王子だッッ!!!」
葛藤を爆発させ、胸倉を握っているアクトの手を振り払い、高らかに吠えた。
「なにがタルパだっ! さ、さては貴様ら、反乱分子だなっ!?」
激昂したコンドリオンは腰から剣を引き抜く。
もしコンドリオンが「ドンイ王国へ帰る!」と言い出して、この国を出たら終わりだ。
そうなったら、そのまま帝国に襲われて殺されてしまう。止めねば……。
「落ち着いてくれ、コンドリオン!!」
ナッセは制止の手をかざすも、当人は「うるさい! うるさい!」と首を振りながら後退りしていく。
するとアクトが強めに踏み鳴らしながらコンドリオンへ向かう。
「やかましいわァ!! ドンイ王国もニセモンのタルパだし、テメェはもう王子でもなんでもねェェェ!!」
「さっきから何だよ!! 貴様に、貴様なんかにドンイ王国の何が分かる!!!」
「あァ!! 分からねェな! あんなニセモンの国なんざ知るかァ!!」
苛立ち紛れで挑発するアクトも、腰の刀に手で握り、引き抜いていく。
「我が国を侮辱するなァァァァァァァァッッ!!!」
激昂し完全に怒りで我を忘れたコンドリオンは、自らの右腕を徐々に象の鼻へと変え、うねうね蠢かせる。節目が等間隔で並び、伸縮自在、全方向屈折、と人間の腕ではなく、完全な象の鼻だ。
「変態した……?」
リョーコは驚く。
人間の腕が、全く構造の異なる部位に変化したのだ。
「ってか全身にメガネ装備してたり、ハリボテの国作ったり、異常なタフネスで流星進撃に耐えたり、象の鼻に変態したり、もう訳わかんないですけどッッ!!」
リョーコは信じられない光景のオンパレードに、絶叫せざるを得なかった。
フクダリウスはおろおろして「お、落ち着け……!」と止めようとするも、錯乱していて無駄のようだ。
「ここはオレが……」
「どいてなァ! 今度ばかりは身内の問題だァ!」
アクトは制止の腕を伸ばし、コンドリオンへ真剣な眼差しを向けた。
それを察したナッセは引き下がる。
「何が身内だッ!! 同じドンイ人と名乗るにもおこがましい!! 今ここで首をはねてくれようッ!」
「やってみろやァ……! できるもんならなァ!」
怒り狂っているコンドリオンとは対照的に、アクトはどっしりと落ち着き、得物を手に構えている。その様はサムライを彷彿する。
「象ァ、長鼻乱舞!!」
猛るコンドリオンは長い腕をしならせて振るわれる剣の軌跡は不規則に描かれていく。
めちゃくちゃに振るわれた剣の乱舞が地面を穿ち、木々を薙ぎ散らし、家をも切り裂き、破片が飛び散っていく。
「うおあああああああァッ!!!」
なんとアクトは我武者羅に剣を振り回して、ことごとく乱舞を弾き切って行く。憤怒染みた気合いを発しながら、的確に捌き切って一歩一歩間合いを縮めていく。
ナッセと戦った時もそうだったが夜叉を彷彿する鬼気迫る剣技を操る、その気迫にコンドリオンはゾクッと背筋に戦慄が走った。
「き、貴様ッ……!?」
だがアクトとて無傷ではなかった。体のあちこちに切り傷が窺え、また顔面に流血が伝っている。
それも手伝って、怒りの形相の顔がより迫力を醸し出している。
「ば、バカな……。戦いながら成長をしているのか!?」
戸惑うコンドリオン。
その間もアクトは全ての剣撃乱舞を弾き散らしながら一歩一歩と歩みを止めない。ヒシヒシと伝わる彼の気迫。頑として敵の攻撃を寄せ付けない。
「だが、俺はドンイ王国の──……」
負けまいと必死に剣の乱舞を強めるが、なんとアクトはそれを弾きつつ走り始めた。
動転したコンドリオンは「象ァ、頭突き拳!!」と左手を象の頭に変えて、強烈な頭突きパンチをアクトの脇に叩き込む。
「馬鹿野郎ッッ!!」
それでも構わず、アクトは拳でコンドリオンの頰を殴って地面に叩きつけるように打ち伏せた。
誰もが興奮して「おおお!!」と歓声をあげる。
ぜいぜいと息を切らすアクトと横たわるコンドリオン、双方とも動きはない。
もはや勝負あり、と自他共にそう捉えた。
「テメェもドンイ人として誇りを持ってんなら、目の前の現実から目を背けんなァ!!!」
アクトは憤怒の形相で、手に持つ剣を地面に突き刺して怒鳴る。その迫力に人々はビクッと仰け反った。それ以上にコンドリオンは衝撃を受けたのか、眼を見開いた。
「ドンイ王国はもう滅んだんだァ!! もう故郷はねェんだよァ……!!」
「……そうだったとしたら、もう僕は……僕は……、何をどうしたら……」
全てが虚しくなり、泣きじゃくり始める。
「あー面倒くせェヤツだなァ!」
「もう僕は孤独だ。記憶すらない。思い出すら……僕にないんだっ…………」
だが、それを否定するようにアクトは無理矢理コンドリオンの腕を引っ張り上げて、抱き締めた。
「馬鹿野郎がァ……、同じドンイ人の俺がいるじゃねェかァ……!」
まるで親が子供を抱擁するかのように、深く深く抱き締めている。その温もりにコンドリオンは震え上がる。ドッと押し寄せる感情と記憶。
優しい父と母が微笑みかけて、自分を抱き締めてくれた光景が────。
脳裏に浮かんだ光景に、次第に涙が溢れて行く。
「う、うわああああああああああ!!!」
アクトに抱かれながら、コンドリオンは感情を露わにした涙を流し嗚咽した。そんな彼をアクトは優しく宥めるように背中をさすった。人々ももらい泣きしたのか、涙を拭う人も出てきた。
「もう大丈夫のようだな」
「うん」
安堵するナッセにリョーコも頷く。
フクダリウスも「だが、これでコンドリオンも自立できそうだ」と、もうハリボテに縋らずとも生きていけると胸のつっかえが取れた。




