11話「目を覚ませコンドリオン王子!」
ナッセが大技を放ち、フクダリウスを城壁にまでぶっ飛ばした。しかし頑丈な彼は瓦礫から立ち上がってきた。
「ふ、フクダリウスッ!?」
コンドリオンは唐突な事に戸惑っている。
フクダリウスの全身にあちこち血が滲んでいるが平然だ。
「グフフッ! ここまでとは……大したヤツだ……!」
そんな彼にコンドリオン王子は安堵する。
「続けるかぞ?」
「いや……いい。もう十分推し量れた。お前はかなり強い。続ければきっと長引く。街中でやり合うと被害が大きくなる」
「ふう……、そう言ってくれて助かる」
「だが、お前はドンイ王国がタルパだと知り、わざわざ来た理由を聞かせてくれんか?」
「ああ」
話の分かる人のようで、ナッセは杖から光の刀身を消した。フクダリウスも頷き、戦斧を背負った。
しかしコンドリオン王子は戸惑うまま。
「待ってくれ! フクダリウス……一体どういう事なんだ……!?」
「王子殿……」
象から降りてフクダリウスへと恐る恐る歩み寄っていく。
ドンイ王国の秘密だの、タルパだの、聞いていると自分の信じてきたものが崩れそうな不安があった。だが、ナッセは優しく肩に手を置く。
「責めないでやってくれないか? 不器用な彼なりのやり方でもあるんだ」
「でも……殺されかけたのに……?」
ナッセは少し首を横に振り、優しく微笑む。
「とある悲劇で記憶喪失になったあなたを守ろうと必死になっただけだ。気にしないさ」
コンドリオンは自分が記憶喪失だと言われ、顔を強張らせた。
その様子を見て、ナッセは集まってる民衆にも見渡す。
「ここは人が多い。別の静かな場所で話をしよう」
「うむ……」
フクダリウスも承諾するが、いてもたってられないコンドリオンはナッセに問いかける。
「いや、ここで話してくれ」
「し、しかし……」
躊躇うナッセの両肩に手を置いてコンドリオンは快く笑ってみせる。
「僕は王子だからね。何があっても取り乱さないさ。……だから本当の事を聞かせてくれ!」
ナッセは一抹の不安を感じて頬に一筋の汗を垂らすが、一息をついて間を置く。
フクダリウスを見やると無言で首を振られた。
「……分かった。本当の事を話そう。実は故郷であるドンイ王国はもうとっくに滅ぼされている。生き残りのドンイ人はあなたとアクトで二人のみ」
「そんな事はない。我が国にはドンイ人がたくさんいる!」
だがナッセは首を横に振る。
「残念ながら、あれは建物含め全部ドラゴリラの想像から生まれたタルパだ。なにか違和感なかったか?」
コンドリオンはハッとする。
ドンイ王国の人間は笑いながら、毎日“同じ日課”を繰り返していた。
朝起きたら、家から出てきて笑いながら道を歩き始め、同じ人が商売と仕事を始める。
昼になれば笑いながら行ったり来たり歩き続ける。
晩になると、笑いながら家へと帰って行く。酒場でも昨日と全く同じ人が宴で笑い、歌い、踊る。思い当たる節がありすぎる。
「笑ってるだけでどの商売なんざ形ばっかだァ。ドンイ通貨にも反応しねァ。だから頭にきて殴り飛ばしたのに、周りの人はヘラヘラ笑ってて総スルーだぜァ? ゲームのキャラかァ?? っち!」
アクトは苛立って舌打ちする。
「争いのない平和な国だ……、当然だろう…………?」
わなわな動揺が絶えないコンドリオン。
周囲の人々も「そう言えばそうだよな」「レストラン行っても注文聞いてくれないし」「ドンイ王国って中身ないよな」「そうそう。最初っから存在してないんじゃ?」と飛び交い始めた。
「違う! 違うっ!! 我が国はちゃんと文化があって長い歴史がっ……!」
アクトはうんざりして頭を掻き乱す。ナッセは続けて真実を突きつける。
「たくさんのドンイ人がいるのに、食事はフクダリウスが持ってきて二人きりで食べている。変だと思わなかったか?」
王族、貴族、召使い、民衆はウロウロ回遊したり、愛想笑いしたり、会釈するのみ。決まったセリフだけで会話ができない。
だから掃除や料理などの家事はフクダリウスが全てやっていた。
コンドリオンは震え上がり、首を横に振って後退りしながら「う、嘘だ! 嘘だ……」と呟き始めた。
アクトはズンズン迫り胸倉を掴み上げる。
「ショックなのは俺だァァァ!! 何もかも失ったァァァァ! その頼もしい闘将やハリボテに囲まれているだけ、オメェは恵まれてるんだぞァ!?」
そう言ってアクトは、俯いているフクダリウスを指差した。
「う……うそだ…………!」
ガタガタ歯を鳴らして震え上がるコンドリオン。
突然知らされたドンイ王国の滅亡と、自分と同じドンイ人との出会い、そして更に自分の収める国がただのハリボテだった事を思い知らされ、混乱していて頭に理解が追い付かないのだ。無理もない。
「ハリボテでもドンイ王国作ったドラゴリラって一体何者なのよ!? 幻術使い?」
「まぁ、確かにタルパは幻術に部類するが……」
困惑しているリョーコの問いにナッセはそう返す。
だがドラゴリラの事をどう説明すれば良いのか、やはり言葉に詰まる。
「ぼ、僕はドンイ王国の王子だッッ!!!」
葛藤を爆発させ、胸倉を握っているアクトの手を振り払い、高らかに吠えた。




