侵される内と、滲む月
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「逃がさない、逃がさないわよ……わたしの手で直接、ズタズタにしてあげる……!」
女がドーラを押さえ付け、瞳を覗き込む。同時に股百足達が活発に動き出し、緩んでいた手足の拘束を再び固めてゆく。
「わたしがアンタを、その綺麗な顔も身体も全部ぜーんぶ、引き裂いて外からも中からもぐちゃぐちゃに、壊してあげる……! ふふ、ふ、ふふふふふ……!」
女の髪から瞳から、ボロボロと百足が降る。ドーラは唇を引き結び口内への侵入を阻止するものの、小さな百足達は肌を這い回り纏わり付く。
粘液を帯びた百足が這った後にはびりびりとした痛みが残り、筋となってドーラの白く滑らかな肌を赤く染める。耳に、鼻に、目に潜り込もうとする百足を激しく頭を振って追い払おうとするも、次から次へと押し寄せる百足にドーラの髪が、肌が、徐々に浸食されてゆく。
「良い格好だわ、ふふ。これからもっと素敵にしてあげる」
百足の武器と一体化した右手を持ち上げ、女が笑う。不定型に蠢くその腕の中からずるり、と大きな百足が姿を現した。腕ほどもある太い百足の顎は鋭く、刃物のように煌めく。女が無造作にそれを振るうと、ドーラの上着が一気に引き裂かれた。
「──ッ、う、んんん……!」
思わず上げそうになった悲鳴を押し殺し、ドーラがくぐもった呻きを漏らした。続けてビスチェまでも斬り裂かれ、ドーラの胴体の前面、白い柔肌が外気に晒される。輝くような瑞々しい肌は羞恥と満ちる瘴気に震え、怒りと嫌悪で薄く火照り桜色を帯びた。
「この若くて染み一つ無い、傷の一つも無い肌。これをわたしと同じに、いやわたしよりもっと酷いものにしてあげる。傷だらけのズタズタにしてあげる」
楽しくて仕方が無いといった様子で女は言葉を紡ぐ。露わになった首筋に、乳房に、腹に百足達が取り付き、その白を汚らしく彩ってゆく。ドーラは余りの嫌悪についに耐え切れなくなり、銀の瞳からボロボロと涙を零した。
女はニタニタとその涙を嗤いながら、更に衣服を剥いでゆく。鋭い百足の顎がキュロットを、レースで縁取られた可憐な下着を切り裂き、いよいよドーラの女の部分は全てが曝け出された。
赤黒い瘴気の満ちる風景の中、ドーラの白い肌だけが、地上の月の如く輝いて見えた。
「こんな、雌犬の癖に生娘みたいに綺麗な身体して、男を知らないみたいな顔をして……。わたしが中も外も全部犯して侵してあげる。裏返すみたいに全部暴いてあげる!」
女は既にドーラの身体から退いていたが、強くなった百足達の拘束でドーラはもう手足の自由が利かなくなっていた。恐怖に震え涙を零す百足まみれのドーラは、あたかも前衛芸術のオブジェか露悪的な絵画のようだ。
そして女は動けないドーラの脚をゆっくり押し広げた。股奥までもが晒されて、恐怖にドーラの目が見開かれる。
「ねえ、今からコレでアンタの中をぐちゃぐちゃにしてあげるから。よーく見てて?」
微笑んだ女の下腹部。そこには、戦っていた時に使っていた剣のような、百足で出来た棒状の物がそそり立っていた。
まさか、とドーラは恐怖に顔を引き攣らせる。女は酔っているかのように上機嫌で、ドーラの腿を抱えその百足の杭をまるで男性がそうするように、ドーラの股奥に宛がった。
「──いい声出、鳴くといいわ。たっぷり聞かせて、アンタの悲鳴」
まるで睦言を囁くかのように、女が言葉を零した。思わずドーラは引き結んでいた唇を震わせる。カチカチと鳴る歯の隙間から小さな百足達が口内に忍び込むが、より大きな危機を前にして、その程度はもう既に些細な事と成り果てていた。
「い、嫌、そんなの、嫌だ、入れないで、嫌、やめてぇええ……!?」
女はニタアッと嗤うと、──腰を、前身させた。
「──ひ、い、や……」
みちみちと、百足の蠢き絡まり合う棒が、ドーラを割り開く。無理矢理にこじ開けようと、ぎちぎちと強い圧が掛かる。びちびちと尖った脚に引っ掛かれ皮膚が肉が裂ける。
「嫌、嫌、いやいやいや駄目ダメぇ入って、来ないでええぇええっ!」
それは痛みと屈辱だけではない。恐怖と嫌悪と、そして絶望。外身どころか中までも百足に、無数の毒虫に侵されるという行為に対する、根源的な負の感情。
押し開かれる、激痛を伴い、容赦無く潜り込んでくる。そしてついに──。
──ぐぼり。
「っ、あ、あっがああぁあぎゃああぁああああっっ!?」
長さも太さもほぼ女の肘から先と同等の杭が、ドーラの体内に飲み込まれる。赤が、決壊したかの如く一気に噴き出す。
絶叫を上げ喉を反らせてドーラが痙攣する。ビクビクと跳ねる身体にのし掛かり、女は愛おしそうにドーラの耳許で囁いた。
「あらあ、入れただけでイったの? そんなに痙攣して、感じ易いのねアンタ。それにイイ悲鳴ね、ホラもっともっと鳴かせてあげる!」
「ち、が……ぐ、おああぁっ、やめ、動か、ないで……! ひっぎ、いぎゃああぁあ! あっ、がああが!」
女が腰を動かす度に、内部がズタズタになってゆく。掻き回されて赤と黒と黄と桃色の入り交じった汚濁が、零れた百足が、音を立てて溢れ続ける。
一方で内部に入り込んだ百足達が身体を食い荒らし、じくじくとドーラを苛んだ。外側では群がる百足達が噛み、掘り、潜り込んでドーラを真っ赤に染めてゆく。
「ひぐっ、ぅあ、あ、あぐぅううああぁああああ! やめ、もう、やめて、嫌ああぁあ!」
女が動く度に掻き出される赤と桃色の量は増し、ドーラの口からは涎と共に血も多く混じり始めた。耳から入った百足が、痛みと不快感と吐き気を与え続けている。口や鼻から侵入した百足立ちも苦痛を与え続け、灼けるようなじくじくとした痛みが思考を鈍らせた。
──このままでは、私の全てが削り取られて、堪えきれずに私の心は乗っ取られてしまうだろう。
汚泥の中を泳ぐように思考が重い。死ねない事が仇となってドーラの苦しみをより長引かせ、回復し続ける身体が呪いのように新鮮な苦痛を生み出し続けているのだ。いっそ意識を手放せたならば、眠っている間に全てが終わったかも知れない。しかし断続的な苦痛と嫌忌がより意識を鮮明に保ち、地獄のような現状を眼前に突き付ける。
「うっぐ、ひ、ぎゃあ、ぐ、あ、っおお……ごぼっ、ご、げほっ、ぐ、う、うええぇえええっ!」
何度も激しく突き上げられ、圧迫された内臓が痙攣し、耐え切れずにドーラは吐瀉物を噴き出した。異臭のするどろどろの内容物の中に赤い血がマーブル模様を描く。胃が空になっても嘔吐感は治まらず、耳奥を苛む不快感で生まれた眩暈も相まって、ドーラは何度も胃液と血を吐き出した。
「ふふ、あっはは! 綺麗な顔がゲロと鼻水と涙でべちゃべちゃじゃない! ふふ、そうだわ、吐くの苦しいでしょ? もう吐かないように栓をしてあげる」
滲む視界の中で女が嘲笑う。何を、と思う間も無く、胃液と血が尚も零れる唇に、ずぼりと何かが入り込んだ。
それはおよそ、バナナよりも太さのある大きめの百足だった。それが唇を乗り越え、のたうち蠢きもぞもぞと口内はおろか喉へと潜り込んで来る。苦しさに喉が痙攣するも吐き出せず、それどころか喉を塞ぐようにより奥へ深くへと進み、長い胴はびっちりと喉を埋め尽くした。
「っ、お、ごおおおお……っ、っう、お、……っ!」
悲鳴を上げるどころか満足に息も出来ず、ドーラは身をのたうたせ苦しんだ。太い百足はみっちりと口内を満たして噛み切る事も困難で、辛うじて脚で出来た隙間を通る空気を必死に吸い込んだ。呻きと共にひゅうひゅうと喉が鳴る。
ああ、もう駄目だ。私は、此処で朽ちるかも知れない──。ドーラはより重くなる思考の中で、絶望に堕ちそうになる。
助けて、……所長──。
心の中で呟いた最後の瞬間、──涙で霞む視界の中で、紅い月を斬り裂くように濃銀の神気が閃くのが視えた気が、した。
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ドーラちゃんの悲劇、ここに極まれり!
如何でしょうか、百足棒。
さてここからどうなってしまうのか。
次回も乞うご期待、なのです!
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