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「――――うむ。思った以上に崩落の速度が速いな」

「いや……はぁ……はぁ……何で……はぁはぁ……そんなに……はぁ……はぁ……冷静なのよ!?」


 迷宮が謎の男の手により殺されたことで、俺たちは迷宮の転移装置を使うことができず、走って入り口まで戻っていた。

 俺としても、転移装置を使いたいのだが、使えないのだから仕方がない。

 だが、そんな俺たちの事情など知ったことではないと言わんばかりに、俺の腹は空腹の主張を続けていた。落ち着け、我が腹よ。


「ぎゃああああ! 今、俺っちの真後ろが崩れたああああ!」

「さ、さすがに走りっぱなしは、キツイんだけどね! 討滅者ってみんなこんなに大変なの!?」

「んなワケないでしょ!? こんなのイレギュラーよ! 迷宮が殺されるとか、不審人物が出てくるとか、そうそうあってたまるもんですか!」

「そ、そうだよね! 安心したぁ」

「いや、リオン! 俺っちたちまだ迷宮出れてないからね!? 安心するのはせめて無事に迷宮を出れてからにしてくれ!」


 結構な時間走り続けているので、ミリアたちの体力が心配だったが、そこは討滅者を志す者たちだ。思いのほか余裕そうである。

 この間転校してきたばかりのリオンも、何とか俺たちのペースについてこれているので今度ある野外学習は戦闘面や体力面ではあまり心配はないかもしれないな。

 そんなことを考えながら走っていると、遂に迷宮の崩落が俺たちに追いつき……否、追い越した。


「ウソ、あとちょっとなのに!?」


 なんと、俺たちの進路上の天井が崩落したのだ。

 その結果、道は塞がれ、先に進むことができない。

 今こうして走っている間にも後ろからも崩落は迫って来ており、立ち止まれば生き埋めになってしまうだろう。


「ちょっとどうするのよ!?」

「み、ミリアは吹き飛ばせねぇのか!?」

「無茶言わないでよ! ここから入り口までの落石全部を吹っ飛ばせるわけないじゃない!」

「これは……詰んだ、かな……?」


 ミリアやエドガー、そしてリオンも冷や汗を流し、目の前の光景に絶望の表情を浮かべている。

 まあ――――。


「普通に通るがな」

「「「………………へ?」」」


 俺は【折れぬ剣】を無造作に振るうと、その衝撃で前方の崩落していた天井の瓦礫が一気に吹き飛ばされた。

 しかも、またその瓦礫で進路をふさがれないように、ちゃんと細かく砕いている。


「これで問題ないな」

「本当にアンタ何なのよ!?」


 この時代に目覚めてから、やたらと似たような質問を多く受けるな。俺は俺だというのに。


「それよりも、早く行くぞ。俺の腹が限界だ……」

「腹の心配じゃなくて命の心配してくれる!?」


 俺がいるのだから、ミリアたちの身は安全なのだが……まあ言ったところで信じられぬだろうから、黙っているが。

 そのまま俺たちは走り続けると、遂に入り口の光が見えてきた。


「や、やった! 出口よ!」

「よ、よっしゃあああああ!」

「こ、これで終わりなんだね!」


 出口が見えたことで助かった気になっている三人。

 このままだと妙な失敗をしそうで怖いが……そこは俺が殿を務めることでカバーしよう。

 そんなことを考えていたが、ミリアたちは特に最後の最後でミスすることもなく、無事に迷宮の外に出ることができた。


「「「うわあああああああ!」」」

「ふん」


 俺たちが出た瞬間、すさまじい勢いで迷宮の入り口が崩れ落ち、砂煙や瓦礫の破片が俺たちを襲う。

 そのすべてを地面に座り込んで動けない三人の代わりに、【折れぬ剣】を一振りすることで斬り払っておいた。

 必死に空気を求め、喘ぐ三人は、その場に倒れる。


「い、生きてる……私たち、生きてるわ……」

「俺っち……こんなに空が素晴らしいものだって初めて知ったぜ……も、もう石の天井は嫌だ……」

「ぼ、僕も……しばらくは動きたくない……」


 各々がたった今、崩れていった迷宮に対して感想を口にしていると、迷宮に慌てた様子で近づいてくる人の気配を感じた。


「な、何が起きたんだ!?」

「なっ……迷宮が!?」

「どうなってやがる!?」


 

 やって来たのは若い男たち三人で、それぞれがセオルドやミリアの持っているプレートを首にかけているため、恐らく討滅者なのだろう。

 どうやら我々と同じく【獣の迷宮】を利用しようとしていたようだが……生憎、たった今崩れ落ちてしまった。

 彼らは崩れ、もう使えなくなった迷宮を前に呆然としていたが、すぐに俺たちに気付くと、すさまじい形相で詰め寄ってきた。


「お、おい、何があったんだ!? 天使の襲撃か!?」

「何があったか説明しろ!」

「えっと……その……」


 ミリアたちが討滅者の男たちの勢いに気圧され、口ごもっているため、ここは俺が話すことにしよう。


「いいだろうか」

「あ? って……よく見ると、お前ら【ラグナロク】の生徒か?」

「うむ。ただ、そこの少女……ミリアは、そなたたちと同じく討滅者だ」

「は? ……あ、本当だな。ってことは、お前らはそこの女の子と一緒にこの迷宮に来たってことか?」

「そういうことだ。ただ、ここから先の話は少々込み入った話になるのでな。できることならばそなたたちの上司と話がしたい」

「じょ、上司と話って……」


 駆けつけてきた男たちは顔を見合わせると、リーダーらしき男の一人が頷く。


「わ、分かった。正直、俺たちじゃ手に負えねぇ……今すぐ討滅院に連絡するから、お前らも待っててもらうぞ」

「うむ」


 男は一言断りを入れ、俺たちにそう言うと、懐から手のひらサイズの薄い板状の物体を取り出し、耳に当てて会話を始めた。どうやら、遠くの存在と会話するためのカラクリらしい。そのようなモノもできているのだな。

 さて、これで討滅院とやらの上層部か来ると思うが……。

 俺は残った男たちとミリアたちに向け、一言告げた。


「すまない」

「は?」


 俺の発言に男は呆気にとられた様子だったが……。


『ぐぅぅぅぅぅぅぅうううううう』


 最後に盛大に腹が鳴った後、俺はとうとう耐え切れず、そのまま倒れた。


「限……界……だ……」

「え、ちょっ……ウソでしょ!? ここでそうなるの!?」


 少し休んだことで体力が回復したミリアが何やら言っているようだったが……もう気が遠のいている俺の耳には、届かなかった。

 ただ、薄れゆく意識の中で、俺は一つの決意をする。

 次、遠出するときは、必ず食料を持って行こう……と。

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