第四話 二.頑なに拒む理由
翌日の夜のこと。気温がなかなか下がらず、冷たい生ビールが恋しくなるような、そんな蒸し暑い熱帯夜だった。
オレは夕食を兼ねて、「串焼き浜木綿」を訪れていた。平日の夜ともあって、エアコンの冷気が充分に行き渡るほど店内は閑散としている。それもそのはずで、お客と呼べるのは寂しくもオレ一人だけだった。
「マサくん、いつも悪いね。ウチの売上に貢献してもらっちゃって。」
「気にしないでください。こう暑い日が続くと喉が渇いちゃって。ついつい、生ビール飲みたさにやってきちゃうんですよね。」
ここ浜木綿を切り盛りする、もう一人の従業員の紗依子さんは食材の買出しに出掛けていた。そのため、オレはマスターと二人きりで他愛のない世間話をしていた。
「はいよ、串焼きお待ちどうさま。」
冷えた生ビールのお供に、焼きたての串焼きををいただく。ちょっぴり寂しかったが、オレはそれなりに楽しいひと時を過ごしていた。
「・・・ジュリーさん来るかな。」
オレがここへ来た理由はもう一つあった。アルバイトの帰り際に、よくここへ立ち寄るジュリーさんに会いたかったからだ。
偶然にもオレは昨日、ジュリーさんがかつて所属していたジャズバンド「ローリングサンダー」の関係者と出会っていた。その関係者とは、「パンジー楽器店」というお店を営む店主でもあった。
ジュリーさんがバンドを辞めてからまだ一度も会っていないそうで、できることなら、昔のように交流する機会を持てればと、その店主は寂しそうに打ち明けていた。
その店主の望みに応えるため、オレはジュリーさんに直接会って話をしようとしていたが、タイミングが悪かったのか、ここまで彼女に会うことができずにいた。
「マスター。ジュリーさんって、今夜来ると思います?」
「ジュリーかい?・・・そうだねぇ、二日に一回ペースだから、今夜は来るんじゃないかな。」
時刻は夜8時を過ぎたあたり。ジュリーさんが来店するならそろそろだろうと、マスターは店内の時計を見ながらそう答えてくれた。
ジュリーさんの来店を心待ちにしながらも、腕時計のデジタル表示を気にしつつ、オレはマスターとの雑談を続けていた。
「お、いらっしゃい!」
新しいお客の来訪と気付くや否や、条件反射のごとく、マスターが威勢のいい声を張り上げた。オレも反射的に、引き戸のある方へ顔を向ける。
暖簾を潜って来店してきたのは、ノースリーブから露出した肌にブロンド髪を垂らした、青色の瞳を持つすらりとした女性だった。
「ハーイ、マスター。ヒマだと思って、来てあげたわヨ。」
「ははは、言ってくれるな、おい。ささ、こっちに座りなよ。」
待ち望んでいたジュリーさんがやっと来てくれた。彼女はマスターに挨拶しながら、オレの座るカウンター席へと近づいてくる。
一人ぽつんと腰を下ろしているオレを発見すると、ジュリーさんは目を見開いて驚いていた。
「Oh!マサじゃない。珍しいわね、一人で飲んでたノ?」
「はい。オレもジュリーさんと同じですよ。このお店の売上貢献のためです。」
オレたち三人が揃って顔をほころばせると、ひっそりとしていた店内が和やかな雰囲気に包まれていった。
ジュリーさんはオレの隣に腰掛けると、いつものヤツとばかりに、焼酎の水割りと鮭のハラス焼きを注文する。今更ながら、異国生まれの人とは思えないオヤジくさいオーダーである。
焼酎の水割りを手にしたジュリーさんと、生ビールを手にしたオレはささやかな乾杯をした。
「ふぅ、おいしいワ~。」
唸るような声で息を吐き出したジュリーさん。オレはますます、彼女が外国人に見えなくなってしまう。
「それはそうヨ。わたし、生まれは向こうだけど、育ちはニッポンだもの。フフフ。」
そう微笑しながら、ジュリーさんは嬉しそうに焼酎の味に酔いしれていた。
しばらくしてから、注文していた鮭のハラス焼きが仕上がってきた。それをおいしそうに食べながら、ジュリーさんはアルバイト先での苦労話を口にしていた。いつもの彼女らしく、わがままな言い分も目立ってはいたが・・・。
そんな苛立ちを吐き捨てるも、ジュリーさんはどこか楽しそうだった。おいしいお酒と料理、そして、話し相手に囲まれることで、心に溜まったストレスを発散していたのかも知れない。
「あの、ジュリーさん。ちょっとだけ話していいですか?」
そろそろ、伝えるべき話題を切り出そうと、オレはタイミングを見計らってジュリーさんに声を掛けた。
気分も上々で、にこやかにOKと返事したジュリーさんに、オレは昨日の出来事について語り始める。
「いきなりなんですけど、パンジー楽器店の店主のこと、ご存知ですよね?」
「・・・え?」
その店主に偶然出会ったことを伝えると、ジュリーさんはかなり動揺したようで、その表情は明らかに強張っていた。
「その店主、ジュリーさんが昔所属していたバンドの関係者だったんですね。あまりの偶然に、オレびっくりしちゃいましたよ。」
黙りこんだまま、お酒を口に含んでいるジュリーさん。そんな彼女の顔色を伺いつつ、オレは話を続ける。
「お互い、ジュリーさんの知り合いってことで、いろいろとお話してきました。店主、とても人当たりがよくて、落ち着いた感じで格好いい人でしたね。」
ジュリーさんはいきなり手を突き出して、さらに話を続けようとするオレを制止しようとした。
「・・・マサ。何が狙いか知らないけど、首を突っ込みすぎるの、よくないことヨ。」
目を細めながら、ジュリーさんは冷たく言い放った。過去を掘り返されることに、彼女は警戒感を強めているようだ。
目的や狙いではなく、ただ店主と出会ったことを話したかっただけと、オレは真摯に釈明してみたものの、ジュリーさんは簡単に警戒を解いてはくれなかった。そこまで神経を尖らせるとは、余程触れてほしくない秘密があるのだろうか。
「最後に一言だけ言わせてください。・・・ジュリーさんにとても会いたがってました。バンドを離れてから時間も経ってるし、もう過ぎたことと割り切って昔話でもしたいって。・・・店主はそう言ってました。」
ジュリーさんはそっと目を閉じて、焼酎の入ったグラスをテーブルの上に置くと、沈黙の時間がカウンター席を包み込んでいく。
オレたちの周辺に漂う物々しい雰囲気を察してか、マスターは素知らぬふりをしながら固唾を飲んでいるようだった。
ジュリーさんは吹っ切れたように微笑しながら、重たい口を開いて長い沈黙を破った。
「・・・彼、元気だっタ?」
「はい。店主もジュリーさんのこと、元気か?って心配してました。」
カウンターに肘をついて、ジュリーさんはうつろな目で遠くを見つめている。その視線に先には、輝いていた頃の思い出でも映っていたのだろうか。
「彼から聞いてると思うけど、わたし、身勝手な都合でバンドから離れていったワ。だから、バンドのみんなに、とても許してもらえるワケはないヨ。」
ジュリーさんをどう励ましてよいかわからず、オレは口を閉ざしたまま、彼女の悲しげな横顔を見つめるしかできない。
「わたし最低よネ。・・・わたしのこと、職に就かずブラブラしていたわたしを、彼は拾ってくれたのに、その恩を仇で返してしまったんだからネ。」
その時、俺の頭の中に一つの疑問が湧いた。ジュリーさんの話では、彼女をスカウトしたのは確か、バンドのリーダーだったはずだ。
「拾ってくれたって・・・。もしかして、ジュリーさん、あの店主にスカウトされたんですか?」
「そうヨ。彼はドラムス担当で、ローリングサンダーのリーダーだからネ。」
その事実に、オレは思わずびっくりしてしまった。あの初老の店主がまさかバンドマンの一人で、しかもバンドのリーダーだったとは思いも寄らなかった。
「あなた、彼のこと誰だと思ってトークしてたのヨ?」
「あ、その・・・。関係者だから、バンドのマネージャーか何かかと。」
恥ずかしさのあまり、消え入りそうな声でそう答えたオレ。それを聞いて、ジュリーさんはクスクスと小さく笑っていた。
「それは失礼な話ネ。リーダー、とってもすごい人なのヨ。」
ジュリーさんが言うところのパンジー楽器店の店主とは、アマチュアのジャズ界では名の知れた人物とのことだ。
ドラムの腕前はさることながら、楽曲を作ったり楽器の調律も巧みにこなすそうで、あの店主がローリングサンダーのリーダーたる所以は、そういった非凡な才能からなのだという。
昔の思い出を懐かしむように、ジュリーさんはメンバーとして活動していた頃を熱く語っていた。
「わたし、リーダーやバンドと出会ってなかったら、人生が大きく変わっていたでしょうネ。」
物思いに耽るジュリーさんは、どこか寂しそうで、やり切れなさを顔に浮かべていた。彼女はまた昔のように、バンドのメンバーたちと一緒に、大舞台でジャズソングを歌いたいのではないかと、オレはそう思えてならなかった。
「ジュリーさん。パンジー楽器店に行きませんか?バンドのメンバーみんな、歓迎してくれますよ、きっと。一人で行くのが心細かったら、オレも一緒に付き合いますから。」
オレがそう誘いかけてみるも、ジュリーさんはまた沈んだ表情に戻ってしまった。
「ローリングサンダーを辞めたわたしが、あのお店に行く資格はないヨ。・・・気持ちの整理がつかないうちは、みんなの前に顔を出すことはできないし、もう二度と、観衆の前で歌うこともないワ。」
そう心境をつぶやくと、ジュリーさんは残っていた焼酎を一気に飲み干した。いつもだったら、もう一杯とおかわりを要求するところだが、今夜の彼女はいつも通りとはいかなかった。
「マスター、もう眠くなっちゃったワ。悪いけど、これでお勘定してちょーだイ。」
いつものマスターなら、もう帰っちゃうの?といった感じで渋るが、さすがにこの空気を読んでいたのか、マスターは素直にうなづくだけだった。
ポーチの中から財布を取り出して、カウンターにお札と小銭を並べていくジュリーさん。会計を済ませると、彼女はふらっと座席から立ち上がった。
「あ、ジュリーさん。」
オレが呼びかけると、ジュリーさんはゆっくりと振り返り小さく微笑んだ。
「マサ。・・・もしリーダーのところに行くなら、わたしはもう歌えないと伝えて。」
そう伝言を残して、ジュリーさんは静かにお店を出ていく。そして彼女は、夜の帳の中へと吸い込まれていった。
店内はまた、オレとマスターの二人きりとなってしまった。重苦しい空気に圧迫されたまま、オレもマスターも口を動かすことができないでいた。
そんな暗がりの店内に明かりを点すように、元気のいい女性の声がこだました。ようやく、紗依子さんが買出しから帰ってきてくれた。
「マスター、ただいまー!・・・あら、マサくん、いらっしゃい。」
「どうも、お邪魔してました。」
よっこいしょと言いながら、食材でいっぱいのトートバッグをカウンターに置いた紗依子さん。
「すぐそこでジュリーに会ったんだけど。・・・お店寄ってかないの?って尋ねたら、もう寄ってきたところだって。ちょっと元気なかったけど、何かあったんですか?」
不思議そうに首を捻る紗依子さんに、マスターは髪の毛を掻きながら苦笑いで説明する。
「い、いやね。ジュリーにしては珍しく、一杯飲んだら眠くなったみたいでさ、あっという間に帰っちゃったんだよ。・・・ねぇ、マサくん?」
「あ、はい。そうなんです。アルバイトでお疲れだったみたいで。」
あまり核心には触れず、オレたちははぐらかすように口を合わせた。
ジュリーさんが典型的な夜型人間と知っているせいか、紗依子さんは少しだけ驚いていたが、同姓として、そんな時もあるのだろうと、自分なりに納得させていたようだ。
「さてと、それじゃあ、お仕事でも始めますか。」
調達してきた食材を片付けると、紗依子さんは着替えようと店内奥へ消えていった。
「・・・マサくん、どうする?もう一杯飲んでいくかい?」
「・・・そうですね。もう一杯だけいただきます。」
ジュリーさんのことを気に掛けつつ、オレは冷めきった串焼きを頬張り、そして冷たい生ビールをあおる。晴れない雰囲気を残す店内に、飲んでも酔えないつまらない夜が過ぎていくだけだった。
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翌日の朝、輝かしい朝日が大きな雲から顔を覗かせて、気持ちいいほどの夏空が広がっている。そんな夏空を見上げるように、庭先のひまわりが勇ましく咲き誇っていた。
リビングルームには、たまたま早起きしていたパジャマ姿の潤とあかりさんがいる。彼女たちと一緒に、オレは朝のさわやかなひと時をのんびりくつろいでいた。
いつものように、牛乳パックをラッパ飲みしている潤。あかりさんは目覚めのブラックコーヒーを嗜んでいる。二人は談笑しながら、ほのぼのとしたモーニングタイムを満喫していたようだ。
「いい天気だなぁ。今日も暑くなりそうだ。」
リビングルームの窓を少しだけ開放すると、涼しいそよ風がカーテンを押しのけて、オレの足元を優しくくすぐった。
「東京の夏がこんなに暑いとは思わなかったなぁ・・・。はぁ、涼しい田舎が恋しい。」
晴れ渡る青空を見上げているオレに、からかうような口調で潤が話しかけてきた。
「あー、マサ、もしかしてぇ。人恋しくて、おセンチになっちゃってる?」
「そうじゃないって。こんな賑やかな共同アパートに暮らしてるおかげで、人恋しくなったことなんて一度もないよ。」
オレがそう反論するも、疑惑の目のまま微笑している潤。何かあるたびに彼女は、オレのことを子供扱いするから困ってしまう。
その会話に輪を掛けるように、あかりさんまでもが淡々としながら口を開いた。
「そんなことないでしょう。管理人さんの急病で無理やり呼び出されたわけだし。時と場合によっては、親御さんが恋しくなったりすることもあるんじゃないかしら。」
唐突にも、新潟県の片田舎から離れて、ここ東京都で一人暮らしすることになったオレ。両親がそばにいない環境だけに、多少なりとも不安を抱えていることは間違いない。ましてや、保護者という立場のじいちゃんが入院中だから尚更だろう。
あかりさんの言い分に真っ向から否定できず、オレは恥ずかしながらもうなづくだけだった。
「ねぇねぇ、マサって、どんな家族構成なのぉ?兄弟とかいるの?」
いきなりそう尋ねてきた潤に、隠す理由もないオレは素直なままに答える。
「両親以外だと兄貴が一人いるよ。もう自立してるけど、勤務先の関係で今、大阪の方に住んでるんだ。」
「ふーん、そうなんだぁ。あたしはねー、一人っ子だよぉ。」
普段からの言動やわがままぶりから、言わなくてもわかってると声にしてしまいそうだったが、オレはあと一歩のところで踏みとどまった。
こういう展開になると、他の人の家族構成も知りたくなるのが心情というもの。澄まし顔しているあかりさんに、オレは同様のことを尋ねてみることにした。
「あかりさんは兄弟とか、姉妹とかいらっしゃるんですか?」
わずかに眉をひそめるあかりさん。ためらいがちに、彼女は小さな声で回答する。
「・・・いないわ、一人きりよ。」
あかりさんの答えを不審に思ったのか、向かい側にいる潤が首を傾げている。
「あれー?あかりさぁ、お姉ちゃんだったか妹だったか、姉妹がいるって言ってたよねぇ?」
「えっ!?」
あかりさんは驚きのあまり顔を強張らせていた。そんなこと言った覚えはないと、彼女は必死になって否定している。
「ちょっと前だけど、みんなで浜木綿にいた時かなぁ。あかり、かなり酔っ払っちゃってさ。その時、姉とも妹とも認めたくない女が地元にいるんだって、恨み節で叫んでたよぉ。」
真っ青な顔であたふたしながら、愕然とした様子のあかりさん。潤の証言を以ってしても、あかりさんは姉妹などいないと頑なに否み続けていた。
あかりさんはどうして、これほどまでに否み続けるのだろうか?そんな彼女のことが、オレにはとても理解できなかった。
「あかりさん。お姉さんや妹さんがいること、知られたら困ることでもあるんですか?」
「無理やり隠そうとするのおかしいもんねぇ。もしかして、知られたくない秘密でもあるのぉ?」
これ以上詮索されまいと、あかりさんは話題を逸らそうとする。この慌てぶりからして、秘密にしている何かがあるのは間違いなさそうだ。
このまま調子に乗って、さらにあかりさんを問い詰めようとした矢先、アパートの電話機がけたたましく鳴り出した。
「ほら、管理人代行、電話が鳴っているわよ!早く出なさい。あなたの役目でしょう!」
「あ、はい!」
あかりさんの尖り声に急かされて、オレは一目散に廊下を目指して駆け出した。
オレは鳴り響く電話の受話器に手を掛ける。するとその直後、リビングルームから走り去っていくあかりさんが横目に映った。まんまと彼女に逃げられてしまったみたいだ。
「あ、もしもし、お待たせしました。」
「もしもし、おはよー、奈都美だよ。」
明るくさわやかな奈都美の声が、受話器の向こうから送られてきた。それに応えるように、オレも元気よく挨拶を交わした。
「おはよう、奈都美。どうかしたの?あ、もしかして、プロテストの結果が出たのかい?」
「まだよ。だって、テストこの前の日曜日だもん。たぶん、次の土曜日には連絡が入ると思う。」
オレが自信の程を尋ねてみると、手応えはあるものの結果が出るまではわからないと、奈都美は緊張している胸のうちを明かしてくれた。
そのテスト結果のことでお願いがあるからと、奈都美はそのまま話を続ける。
「テストの結果なんだけどさ、あたしだけじゃなくて、みんなと一緒に見たいんだ。日曜日の午前中だったら、みんなアパートにいるだろうから、次の日曜日に、アパートにお邪魔してもいいかな?」
「ああ、そうしなよ。次の日曜日の午前中、なるべく空けておくよう、オレからみんなに伝えておくよ。」
結果がどうであれ、応援してくれた住人たちみんなと一緒に一喜一憂したい。それが、迷惑を掛けてしまったみんなへの罪滅ぼしのつもりなのだろうか。そんな彼女の健気な気持ちが、このオレにもひしひしと伝わってくるようだった。
それから少しばかり世間話をした後、さよならの言葉を交わして、オレと奈都美は電話を切った。
「電話、誰からだったのぉ?何だか、楽しそうに話してたね。」
オレが受話器を置くと、背後から話しかける声が聞こえてきた。振り返ってみると、電話の会話に聞き耳を立てていたのか、潤がリビングルームのドアから顔を出していた。
「奈都美からだったよ。この前の日曜日にあったプロテストの結果、住人みんなと一緒に見て、もし合格してたら、みんなで喜びを分かち合いたいんだってさ。」
オレがそう言うと、潤はちょっぴり嬉しそうな表情をしていた。彼女は彼女なりに、奈都美のテスト結果を気にしていたらしい。
「そっかぁ、合格だといいね、奈都美。」
「ああ。奈都美のことだから、きっと合格だよ。今度の日曜日、期待して待っていような。」
緊張感があるのかないのか、潤は大きなあくびをしながらうなづいていた。これから二度寝するからと、彼女はヨタヨタしながら二階への階段を上っていく。
そんな潤を見送ってから、いつもの掃除と後片付けのために、オレもリビングルームへと戻っていった。
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