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しなやかに

 つわものの圧……?


 殺気とか敵意とかを感じ取った……という類の感覚なのだろうか? けど、そんなものを出そうと意識していない。

 いまこの管理官(キュレイター)を威圧したって、怖がらせたって……なんの意味もないし。


「とりあえずこっちに来て、席に着いてください。そこに立ちっぱなしじゃドアが閉まらないので……」

 メイはリリアセウスと名乗った来訪者のふるまいに困惑しながら、ひとまず入室を促す。


「は、はい……っ」

 やはり、なぜかは分からないが……ようやく歩み出した女の、表情が険しい。まなざしが鋭い。

 しかしメイの顔を睨んでいるという風ではない。メイの全身に、いやメイの周囲に満遍なく意識を向けて、微かな変化も捉えようと警戒を集中させているかのような……

 それでいて、歩く姿からは大きな隙が見当たらない。外見は、あまり特徴らしい特徴のない中肉中背の女……と見えるが、同時に欠点らしき欠点の見当たらないバランスの取れた戦闘能力、技術の持ち主かもしれない……とも、メイは感じていた。



「さて、早速ですがリリアセウス管理官」

 メイは自分から少し離れた席に座ったリリアセウスへ、質問を投げかけようと……


「あ、よかったらリリって呼んでください。リリアセウスって長くて呼びにくいと思いますから」

「わかりました、そうさせてもらいましょう……まずリリさん、第一課長エステルの反乱についてはご存知ですか?」

 と、話に割り込む格好となったリリアセウスの申し出を受け入れつつ、順を追って尋ねていくことにする。


「はい、こっちに戻ってから聞いただけですけど」

「では、説明は省いて……反乱発生の前後、第四課長と同行していた貴女から当時の第四課長の言動について聞きたいのです」



 リリアセウスの答えによると……


「エステル課長に話を聞くのが先……明日から本気出す」

 とか、


「あー今日アレよぉ、調子悪い日。だから休ませて」

 とか、あれこれと……第四課長サビナはなんだかんだと言い訳をして『礎界(そかい)』に居座ったまま、何日も動かないでいた……とのことであった。


「それまでは、そんな弱音はいて休みたいとか言ったことなかったのに……あたしもドムーク姉貴たちが心配で、早く異界へ行きたかったのに……」

 また、サビナに同行していた課員達の誰がどんなに異界転出を上申しても……サビナは動かなかったという。


「最後にはキレられて……そんなに心配ならお前らだけで行きな、だけど軍令違反の処罰を覚悟しときなさい? しっかり搾り取るアルよ〜 ……って」

「取る、アル……よ……?」

 アル……ってなに? 有る? 強意表現の一種……か?


 耳にした奇妙な語尾に少し気を引かれ、メイは誰へともなく(つぶや)いていた。


「それとか、ブチ回してやんよ! とか……なんかまぁいろいろ言われながら別れました。課長とはそれきりです」

 しかしリリはその呟きを気にせず、説明を足す。



「なるほど……ありがとうございました、それだけ分かれば十分です」

「え、もういいんですか?」

 メイにとっては、ここまでリリの報告を聞けば……第四課長サビナの扱いを決めるには十分だった。


 兵力を保持したまま意図的に『礎界』に留まり、またエステルとの接触を企図していたなら……それで十分。

 第四課長サビナは、エステル側だったと見なしていいと考えられる。

 もしどこかで生き残っていて、局長(ショボー)への叛意はなかったと弁明してきたとしても……故意の業務遅延、任務懈怠(かいたい)を理由に処分してしまおう。

 そうしてしまったほうが、多分動きやすい。特に今は。


 少なくともサビナ課長は、スローニン元課長やジャム課長よりも私に協力的……とはならないはず。

 お手並みのほどはよく分からないけど、結局は反抗されるリスク、反乱の芽を残すリスクの方が問題になる気がする。


 ……と、勝手に進めるのは良くない。ペドロ課長にも意見をもらっておこう。


「私は第四課長の処分を検討したいと思います。ペドロ課長、ほかに確認事項やご質問等あれば……」

 メイは一旦、ペドロに話を振ってみる。


「いや……この件、ワタシから申し上げるべきことはないと考えますゾ」

 しかしペドロは、まるで他人事のように……メイの一存で決めるのが妥当だとでも言わんばかりに口を閉ざしてしまった。


「なぜ……? 他課の話だから、ですか?」

「局内人事の話になりそうですからナ。それは局長のお仕事ですゾ」

 ペドロはメイが何を考えているか、ある程度は予想が付いているらしい。それは構わない。

 だが、メイはあくまで局長代行であって、局長ではない。

 だから、突き放されては困る。


「だったら、なおさら……私の一存では」

「何か問題がありますかナ?」

 あくまで局長『代行』でしかないのだから、独断で局内人事を動かすべきではないはず。独断での動きは最小限、可能な限り周りの意見も考慮して……

 メイはそう考えている、のだが。


「局長さん、もしよければ、なんですけど……」

 その考えは、リリアセウスの問いかけによって一時除けられた。


「私は局長代行ですが……それでも良ければ」

「時間ができたら、いつか私や姉貴たちに稽古をつけてもらえませんか?」

「稽古? 私で良ければ、機会があれば」


 あ、マリエが聞いたら嫌がるかもしれないな……って、今日はまだ来てない。休み?


「ありがとうございます、局長! いつか、よろしくお願いします!」

「いや、だから私は代行だって……」

「フフフ、なにやら愉快なものですナ」

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