あわてずに
更新がずいぶん遅くなってしまいました。
お待ちいただいた方、待ち切れなかった方……おみえでしたら、大変申し訳ないです。
「スローニンか……顧問の経験と知見を、第四課の彼らに伝えてあげてください」
「顧問」とは言ったけど、実質的な指導者として動いてほしい。
「第四課に着任」とは言ったけど、実質的に降格人事じゃない。
だいたい、降格なんてさせてる余裕ないし。
とりあえず、形だけでも納得しといてくれるといいんだけど。
「貴女ノ差配ナラバ、従ッテミヨウ。明日、第四課ヲ訪ネル」
と、スローニンはあっさり了承の言葉を口にした。
返答しながら握り拳を一つ胸に当てて頷いたスローニンの小さな顔は、目を閉じた神妙な表情に見える。
「ありがとうございます。仮のものになるかもしれませんが、今日中に辞令を用意して電子送付しますね」
……納得したのかどうかはよく分からないけど、今回は受け入れてくれた。今は、それでいいや。
「サテ今日一日ハ、ドウシヨウカ」
「今日一日くらいのんびり……なんなら、明日の準備にでもあてていただければ」
メイは少しホッとしたせいか、スローニンへの態度も微かにくだけていた。
それがプラスに働くか、そうでないかは……分からないが。
「フム、ナラバ第四課ノ幹部候補トヤラヲ小生ナリニ調ベテオコウ。今日ハコレニテ失礼スル」
スローニンが退出して、しばらくの間メイは一人で会議室の椅子に座っていた。
それにしても、今日はマリエもペドロ課長もまだ来ない。
来るとは言ってたはずだし、いつもならそろそろ勤務時間だけど……
「失礼、遅くなりましたナ」
そう考えたときには、大抵……そのタイミングでペドロが現れる。
今日も、パターン通り。
「遅い……というほど遅れてはいないでしょう、ペドロ課長」
メイはインターホンで一声かけてから、すぐに玄関まで迎えに行った。
ペドロを招き入れて、会議室までの道中……二人はフランクに対話を交わす。
「いやなに、ワタシが遅れたために、代行どのお一人で対応していただいたわけですからナ」
「対応?」
「先ほど、外でスローニン課長の小型機とすれ違いましてナ……早くからこちらへ来ていたようですナ?」
「ご存知でしたか」
「司令部の周りには、他に用もないでしょうからナ」
「ええ、話をして……ひとまず局に残ってくれるようです」
会議室に着いて腰を下ろしても、二人は対話を続ける。
「スローニン課長には、仮にですが名目上降格……第四課の顧問として着任してもらうことにしました」
「第四課……大丈夫ですかナ? 彼は、サビナ課長とはあまり反りが合わないらしいと聞いていますゾ」
「……私は、サビナ課長はクロだろうと考えています」
メイは改めて、第九課長へ昇格した叙任式のことを思い出す。
あの時、第四課長サビナの姿はよく見えなかったが……サビナが好意的な『誓い』を唱えなかったことは分かっている。
つまり、叙任式の頃からメイや局長に何かしら反感を抱いていた……ならばエステルに同調し、先の反乱に加担するのが自然と……メイは考えている。
「それに……」
「それに?」
「仮にシロとしても……今日まで行方知れずなら、もう死亡していると考えたほうがよいのでは」
「なるほど降格の体ではあるが、実質的には第四課のリーダー……というわけですナ」
「万一サビナ課長がシロで、どこかで人知れず傷を癒やしていたとしたら……なんとか別の手を考えます」
そこまで話して、メイは苦笑いした……ところで、壁掛けのインターホンから来訪者を知らせる通知音が鳴った。
メイは着信を受けようと立ち上がり、壁側へ振り向くが……指を鳴らす音がして、同時に眼前に画像が現れた。
それに視界を遮られて、振り向いたところで動きを止めていた。
「そうそう、ここと司令室の回線に限り、空間への画像投影や遠隔操作も可能ですゾ」
「あ、はい……分かりました」
説明はありがたいんだけど、急に目の前に画面出されるのはちょっとイヤかな……
「ああそれと、ここと司令室であればエントランスから音声案内で誘導して、入室してもらうことも可能ですゾ。わざわざ迎えに行かずとも、時にはドーンと待ち構えることも必要かもしれませんナ」
「私はただの代行、そんなもったいぶる必要は……」
メイは出入り口を映す画像から目を離し、ペドロへ向き直した。
あくまで局長『代行』でしかないのだから、そんな大仰に構えて権威性を持つ必要はないだろう。いや、むしろ持つべきでない。『代行』であるためには。
メイはそう考えているが……
「そうですかナ?」
どうやらペドロの考えとは違うらしい。
「まあいい機会ですからナ……一度くらい案内機能を使ってみましょうゾ。というわけで、ポチっとナ」
と、ペドロは勝手に音声での道案内を始めさせてしまった。メイは来客の姿を確認する間もなく。
「ウロス主任に頼まれて、第四課から来ました。私、管理官のリリアセウスといいます」
しばらくして、会議室前への来客を示す通知音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します」
女声の名乗りを聞いたメイが扉を開くと、先には中肉中背と思しき人型が一人。
彼女は通されるまま、会議室へ踏み込もうとしたが……
「スゴい……なに、このアトモスフィア……」
来客は二、三歩で足を止めて……会議室と外の境目に立ち尽くしていた。
そのせいでドアが閉まらない。
……何か不快感を与えてしまったのだろうか?
と省みようとしたものの、メイにはまるで思い当たるフシがない。
「これがドムーク姉貴の言ってた、ツワモノの……圧?」




