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壊疑

 爆発の直前に届いていたものと思しき、局長(ショボー)からの個人メッセージが……浮揚艇(エアリー)の座席で揺られるメイの思考と感情をぐちゃぐちゃに乱した。


 メイは思わずメッセージを閉じて、何秒かただ呆然と身を震わせて……戦慄き声を漏らして。

 乱れきった頭で、何も考えられずに……もう一度メッセージを開いた。



****************************************************



 メイへ

 このメッセージが届いたということは、わたしはもう生きていないってことになるのかな。

 ごめんね。もういっしょにねられないね。ごめんね。

 けど許して。メイのためだから。メイに生きててほしいから。

 わたしがいなくなっても、メイには生きててほしいから。


 だから、わたしはわたしに出来ることをしておくから。

 少しでも、私たちの敵を……減らしておくから。



****************************************************



 メイには、メッセージの途中までしか読み返すことができなかった。

 いや、もしかしたら最後まで文言を表示できていたかもしれないが……後半についてはまるで知覚できなかった。




 つまり、あの子は自分の意思で……?

 自分の意思で、自ら命を捨てて……?

 己の命を引き換えにして、「敵」を?



 なんで、そんなこと……

 なんで、私を置いて……

 なんで、私を使って……くれなかったのだ。


 なんで、あの子が……命を捨ててしまったのだ。

 なんで、私にそう……させてくれなかったのだ。


 あの子が死ぬくらいなら、なぜ私を……

 私が死んででも、あの子を護れれば……良いはずなのに。

 

 なんで、私を置いて……逝ってしまうのだ。

 なんで、相談もなしに……突っ走ってしまったのだ。


 「敵」なんて、私に命じてくれれば……出来るだけでも、倒してみせたのに。


 ……「敵」…………



 なにがなんだか、わからない。

 ただ、あの子が自分の意志でこの大破壊を引き起こしたこと。

 それは分かった。


 あの子が自分の意志で、討つべき者たちを道連れにしたこと。

 それは、判った。


 私は、これから……何をすべきなのか。

 それは、判っている。

 けれど……けれど。


 あの子のいない管理局で、『礎界(そかい)』で……何をしたって……

 あの子が死んでしまったのなら、もう会えもしないのなら……

 あの子の笑顔も、真剣な顔も、いたずらっぽい声も、少し冷たい声も、甘ったるい声も、甘ったるい香りも、少し冷たい指も、細い肩、暖かな背中……どれも、何も、どこにもない。


 そんなところで、何をしたって……

 あの子がいないのなら、そんなところで……何をしても、そんなところで…………


 私には何もない。

 空しい、虚しい。哀しい、悲しい。寂しい、淋し




 気付くと誰かに手首を引かれ、揺さぶられていた。


「メイ、この辺りで間違いない」

 メイはマリエの声と手により、暗い渦に沈み込むような惑乱から救い上げられる。


「第六課の技術棟……ただ建物はない」

「……地面のどこかが……地下とつながってるはず……」

 メイは我に返ってこそいるものの、気力はすっかり(しお)れていた。

 浮揚艇から力なく降りながら、力なく(つぶや)く。


 局長が、自らの意志で死亡したと……そうはっきりと知らされてしまっては最早どうしようもない。

 確かな現実を認識して、なお落ち込まないでいるのは難しい。

 と……


()っ? 何……」

「しっかりして。らしくない」

 メイは明後日の方向を向くマリエに、足を踏まれていた。少し痛い。


「もうすぐ第一課長が来る」

「……ごめん」

 メイはマリエの意図を察して、一言詫びを返した。

 メイからも、エステルが向かってくるだろう方向からも顔を逸らしている、その理由までは想像できないまま。



 マリエの言葉通り、長く待つこともなくエステルの浮揚艇が合流してきた。


「あら、私のこと待っててくれたの?」

「……地下との連結部、手分けして探したほうがいいと思うので」

 やはり、エステル課長の口調はどこか軽い。これほどの惨状、巻き込まれた部下や知人だっているはずなのに。

 メイはそう感じて、微かな苛立ちを覚えたが……


「その必要はありませんナ」

 その苛立ちは、拡声器越しの男声にかき消された。


「ペドロ……課長?」

 メイは声の主が、第六課長ペドロのものと察した。

 声というよりは、その特徴的な口調で……ではあるが。


「課長どの、ご無事でしたか」

 エステルもメイの反応を見てか、ペドロが無事だと捉えたようだ。

 しかし……その態度からは、メイと合流したときの微笑みや喜ばしさ……そういったものを、一切感じ取れない。

 それどころか、無事だったことをまるで歓迎していないような雰囲気とすら……メイは感じていた。

 とは言えそれは、いま気にすべきことではなさそうだ。


「ひとまず、私たちと合流しましょう」

「合流して、まずは今後の方針を検討すべきね」

 何者かによる管理局への攻撃、それに対抗したものと思われる局長の自爆……

 より正確な状況の把握と、善後策の検討のためにはペドロ達第六課と協力すべきだろう。


 メイもエステルも、ペドロへ語りかける意見は一致していた。

 しかし。


「……遺憾(いかん)ながら、それはできませんナ」

 ペドロはメイ達との合流をはっきり拒んだ。


「え、どうして? どういうことでしょうか? 説明を……」

 エステルがペドロを問い詰めようとしたが、途中で何かに気付いたように眉をひそめ、言葉を詰まらせ……


「っ、まさか!? 貴方たちは!?」

 突然声を荒げて、そしてどこへともなく飛び退いた!


()()なることを知っていて、地下に避難した……つまり!!」

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