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管理課長の帰宅

 やけに時間がかかってるな……って、到着予定が六時間後!? なにそれ!? なんで!?


 メイは『礎界(そかい)』への帰還転移中、何もない空間で長々と待たされていた。

 普段なら、帰還する分にはすぐに転移完了するはずなのに……と焦れったくなって進捗状況を表示させた。

 そこで示された「六時間後」の完了予定に、メイは驚きを隠せない。


 どういうこと? 転移装置の不調? いや侵入前の記録からは、作業員がメンテサボってた様子は見られなかったけど……

 それに、最近は転移装置を扱う作業員の経歴もしっかり確かめてる。第一課や第二課との関係がないクリーンな作業員を集められてたはず……



 何の動きもとれない中で、メイは考えを巡らせる。


 それにしても……

 今回の件、第九課が対応しなければならない案件だったのだろうか?

 確かに、標的の二人は奇妙なことを言っていた。管理局のキュルソン分析よりも高精度な未来予知機能を持っていた可能性はある。

 だがそれを『礎界』へ持ち帰るでもなく、あの異界でただ抹殺するのなら……他の課でも十分に対応可能な案件じゃないのか。

 西城の戦闘力は、予知能力を含めても……特筆すべきほどのものじゃなかった。第九課……私である必要があっただろうか?


 もしかしたら、東條のほうがより強力な力を隠していたのかもしれない。または、本人の言っていた……病を得ていなかったら、すぐには勝てない難敵だったのかも……という可能性は無くもないけど。


 ま、そのへんは今考えててもしょうがないか……


 あ、それと強いて言えば……標的の二人より、あの異界が全体的に……なんか変、おかしかった。

 見るもの触れるもの感じるもの、どれもやけに懐かしかった。なぜそう思うのかも、まるで説明できないのに。


 あの異界の環境が、なんというか精神汚染の一種のような異状をもたらす……のか? 要因も原理もよくわからないけど。

 ただそれなら、耐性がありそうという理由で私……第九課に依頼が回ってきた、ということも考えられる……のかな。実際に耐性があったのかどうか知らないけど。



 ん〜……結局考えちゃってるな。まあいいか、それだけ頭がさえてるってことにしとこ。なんかモヤモヤするし、帰ったらまず一杯やろ。



 せめて気分を切り替えよう……と、メイは目を閉じた。そして以前注文しそろそろ着荷予定の……評判の良い酒の味を想像してみる。

 口元へ運んだときの香り、液面に触れたときの唇の感触、口に含んだときの味と風味、飲み込んだあとに残る香りと余韻……時系列に沿って、順に想像してみる。


 ああっ、楽しみ。早く帰りたい。早く飲みたい。早く休みたい。

 あの異界の料理もお酒も、美味しくて懐かしかった。その記憶と比べながら、一日くらいのんびり飲み続けて……そしたら、次の日あたりに局長(ショボー)が部屋に来てくれて…………




 やがてメイは夢想から覚めた。『礎界』への到着案内によって。

 いつの間にか眠ってしまったのか、知らぬ間に装置が不調から立ち直っていたのか……は分からないが、早くに帰還できたならそれはありがたい。


 メイは目を開き、『礎界』に視野が開けるのを待ち構える。



「遅い、何をしてたのかは聞かない」

 メイの目の前に、容貌の整った淡い髪色……全体的に淡い色合いの女の顔が留まっていた。


「わっ……ああ、マリエか」

「局長から指示を受けてる。部下をあまり待たせるものじゃない」


 帰還早々、別の仕事……とはね。少し休み……というか飲みたいんだけど、仕方ないか。


「局長から指示? そんな待ってなくても、ってか慌てなくてもよかったのに」

 メイはそう返したものの、局長がメイを通さず直接マリエに指示を出したことが気にかかった。


 なぜ直接マリエに? ……相応の急用ってことか?


「貴女が帰還し次第すぐに二人で通信棟へ行き、第二課内の音声記録を過去三ヶ月分あされ。そこで問題が見つかれば第一課の記録も……と局長から聞いた。毎日寝る前に復唱したから間違いはない」

 マリエから聞いた指示の内容も、メイには少し気になった。


 そんなことを二人で? なぜ? よくわからない。

 私一人だとすぐに取りかかろうとしない、とでも思われたのかな?

 けれど音声記録がそれほど重要なら、人手に頼るよりヴィネアのような情報処理知能体を使役したほうが早いはず……私が戻るのを待つ理由があるだろうか?


 ……そもそもここで、現状も確かめずに通信棟まで行って……多少とはいえ局長から離れて大丈夫なのか?

 あの子なら大丈夫、なはずだけど……あの二人の言う「未来」……まさか、関係があるとも…………



 メイは一抹の不安を覚え、悩んでいた。が……


「行きましょう。貴女との任務なら、断る理由も遅れる理由もない」

 不意に、マリエに腕を(つか)まれ引かれていた。

 今回の投稿をもって、本章『胸のざわつく世界で』を結びます。


(次回投稿の際には、次の章が立ちます)

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