死霊の夜遊
「いらっしゃい、お一人ですか?」
メイは「インターネット」の検索……で見つけた、近場のバーを訪ねてみた。
「なにか、お奨めはありますか?」
「お奨めですか、それでは貴女から受けたインスピレーションでカクテルをお作りしようと思いますが……よろしいですか?」
この異界ではそんな酒の出し方をするものなのかと感心しながら、メイは席に座る。
「……では、とりあえずそれでお願いします。それと、お聞きしたいことがあるのですが……」
酒が出てくるを待つ間に、メイは情報収集を試みる。
「それは、お酒に関することですか? それ以外のことは、すみませんが私には答えられません」
「『トージョーの予言』について、知りたいのです」
「ああ、あれか……あまり気は進みませんが、貴女のその目……真剣なのでしょうね」
カウンター越しの初老らしき男は、メイの目を見て俯き、首を左右に振った。そうしてから、片手でメイが座っている席とは別の場所を指した。
席を移れ、ということだろうか。メイはそう判断し、席を立つ。
「葉さん、よろしければこちらの女性に『トウジョウ』の話を……」
別席に向かっているうちに、カウンターの男が別の客に声をかけていた。
「あなたが……? 確かにわしも、気は進まんなあ」
カウンターの男よりは少し若く見える客だが、言葉使いは老け込んでいる。
「だが、マスターの頼みなら多少は引き受けようか」
……客の男が言うには、それは突然、どこともなく現れるのだという。
突然現れては近くにいた者の内数人に死を『予言』し、一つの過ちもなく的中させるそれは……
東條さんの登場、と呼ばれているらしい。
「それで、どうすればその……東條さんの登場? に立ち会うことができますか?」
「いや、これは……やはり……申し訳ないが、あなたにそこまでは教えられん」
「……なぜですか?」
メイはいつの間にか手渡されていた酒を一口なめてから、客に詰め寄る。
「やはり、の……わしの話がもとで素敵な女性に死なれたとなっては、目覚めが悪い」
しかし、客はそう言って核心には触れなかった。
「そうですか」
舌先に渋さと、舌の根に甘さとほろ苦さを感じていたメイは……男の答えについて、早々に諦めがついていた。
もしかしたら、話相手の男はメイに気を遣ったのかもしれない。
しかし、そうだとしても……それはメイにとって何の意義もない気づかいどころか、ただのありがた迷惑である。
ましてや、ここで素敵だなどと評価されても……メイには何の意義も感じられない。
「であれば、これで失礼します」
メイは店を出て、再び「インターネットカフェ」で情報を検索し……別の店に向かってみた。それを数度繰り返して…………
当初はメイの好みに合いそうな場所ばかり選んでいたせいか、酒や店の雰囲気を楽しむことはできたが……得られる情報が偏って苦労した。
数日を経た辺りで自身のバイアスに気づいて反省し、少し騒がしそうな場所も意識して調査対象に選ぶよう心がけた。
「おねーさん、なんでその話を知りたいの?」
「……私の親友が、『東條』に殺されました。だから、私はせめて……仇を……」
メイは、より情報を聞き出しやすくなるように……簡単な演技をすることにした。
『東條』によって親友を失い、その復讐に心血をそそぐ女……として振舞うことで、少なくとも本気で『東條』を探していることを、現地人の情報屋たちに示してみる。
「『東條』はね、月イチくらいでAちゃんに現れるんだ」
「えーちゃん?」
「知らないの? Aちゃんて、ネットの掲示板」
街中のさまざまな飲食店を訪ねていくうちに、幅広く情報が得られた。
……どうやら、こちらから探し出して出向くことは不可能らしい。
『東條』は特定の拠点を構えておらず、いつも不意に現れるのだという。
ただ、現れる当日には決まって、夕方頃のインターネット匿名掲示板に情報──出現地と、その時間が書き込まれる。
その時間ちょうどに、出現地にいたものだけが『東條』に会えて……その中の数人が『予言』により殺される。
確実に『東條』に会うには、件の匿名掲示板でその出現場所を知り、時間までにそこを訪ねて待つしかないらしい……という結論を、酔っ払いたちに聞けた話からまとめ上げた。
そこまで掴んだところで、メイはひたすら待つことにした。
「インターネットカフェ」で、毎日『東條』が現れるという匿名掲示板を監視して……監視し続けて、半月ほどが経った。
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【告死の】東條さんの登場 Part.69【天使】
1. 水先案命無い人
お久しぶりやね。東條は今日遊びに行くつもり。
青い靴の女の子がいる、公園の噴水の前で遊んでからご飯にしようかなって。




