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据ワル魔法図書館

 メイは数日の滞在で、すっかりこの異界に慣れられそうだった。



 物質的な飽和に近づきつつある、電子化革命の前段階くらいまで発展した異界の文明……『礎界(そかい)』に近いレベルへの到達が予測できるほどの発展度でありながら、『礎界』のそれとは似て非なる様々な技術、文化、娯楽……


 最初の、二日目までは立ち回りに少し苦労した。

 街で宿を取ってみようとしたところ住民データの記帳を求められたり、酒場と間違えてメイのような者が入るべきでない店に入ろうとしてしまったり……

 と、あれこれ手間取ったものの……二日目の深夜に偶然、民営の図書館のような施設に入れたのが幸運だった。


 そこは「インターネットカフェ」なる施設で、ここに多数設置されたコンピューターを使い「インターネット」にアクセスすることでさまざまな情報を得られるようだった。

 その使用感は、『礎界』のネットとほぼ同じように感じられた。それは良かったのだが……意思疎通型でもタッチパネル式でもない、多数のボタンが付いた板やケーブル付きの卵みたいな形をしたデバイスを使うコンピューターの操作性の悪さには……だいぶ苦労したが。


 その施設ではコンピューターだけではなく、内部の棚に大量に保管されていた絵物語の書籍も大いにメイの好奇心をくすぐった。

 それらは、メイが知る『礎界』の絵物語とは表現技法がかなり異なっていたが……その表現は理解を難しくするものではなく、存分に物語を楽しませてくれた。また異界の現実社会を題材にしたと思われる作品も多かったため、翻訳精度の改善や情報収集に役立てることもできた。


 とはいえ書籍の内容は玉石混淆(ぎょくせきこんこう)……書籍の中には、以前局長(ショボー)からメイに贈られたマイクロビキニナントカ……を思い出させるような不自然に露出の多い女が描かれた、なかなかに破廉恥(はれんち)な書籍や……それ以上に破廉恥というか、あからさまに性的な内容ばかりが載った書籍まであり……

 その雑多な書籍、そこに書かれた情報の幅広さは、この異界の文化の多様さを示しているようですらあった。


 ただ任務としては、難点が……それ等書籍からはメイが最も望む情報──『予言』に関係しそうなものを、まるで見つけられなかった。

 そこでメイは書籍よりも「インターネット」と、現地人への聞き込みを重視してみることにする。


 メイは一旦施設を出て、現地人と交流してみながら『予言』についての情報を集めようと街へ繰り出す……




「いらっしゃいませーおひとり様ですか?」

 メイは赤と黄色の看板が目を引く飲食店らしき建物へ入ってみた。するとすぐに、給仕らしき現地人の女に声をかけられる。


「はい、そうですね」

「かしこまりました、ご案内いたしますね〜」

 返答したメイは、あれよあれよという間にこじんまりとしたテーブルへ連れられていた。


 一人着席したメイは提示された画像を見ながら料理と酒を注文し、それが届いたタイミングで給仕に質問してみるが……


「すみません、勤務中なのでそういうお話は……」

 給仕は答えをくれなかった。

 確かに、料理をつつきながら辺りを見回すと……盛んに笑い声を上げるテーブルでも、テーブルを囲むグループだけで会話を完結させており、用もなく給仕や他のグループに話しかけることは無いように見えた。


 話しかける雰囲気ではなさそう……ここは、ハズレなのかな。



 見切りをつけたメイが料金を支払って建物の外へ出ると、現地人の男二人組がメイを追いかけてきた。

 店内にいるうちに、目をつけられていたのだろうか? 


「ねーお姉さん、店員に『予言』の話聞くとか……もしかして『予言』されたい人?」

「そんなカワイイのに死にたいとか、もったいなくね?」


「……死にたい? どういうこと、ですか?」

 可愛い、というメイにとってとても恥ずかしい形容詞を打ち消す過激な物言いが気になり……メイは思わず聞き返した。


「あれ? トージョーに『予言』されたら、近いうちに死んじゃうって……知らない?」

「そんなん言うくらいなら、死ぬ前に俺たちと遊ぼう?」

「ほらほら、死にたいなんて気持ち無くすくらい、キューンといい夜にしてあげちゃうよ?」


 後から一人加わり三人となった現地人たちが、バラバラに何かを主張する。

 そんな彼らの目線は……メイの顔に、胸に、あるいは脚にと各々に主張する。


「死ぬ? 『予言』を受けると、死ぬの?」

「そうだよ、あれもしかしてマジで知らなかった!?」

「やべー俺らもしかして人助けしたんじゃね!?」

 メイは男たちの言葉から気になる単語を意識して、記憶に留める。


「そうだ、お礼してもらおうぜお礼、なあ?」

 と、別の男がメイの肩に手を出してきた!

 メイはなるべく力を加減して、危害を与えることなくそれを振り払おうと……


「おやめなさい」

 メイが弱く弱く、極力優しくなでるような感覚で……その手を振り払おうとした結果、それでも男の手は強く叩かれ除けられていた。


「っ!? いって……なんだよそんなにキレなくてもいいだろ」

「おいやめとけ、なんかコイツ変だしほか行こうぜ」

「あー乳もったいね〜……けど賛成」

「ケッ、お高くとまってんなァなんか腹立つわ〜」



 現地人たちが捨て台詞を吐きながら、足早に去っていくのを眺めつつ……メイは気になった二つの発言を復唱した。


「『予言』を受けた者は近いうちに死ぬ」

「トージョーの『予言』」

 ……「トージョー」というのが、探している標的の呼び名なのだろうか。

 また『予言』とは……未来予知などではなく、対象を死へ誘う呪詛の一種……という可能性もあるのか。


 よし、一度戻ってインターネットとやらで調べてみよう。

「トージョー」「『予言』」「死ぬ」……



 メイは別の、楽しげな音楽が流れる店に立ち寄って酒を何本か買ってから「インターネットカフェ」に戻った。

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