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楽しもう、とか考えるから

 ああ、やっちゃった。あとのことを考えて生け捕りにすべきシチュエーションだったのに。

 これじゃ(マリエ)のこと言えないな。



 仰向けで倒れている侵入者の身体は痙攣(けいれん)し続けていたが……その震えは急速に弱々しくなっていった。

 まだ今のうちなら、急ぎ適切な救命処置を施せば命は助かるのかもしれない。

 ただ、助かったとしても……おそらく呼吸器系を潰してしまっているから、脳に後遺症が残り認知が乱れるおそれがある。

 それでは尋問が難しくなるために生かす意味が薄れるうえ、そもそも適切な救命処置を取る機材の準備もない。

 少し冷酷かもしれないが……メイは侵入者へ一切のケアをしなかった。



 異界で業務遂行中の管理官(キュレイター)を故意に銃撃し、また攻撃しようとしたことが分かっている以上、円滑な任務遂行のために排除、殺害した……という形で処置してもまるで問題ない。

 それに、がんばって生かして『礎界(そかい)』に連れ帰ったところで……尋問か記憶解析(サルベーション)の末に極刑というところだろうから、助けても寿命が少し長くなるだけ。

 こっちで記憶解析までできるなら、多少は生かしとく意味もあるのだけど。


 ま、と言っても……上手く処置できる自信もない。

 保育館(ここ)に入る前……遣体(けんたい)の処置もちゃんとできなかったし。

 救命系のリスキリング必要かもなあ。

 ……そのへんはまた後で考えよう。とりあえず、もう一人()上手いこと生け捕らないと。


「ヴィネア、もう一人の様子を教えて?」

 メイは来た道を戻りながら、ヴィネア……『保育館(インキュベーション・モーテル)』内を取り仕切る情報処理知能体へ語りかける。


「侵入者の映像を出します。光学迷彩の使用者については、今は無視しておきますか?」

「そうね、今のとこは……私の近くに隠れてそうなときだけ教えてちょうだい。そのときは光学処理能希薄化(ダイリューション)もお願いね」

「承知いたしました、主人(マスター)

 ヴィネアの返答とほぼ同時に、もう一人の見えている侵入者……やや派手な格好をした女の画像がメイの眼前に映し出された。

 やけに胸元の開いたラメ入りのシャツに、短めの赤いスカート。しかし戦闘時の動きやすさを意識しているのか、膝下丈のブーツにはヒールが付いていないように見える。


 この女は戦闘要員(パニッシャー)なのだろうか? 死にゆくと見て離れていくことにした、少年のような姿の相棒のほうには戦闘要員としての力量があったとは考えにくいが……

 メイはなにやら苛ついたような様子で辺りを歩き回る女の姿を確かめながら転移点近くまで戻り、女の相棒が身に着けていた帽子を拾い上げた。



 さて、この女はどうやって捕まえようか?

 罠にかけて楽に絡め取るか、最近暇だったしちょっと正面から闘ってみるか……?


 そうだ、運動するか。


「ヴィネア、そろそろ次の転移をおねがい」

「このまま転移、でよろしいですか?」

「ええ、今日はそんな気分だから」

主人(マスター)、貴女は……油断はしないでくださいね」




 メイは派手な格好の侵入者の背後へ転移した。

 しかし今回は、近付く前に堂々と声をかけてみる。


「我が家に何か用?」

「あ? んだよ」

 派手な女は苛立ちまじりのダミ声で応えながら振り向く。


「やたらキョロキョロして……探しものでもしてるのかしら? 人様の家で」

 メイは(たず)ねる台詞を吐きながら、熱線銃を一丁取り出し右手で構えた。


「うっせ、ってオイお前それ……」

 女が目を見開き、眉間にシワを寄せながらメイの左手を指さす……

 と、ふと左手につまんでいたはずの帽子が手を離れて落ちた。


 帽子がヒラリとメイの後ろへ舞って、その下に何かが集まって、人型を象った何かが視界の端にうっすらと映り


「ん゛ぎっ!?」

 突然何かが首に巻き付いた! 絞められている!


「ぐっ……げ…………」

 頭にも何かが当たり、前に押されている。

 強力で的確な締め。

 急な苦痛に思わず目を(つぶ)ってしまいそうになるのを堪えて、なんとか突破口を探す……すると狭まる視界の端、女を中心に捉えた画像その端に、自分とその背後からメイを締め潰さんとする帽子の大男が映っている!

 メイは画像から二人の位置関係を大まかに予測して、大男の頭辺りを狙って熱線銃を連射!

 すると小さなうめき声が聞こえた気がしたが、有効な一射があったとは限らない……命中しただけでは不足。意識を飛ばすか、致命傷を与えなければ……メイは乱雑な射撃を止めない。


 十数の射撃ののち、メイは首に絡みつく太い腕の力が緩んだのを感じて……そこでようやく連射を止め男の腕を引き()がした。


「がっ、ゲホッ、ごほっ……」

 メイは咳き込み、喉の痛みをこらえ涙目になりながら女に目線と銃口を向ける。そして女に追撃してくる気配がないのを見て、後ろに跳んで距離を取った。

 これで、首尾よく女と帽子の大男両方を一目で見られる態勢にできた。

 大男は倒れたまま動かない。だがメイは警戒を解かない。



 この帽子の男、何なの? さっきの少年とは腕の太さが……いやそれより、今度もまた動きだすのだろうか?

 それにしても……素手だったら危なかった。いや終わってたかもしれない。

 まだ苦しいけど、今は休めない。今は動けない。


「それが定めだけど、もう目覚めたから」


 ……何言ってんだ私は。

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