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籠城の備えは万全に

 よし、それじゃ『保育館(インキュベーション・モーテル)』の中にこの球体をしまっちゃって、と……


 メイは自ら創出した異次元の安宿、兼隠れ家に乳白色の球体を隠すことにした。

 球体を隠しつつ自らもそこに引っ込むことで、先に狙撃してきた敵の狙いがメイ本人の暗殺、または球体の破壊どちらだとしても……襲撃を試みる可能性が高くなるだろうと考えたのだ。



 地形的にも、身を隠しながら近づける場所じゃない。まずはこの球体を確実に押さえておいて……敵が来るのを待ち構えよう。


 と、首尾よく球体を隠れ家に放り込んだメイの、辺りの空間に残っているものは。

 メイに射殺されたならず者達の遺体。

 元牧師、『遣体(けんたい)』の死せる肉体。


 辺りはもはや物言わぬ死体ばかり、そう確信し『保育館』に入ろうとした矢先……どこからか何かの荒い息づかいが聞こえてきた。

 メイは一人首をかしげてから、『保育館』入口の前からもう一度辺りをよく見回してみた。するとならず者達の遺体の陰に、別の塊が転がっていた。



 あ、これもしかしてさっきの、人質の少女……

 ならず者達を撃った後のあれこれで、完全に存在を忘れていた。


 困ったな。この子を助けて、町まで送ってられるような状況じゃない……道中の安全を確保できるかどうか怪しいのに。

 けど、放っておいたら飢え死にか、獣に食われるか……このままにしとくわけにもいかないか。

 それにたぶん、この子は狙撃者に狙われてないだろう。現に今まで撃たれていないのだし。

 別行動できるなら、むしろその方が安全かもしれない。そんな気がする。

 自力で町まで帰ってくれればいいんだけど……


 メイはひとまず、少女の拘束と目隠しを取ってやることにした。

 その前に、ならず者達の死体くらいは除けておこうと考えつつ。



 『遣体』でもない現地人にいちいちショックを与える必要はない。死体は少し離れたとこに固めて置いて……あ、そっか……ついでに『遣体』の肉体も片付けとくか。

 こんな異質()()()のものになってしまった肉体をここに残しとく意味も、現地人に見せる意味もない。

 それに、こっちもサンプリングしとけば第六課が分析してくれるかもしれない。大した手間でもないし、回収しとこう。


 メイは横たわる少女の周りであれこれ作業を進めた。その間、少女は小刻みに震えているようにも見えたが……メイは刺激しないようにと考え、作業を早く済ませることに注力した。


「あ、ありがとう!」

 辺りがあらかた片付いたところで、メイは少女の目隠しを外してやった。


「貴女、ここがどの辺りかわかる? 自力で帰れそう?」

 自分を一目見てから礼を言った少女に尋ねながら、拘束を解いてやる。


「う、うんだいじょうぶだと思う」

「そう、なら私は逃げてったあいつらの残党を追うから、貴女は孤児院に戻りなさい」

 好都合だと思いながら、メイは淡々と少女に帰宅を促した。


「でも、さっき牧師さんのこえが……」

「そっちも私が探すから、いいから貴女は戻りなさい」

 牧師だった男は姿かたちがすっかり変わった上にもう死んでしまった、とも言えない。ここは、強いてでも帰らせたい……

 というのが、率直なメイの考えであった。


「で、でもわたし……しんぱい……」


 心配、か……それだけあの牧師への想いがあるのだろうけど、今それは面倒だな……


「そうはいっても、貴女がここにいて何ができるというの?」

 少女が知るはずのない現状を前提としたメイの言葉に、少女の顔が強張った。



 あ、少し口調が強すぎたか? 難しいな。やっぱり子どもの相手は苦手だ。

 けど、従ってもらうほかない。駄々をこねられなきゃいいけど。


「牧師さんが心配だというなら、なおのこと孤児院に戻るべきでしょう? 牧師さんに要らぬ心配をかけない安全な場所で、牧師さんを待っていてあげなさい」

 メイがなんとか従わせたくて話しを続けてみると、少女の顔は穏やかさを取り戻していた。

 補足の言葉で上手く気まずさをごまかせたかな……とメイは解釈する。


「その方が、牧師さんのためでもあるのだから」

「……うん、わかった! わたしいい子でまってる!」


 一応、牧師が生きているとは言っていない。

 けれどもしかしたら、嘘をつかれたと恨みに思うかもしれない。

 ま、それは仕方がないか。どうせ二度と会うこともないだろうし。


「じゃあねおねえさん! ありがとう!」

 少女は改めて大きな声で感謝の言葉を口にし、小走りに去っていった。



 メイは少女が走り続け、背を向けたままであることを確かめてから『保育館』入口周辺の撮影・警報機能を設定した。

 これは襲撃者の接近を早めに察知するためというよりは、入口付近での襲撃者の行動を見るためである。

 というのも、襲撃者が『保育館』の作用を認識してその機能に干渉し、例えば次元歪曲による閉じ込めや毒ガス注入を試みた場合……こちらから出向いてそれを止める必要がある。



 敵は管理局の関係者だとして……真正面から攻めてきてくれたら楽なんだけど。

 闘ったら不利だから毒殺して、終わり! なんて策を練ってくる可能性も考えておかないとね。


 ま、まだ管理局内部の敵だと決まったわけではないけど……そうじゃないほうが面倒になるような気がするし、さっさと帰って一杯飲みたいし。

 来るなら早くしてほしい、かな……



 メイは入口の監視システム以外にも、入口と居室の間に回廊を設置してその距離を拡げたり、閉じ込め用防壁を幾重にも設定したり、と……堅牢(けんろう)な迎撃体制を整えておいた。

 そうしてから、数日のんびりと客の訪れを待っていたが……結局十日ほど待ちぼうけを食らうのであった。

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