必然、あるいは突然に撃たれた者たち
ヒトの体型をした生物が、メイの足元で微かなうめき声をあげながら痙攣している。
顔だった部分の前面が満遍なく……人相すら分からないほどに潰れているが、体型はヒトのそれである。
顔が潰れている以外に、変わった点は特に見当たらない。ただ大きな鈍器状の物体で力強く殴られただけだろう。
要は強大な力に目覚めた存在によって罪のある者が罰せられただけ。
すごく痛そうだけど……それは今どうでもいい。
それよりも、先の声……この異界のものとはいえ、銃撃が効かなかった?
戦闘力があまりに傑出している。これなら、あのヒトは間違いなく『遣体』だ。それも相当な強化を施された。
それが、障害により今まで力を発揮できていなかった……ということで良さそうかな。
ただそうなると、なぜ今日まで放っておかれたのだろうか?
障害の原因が何者かによる干渉だったとしても、単なる不具合だったとしても……それほど強化を加えた『遣体』に対して、なぜそんなぞんざいな扱いを?
転生担当者は何をしていたんだ? サボりなのか?
……と、それよりとりあえず『遣体』に接触してみよう。精神面が安定しているようなら、このままこの異界に残していけそう。
メイが考え事をしながら『遣体』の近くに着いた頃には、地に立つ人影は二つだけになっていた。
「あの子を、マチルダを返せ! 早くしろ!」
ハキハキと話す『遣体』……元牧師の青髪と黄色の顔は、この異界のヒトとは明らかに異質な外見となっている。
「だ、だから誰のことだよ!? つかお前みたいな顔のやつに会ったことねえし!」
元牧師から責められているならず者の生き残りは、どうにも理解が追い付いていない様子だ。当然のことだろうが。
「しらばっくれるな! 私の孤児院から女の子を連れ去っただろうが!! 早く連れてこい!!」
「こ、孤児院? え? えっと、お前まさか、あんときの牧師……なのか? お前が?」
「他に誰がいるというのだ!?」
「い、いやさ……そんなカッコで言われても、どう見ても別人だろ……」
ならず者は元牧師を指さしてあきれていた。
「ほう、ちょうどいい話だな」
と、どこからか別のならず者が二人現れる。
そのうち一人は……縛り上げた少女を肩に担いでいた。
「こいつの命が惜しいのだな、それなら降伏するんだな」
「な、マジかお前!? そんなのめちゃくちゃ卑怯じゃねぇか!? けどでかしたっ!」
もう一人のならず者は、例の乳白色の球体を大事そうに抱えていた。
お宝を保持していることも一瞬忘れたように、驚愕の視線と驚嘆の賛辞を相方に向ける。
人質……確かにこのならず者の言う通り、典型的に卑劣な手だ。
しかし有効な策でもある、この『遣体』はどう解決しようとするだろうか? 武力は間違いなく高まっているが、知力の向上は?
メイは介入しようとせず、元牧師の対応を楽しみに待つが……
「そ、そんな……要求通りグァバデキア石も渡してあるのです、せめてその子は返してくださいよ」
元牧師は姿に似合わぬ、弱気な態度をあらわにした。
あれ、口調が牧師の頃に戻ってる?
三体の調和がまだ不安定なのか? それにしては、見た目も変わっていないけど……
「あん? まだ文句あんのかよ」
球体を抱いたならず者が元牧師を睨みながら詰め寄る。
しかし先ほどの戦いぶりからしたら、むしろ凄まれるのはならず者達のほうだろうが。
「ひっ、い、いやそういうわけでは……」
そのはずだったが、元牧師はそれまでの大立ち回りが嘘のように肩をすぼめて震えていた。
筋骨たくましい大きな身体が縮こまっていて、なんだか微笑ましい。
て……あれ?
もしかして……あの石が近づいてから、『遣体』の態度が変わったのか?
あの石の何かが『遣体』の意識を侵した……精神攻撃? それとも、人格そのものに影響を……?
偶然……私の勘違いならいいんだけど、もし無関係でないとしたら……?
「じゃあ黙ってろよォ……女も文句はねェだろ?」
ならず者がメイの存在に気づいたらしい。身を隠していたわけではないので、自然な成り行きではあるが。
「大有りです」
メイはこの異界の銃に似たリボルバーではなく、戦闘用の熱線銃を抜いた。
「なに?」
「あン?」
「やる気ということかな」
……とりあえず、ノイズを除いて検証してみてから考えよう。
メイは迷いなく三射した。
一人は手持ちぶさたな状態から銃を抜こうとし、一人は担いでいた少女を放り捨てつつ銃を構えていて、もう一人は乳白色の球体を地面に置きつつ銃を撃っていた。
メイの熱線三射は標的三つの頭を抜かりなく貫いた。
対してならず者の一射はメイの髪をかすめて軌道を変え、後方で地を穿ったが……それを目にした者はいない。
邪魔になりそうなやつらは消せた。
さて、この怪しい球体を使っていろいろ試してみようか。
メイが乳白色の球体を調べようと一歩踏み出したところ、先ほど投げ捨てられた少女が痛がる声をあげていた。
メイはそれに少し心が傷むのを感じた……が、
「一メートルは一命取る……」
すぐに例の発作が……奇妙な言葉が口からこぼれ出て、そちらに気が取られていた。
またか。それにしても一命取る、て……致命傷だという意味だろうか?
いや頭から落ちてたわけじゃないし、一命までは取られないだろう。
それに、彼女に手当てをするとしても、拘束はまだ解きたくないし……
先にこれを調べてみたい。
現地のヒトが散々触ってたものだから、有害性は低いと思うけど。一応電子走査アプリを起動しつつ……ね。
メイは地面に転がっていた、乳白色の球体に近づいて手を触れてみる……
!?
突然、球体から伝わった触感とは明らかに異なる悪寒を感じて、メイはどこともなく振り向いた。
その瞬間、肩と、脇腹と、腿の外側に熱い針金を突き刺されたような激痛を感じた!




