表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/110

おふろで私も考えた

 ……昨日の今日だし、いつものことだけど……やっぱちょっとダルいな。

 待ち時間のうちに、ゆっくり身体を温めながらほぐしとこう。


 身体に残るお互いの汗などを洗い流してから、ヘアケアに取りかかる。

 自身の長めの黒髪に新しいトリートメントをなじませていると……昨日、夜に局長(ショボー)から言われた通り……手触りが少しゴワゴワしてるのがわかる。


 私としたことが、失敗したなあ……会うの久しぶりだったから、それなりに気をつけたつもりだったんだけど。

 思ってたより疲れが溜まってて、髪に出ちゃってたんだろうか。

 


 湯に髪がつかないよう、タオルで髪をまとめ上げてから湯船に浸かる。今回は髪を全面抜かりなくコートできるよう、タオルにもトリートメントをしみこませてみた。

 少し頭が重いけど、局長に「おねーさん、かみがバサバサだ〜」なんて言われちゃね。次までにちゃんと直しとかなきゃ。


 あいやそれはそれとして、真面目な話のことも気にしないと。



 第一課、第二課出身の作業員には注意、か。


 第一課には今回、疑わしい事案あり。と言っても特に何かを仕掛けたっぽい痕跡は見つからなかったから、詳しくはわからないけど。怪しいとは思っておこう。

 第二課は……第一課を疑うなら、同じように疑っておいていいはず。あのヒゲのおっさん、私の叙任式のときも……第一課のエステル課長となにやら合図してたし、繋がりがあるのは間違いない。

 あの課長……あ、名前忘れた。なんつってたっけ、アウベス? アウグスト? なんかそんな感じの大きいおっさん。


 ま、そっちはとりあえず後回しでいいかな。

 むしろ気になるのは、エステル課長のほう。


 この前食堂で私といっしょだったときの、馴れ馴れしいくらいの態度からすると。

 下手したら礎界(ここ)へ帰還できなくなるどころか命の危険すらあるレベルの、タチの悪い妨害工作してくるほど嫌われてるとも……考えにくいんだけどなあ。



 異界転出時の到着座標ズレは、どの次元に起こっても大きなリスクになる。

 単純な物理座標ズレでも、時間軸のズレでも……


 例えば、堅固な岩盤層や建築物等へ物理的に全身が埋もれてしまったら。

 例えば、目標の星が生まれる前や崩壊した後の時代に行ってしまったら。


 と、それはさておき……

 まずは他の課長に、エステル課長やアウなんとか課長の息がかかっていないか、同調していないか……確かめるのが先決だろうか。

 それなら、当面は課長と面識のない第三課か、第四課か……都合よく求職中の作業員が見つかるといいんだけど。



 メイは身体を休めるためのんびり湯に浸かりながら、他課の暗躍、メイへの業務妨害の疑いについて考えていた。

 浴槽のフチによく冷えた酒ビンを用意しつつ。


 あ、けど今回より露骨にやられたら……生きて戻れる保証もないのか……

 怪しい動きがないか、致命的な軸ズラしや誤情報の報告、流布を監視しつつ、異界転出を……いや、私一人じゃ難しい。

 う~ん……作業員がダメなら、戦闘要員(パニッシャー)の派遣要請でもしてみるか……? 戦闘要員なら異界へ連れていって仕事しつつ監視できるし……いや、それはそれで別の問題…………



 考えがうまくまとまらないので、メイは気分転換に……湯船のフチの、事前に酒を置いておいたと思しき辺りに手を伸ばす。

 しかしビンが手に取れない。


 この際、ビンから直飲みするズボラさはさておき……メイはビンの位置を確かめるため体勢を変える必要に迫られた。

 身体をひねって右を向こうとして、しかしそれでは角度が不十分で、ならばと足で浴槽の内を押して身体を横向けようと


「あ゛っっちょっあだだだだ!!」

 あ、足が()った!


「いだっいだガボボッんぱあッ!?」

 痛みと不自由さに(もだ)えるうちに尻が滑った!

 全身が浴槽の底に落ちて、湯船に顔まで浸かってしまった。息のかわりに水を吸っちゃいそうになって、慌てて顔を上げる。


「プハっ、あたたた……」

 足の自由がきかない状態で、ツルツルの浴槽から顔だけ上げてるのには限界がある。両手で浴槽のフチを(つか)んで、上半身の力だけで身体を起こす。


「ふう、びっくりした……」


 足が攣って、全身を湯船に沈めてしまった。『昨日のこと』で疲れてたところに、急に力を入れたせいだろうか。


 ……あーあ、髪までお湯に浸かっちゃった。私にしてはちゃんとまとめてケアしてたのに。

 髪とタオルに付いてたトリートメント剤がお湯に溶け出ちゃったせいか、湯がヌメヌメベトベトする。

 うーん、なんか残念。もう出よう。



 メイは浴室を出て、温風機で髪を乾かしながら求職情報を検索し……第三、四課と縁のある作業員を探してみる。


 ……できれば、先に第三課かな……

 もし第三課も()()()()なら、何かトラブルが起こる前にレイナを課から引き離しておきたい。

 あの子がよく理解してないうちに、組織の都合で敵対したら嫌だから。

 もし敵対してしまうのなら、あの子が納得したうえで相対したいから。


 などと考えこみながら情報を漁っていると、第三課と第五課一人ずつ、定年退職後の再就職を希望する異界転出技術者が見つかった。


 ……なぜ元の課に復帰しようとしない?

 能力不足のために復帰できない……のでなければ、別の事情がありそう。

 と言っても、仲違いしたのかもしれないのか……現在も裏で元の課とつながってるとは限らないけど、試しに作業させてみようかな。


 そこでの働きと結果次第で……あ、けど今のままだと十分に監視ができな……



 と、思考の途中でインターホンが鳴った。

 その呼び出し音は、個別設定した友人の……今は部下でもある友人のもの。


「メイ……課長、そろそろ仕事をしないと、つまらない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ