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友の来訪を迎え

 レイナと酒と食事を楽しみながら、元凶と思しき人工物を破壊した……ところまでみやげ話にした。



「まーたミハタタなんとか? だーからそれイミフだって〜」

「意味不明でもいいの、私は気に入ってんだから」

 メイはお気に入りの決め台詞を意味不明と指摘されたものの、そんなことはどうでもいいと言わんばかりのすまし顔で酒をあおる。


「そんなんだからメイやんカワイイのに『鬼』とか言われんだよー?」

 苦言を呈してはいるが、レイナの目は笑っている。


「ってそそ、そんなことべつにっ、別に他人の言うことなんて関係ないでしょ」

 そして、これは局内でもあまり知られていないことだが……

 実のところ、メイは「可愛い」と言われるのが大の苦手である。まだ「美人」と言われるほうがマシで、それならなんとか耐えられる。

 レイナのもの言いはもちろん、それを頭に入れたうえでのものなのだろう。


「なに考えてんのかわからない怖いオニちゃんってさ」

 メイを見ながらニヤニヤしているのも、その現れなのだろう。


 何を考えているか分からない……それだけが理由ではないだろうが、メイのどこか得体の知れない雰囲気は周囲の者に寄りつきにくい印象を持たせているのかもしれない。

 と言ってもそれは、今のメイにとってさほど重要なことではない。


「あ……いやそのさ、それは別に良いじゃない。そんなの誰だって大差ないんだから」

「へ?」

 どこか(はす)に構えたような言い草で語りつつ、メイはまた酒を口にする。


「仲良くもない、よく知りもしない人が何を考えてるかなんて……分かるわけがないじゃない?」

 親しくない者に興味を持つことが少ない、という面もあるのかもしれないが……他人を気にしても仕方がないというのがメイの言い分。


「そんなもんかなー」

 メイの言い分がピンとこなかったのか、レイナは退屈そうに答えつつパンケーキの最後のひと欠片をスプーンですくった。


「そんなもんよ。例えば、局長がなに考えてるか……想像してみたら?」

 メイはレイナが特に恐れている局長アナベルを引き合いに出す。内心では別の、メイにとって理解しがたい存在……第一課長エステルを思い浮かべながら。


「たしかに分かんないけどさ、ぶっちゃけ局長めっちゃ怖くない?」

 そうレイナが軽口をたたきつつ、スプーンを口に運ぼうとしたところで……



「へえ、こわいんだあ」

「えっヒッきょっ局長!?」

 突然目の前に現れた画像に驚いて、レイナはスプーンを取り落とし椅子を勢いよく倒しながら立ち上がった。


「さっさよなら!」

 レイナは恐怖に駆られてか、猛烈な勢いでバッグを引っ(つか)んで玄関へ逃げていく。

 しかし先回りしたかのように、玄関のドアにも局長の顔が表示されていた。


「わわぁ!?」

 レイナの(わめ)き声が部屋中に響く。


「だいじょうぶ、そんな逃げないで。きょうは課長さんに一言つたえたらすぐ帰るから」

 局長の画像はレイナの行く手を阻みつつ、穏やかな表情と口調で語りかけていた。

 いかにもパニックに陥った様子で髪と顔を引きつらせ涙目になったレイナを気づかったのだろうか。



「というわけで課長さぁん、あとで第五課の管理官(キュレイター)さんがあいさつに行くからよろしくね〜」

「第五課……承知いたしました、アナベル局長」

 レイナは二人の関係をうっすら理解していると思うが、一応……メイは練習も兼ねて、ビジネスライクなやり取りを(つくろ)う。


「仕事とか、わたしからの話はぁ……またあした、ゆっくりね?」

 局長の表情はいつの間にか、幼さの残った外見に似合う満面の笑みに変わっていた。


「…………はい、わかりました」

 返事が遅れたのは、画面越しとはいえ久しぶりに見た局長の笑顔が……胸の奥を少し(しび)れさせたから。




 局長の映像が消えてからも、メイはしばらくレイナを刺激せず、落ち着くのを待ってみた。


「大丈夫? お茶でも飲む?」

 しかし、まだまだ気が動転しているのかレイナの手が少し震えている。メイはそれを見て、少しでも落ち着かせようと提案したが……貯蔵庫の中を確かめると酒ばかりで、レイナが飲めそうな茶やジュースの類は見当たらなかった。


 少し待たせちゃうけど、デリバリーでも頼むか?

 それとも、少しだけ酒を飲ませて忘れさせちゃうか……?



「局長も、別にレイナを責めてるわけじゃない。大丈夫だって」

 メイは考え直し、飲み物をどうこうするよりまず隣へ寄り添ってみることにした。


「メイやんはスゴいよ、あんなのが怖くないんだし」

「あんなのって、ふふっ」

「そこ笑うとこ〜?」


 なんだか少しおかしくなって、二人で笑っていると……

 インターホンの音がそれを止めた。



「あれ、いつのまに追加とか頼んでた?」

「いえ、多分……マリエでしょう」

「え、マリっちなんで? そんな早く来れそうなん?」


 局長が言っていた、挨拶(あいさつ)に来るという第五課の管理官……メイはそれが、マリエのことだろうとほぼ確信していた。


 理由は聞いてみなければ分からないが、相応の理由なのだろう……とも思いながら玄関外側の状況を画像表示すると、案の定そこにはマリエがいた。


「ガチのマジでマリっちだった」

 メイはすぐに解錠し、その動作音を頼りにマリエは部屋へ入ってきた。


「こんにちは、メイ……いや、今日はメイ課長と呼ばなければいけない」

「へ? どしたのマリっち」

「はい、まずは貴女のお話を聞くとしましょう。マリエ・ド・フォシーユ管理官どの」

 メイはあえて、他人行儀な台詞を吐いた。

 そうすることで、だいたいの内容を察していることを暗に伝えようとして。


 個人ではなく、第九課課長としてのメイへ話をしようとしている。

 それなら、()()()だろう。局長と第五課長とで、話がまとまったのだろう。

 そして局長は、メイが反対しないことを確信しているのだろう。



「……やはりあなたには、無駄な説明はいらない……」

 マリエはそうこぼして微笑んでから、目を閉じて(ひざまず)いていた。



「第九課・メイ課長、私はいまや貴女の麾下(きか)に在ります。何なりとご命令ください」

 いつの間にか、メイの手が跪くマリエに取られていた。

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