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粗食に耐えて邁進し

「とりま、メイやんおっつ〜! 食べよ食べよ!」

「レイナもお疲れ様、さー飲もっか!」

 二人分とは考え難い大量の料理をテーブルに並べて……赤髪を左右でまとめた女と、黒髪を後ろで束ねた女が乾杯している。



「つかさ、やっぱメイやん射撃もつよいよね〜なんでもできてかっけー」

「研修生のうちに近・中・遠距離全ての上級射撃試験で満点(パーフェクト)を出した前代未聞の天才射手……からしたらまだまだ、よ」

「えへへ、まーね〜」

 赤髪の女……レイナの興味は、メイがトラブルだらけの出張から無事に帰り着いたことではなく、その射撃能力に向いているらしい。


 射撃や銃器に関する知識、技術と興味の強さに限ればおそらく管理局中でも随一の存在。ただし管理官(キュレイター)としての総合的な力量はいまひとつ……

 というのが、管理局内でのレイナの立ち位置である。それはメイやマリエと共に配属前研修を受けていたころから、あまり変わらない。


 それはともかく、日頃バカ扱いされながらも銃器を愛し、活かして職務に励むレイナの姿は……メイにとって好ましく、強い親近感と仲間意識をもたらすもの。

 多分、マリエも同じように感じているのだろう。



「あれ、シロップとかソースとか、かけないの?」

「ふふん、分かってないなあ……二回めからかけて味変するのがツウなんよ」

 一切の他意もなさそうな、満面の笑みを浮かべるレイナの正面には……縦に六段重ねられた、大きなパンケーキの皿が置かれている。

 メレンゲ多めでフワフワに焼き上げられたもののため、頂上の輪切りフルーツとパンケーキ自体の重さで下段が潰れてしまっている。本来は六枚も積み上げるものではないのだが、「六」が好きなレイナのリクエストに応えて特別にそうなっているらしい。


 それを、最低でも二皿は食べるつもりらしい。



 とは言えそれは、メイの立場から指摘できることではない。

 メイの前には、大皿に盛られた揚げ鶏と焼き鶏がうずたかく積まれて……またその左右には蒸し鶏の皿が広く並べられているのだから。


 そしてその側には、さも当然のように酒瓶が置かれている。


「まずはカラアゲ、酒蒸し、ティッカと……やっぱり食事は大事よね」

 メイもまた、食べたいものを食べられる喜びで笑顔になっているのを自覚する。


「いっただきまー……あ、そういやマリっちは来ないの?」

「呼び出された、心配はいらない……ってさ」


 マリエは誰からの呼び出しとも教えてくれなかった。

 彼女がドタキャンするくらいだから、相応の急用だろうと思う。局長か、第五課長か……業務上での呼び出しなら、今は言えなくてもおかしくない。


 今回の異界出張前に第五課長ジャムから聞いた……厳密には読んだ話だが、それと関係しているのだろうか?



 彼女のことだから心配いらないとは思うけど、心配したくなる気持ちもある。







……………………………………………………………………………………………………………………………




 わたしお腹が空きました、ので……

 大自然のなかで、ひとりのんびり……ランチ・タイムッ!


 …………自然に囲まれた場所でひとりきり、どこをどう見ても開放的なランチ! というと聞こえはいい。

 聞こえだけは。


 四方を見渡す限りに広がる荒野、これも大自然……ではあるんだけど、自然と聞いてイメージするような絶景でもなければ花や木々、緑に彩られた場所でもない。だいたい草すらまばらにしか生えていない。


 楽しい風景でもなきゃ癒やされもしないところで、さらにランチの献立も異界の食料ですらない。局員用食堂でいつでも食べられる、それどころか購買部でもいつでも買えるような支給品の携帯糧食。

 ついでにいうと、『礎界(そかい)』からの酒類の持ち込みは厳禁。

 異界へ遊びに来てるわけじゃないから、当然ではあるのだけど。


 多少は目新しさなりなんなり、楽しみがほしいところなんだけど……しかたないか。



 メイは近くに転がっていた適当な石に腰かけて、糧食……缶と袋、二種類のレトルト食品を取り出して膝の上に乗せた。そして別個、横に出しておいたボトルから袋に水を入れて、缶を封切ったり缶内のペーストを食べたりしながら少し待つ。



 電熱器を使えば温かいものも食べられるけど……今回はやめておこう。

 ここはそんなに安全でもないだろう。熱、音、匂い、湯気や煙……もしかしたら、有翼人たちが敏感に感じ取ってくる要素があるかもしれないし。


 それに、なんとなくだけどちょっと面倒くさい。そんなしっかり準備するようなテンションじゃない。



 そんな気怠さを表すかのように、メイは空を見上げてため息を吐いた。

 空の色は変わらず青い。


 そういえば、さっきから普通の鳥を見かけないな。この異界には、鳥はいないのだろうか?

 こんな場所だから、陸棲の動物が見当たらないのは納得だけど……そっか、食料が少ないから、生物自体少なくなるだけの話か。

 けどそれなら、あの有翼人たちは何を食べて生きているのだ? 飢えることはないのか? 虫? いや虫もあまり見ない……


 ……と、噂をすれば影……複数らしき羽音が聞こえた。



 メイは何も言わずに糧食を置いてから、槍らしき棒状の得物を持った有翼人二体を撃ち落とした。

 原因は身体の疲れなのか精神の低調さなのか、珍しくメイは二体の射殺に熱線四射を要してしまった。


 二発外した……ま、レイナほどの腕じゃないし、そんな日もあるか。

 それにしても、こいつらって…………


 今回も死体は地べたで燃えだしていた。メイは少し離れたところで見下ろしていたが……あることを思いついた。


 鳥……の代わりには……ならないかな?


 これまでは安全のため距離を取っていたけど、どの死体も特に変わった様子もなく燃え尽きていた。

 警戒しつつ、もう少し近づいてみても大丈夫だろう。

 できたら、身体構成分析も……!?


 くっ!? くっさ!! うぇ゛ッ…………


 これまでは、たまたま死体の風下に立つことがなかったためだろうか? 死体の焼ける臭いがやけにくさい。

 それもしっかり吸っちゃったせいか、吐き気がしてきた……


 空腹などすぐに忘れられる種の悪臭。

 これでは分析なんてするまでもなく、「その用途」には向いていないだろう。


 ゔ、気持ち悪い……辛い、しかたない。さっさと離れよう……



 すっかり食欲をなくしたメイは準備していた袋入りの糧食をしまって、吐き気をこらえながら目標の岩山へと歩きだした。




 ……朝と昼は道中で時々現れる武装した有翼人を射殺しながら進み、日が暮れた後は念のため地下に出現させた『保育館(インキュベーション・モーテル)』の中で安全に眠り…………


 メイは異界侵入から四日後、岩山のふもとに辿り着いた。



 とりあえず来てみたけど、ここになにかあるだろうか?

 少なくとも、この岩山の方向から有翼人が飛んでくることはなかった気がするけど……出てこないとも限らないか。


 急に有翼人が来たので、なんて言えないし。



 メイは遠眼鏡を取り出し、岩山の中腹あたりを観察してみる。

 よく見ると、岩山のところどころに横穴が空いているらしい。


 そしてその近辺のあちこちで、褐色、黒、あるいは岩山には不似合いな黄色い塊……有翼人とは異なる生物らしき物体が、いくつも動いているのが見えた。

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