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盗人姉妹と消えるおんな

 久しぶりの更新になってしまった。

 待ってくれてる人がいたら申し訳ないです。

 女たち三人は最初に案内されていた客間へ戻った。一人残って居眠りしていた老獣人は、今もまだ眠っている。




 じいちゃん、長旅で疲れてんのかな。

 そろそろガッポリ稼いで、じいちゃんだけでも引退して……好きな街でのんびり過ごさせてあげたいな。



「お帰りなさいませ、湯上がりにお飲みものはいかがですか?」

 客間に控えていた、三人よりは年上らしきメイドが話しかけてきた。


「何か、お酒はありますか? あればいただきたいのだけど」

「え……お酒、ですか? 少々お待ちください、確認してきます……」

 女魔術師レイからだしぬけに酒を要望されて戸惑ったのか、メイドは引っ込んでしまう。


「昼間っから酒? 若い女がはしたない……」

 耳の良い獣人……ジュニには、去り際に不満をこぼすメイドの小声が聞こえてきた。


「ってあれっあたしたちの分は?」

「あ、私のせいかな……ごめんなさいね」

 レイは苦笑いしながらジェニ……ジュニの姉に謝る。


「それにしても……」

「どうかしましたか?」


「若いから? 女だから? はしたないだなんて、()()()物言いね」

 レイはメイドが退出していった扉へ横目を向けながら、呆れたような声色でつぶやいた。

 メイドのボヤきはレイにも聞こえていたらしい。ただ、彼女がそうつぶやいた理由はジュニには分からない。



 しばらく無言で待っていると、扉を叩く乾いた音がした。


「どうぞ〜」

「失礼いたします」

 戻ってきたメイドは葡萄酒と、花の入った水の瓶を持っていた。


「葡萄酒と……お二方にはさしあたり、花蜜水をお持ちしました」

 メイドはそれらを手慣れたしぐさでグラスに注いだのち、各人に手渡す。


「おいしいね、ジュニ! すこしあまくて、すごくいいにおい」

 姉妹は水で薄まった蜜らしき甘みと、水に溶け出した花の香りが身体に溶け込んでくるような心地よさに浸った。


「少し強め、けどずいぶん甘い……未発酵の糖分? いや、この甘さは後工程で足してる……?」

 一方で葡萄酒を口にした女魔術師は何やら考え込んでいる。

 やはり、彼女のつぶやきの意味は姉妹には分からない。



「もう一杯いただけますか」

「あ、はい……どうぞ」

 ジュニはひとまず、レイの様子を見ている……彼女は良く言えば落ち着いた、悪く言えば緊張感の欠けた様子で酒を飲んでいる。


「もし酔いつぶれそうなら……」

 と、横で姉ジェニが目をギラつかせながら呟いているのに気付いた。


「ねえジュニ、つぶれて寝ちゃうようなら、そのスキに……どう?」

「いや姉さん、今回ってかあの人は……()()ならもっと慎重に、準備してからね?」

 早く気づいて、姉さん。そんな楽勝な相手じゃないって。


 ジュニは眉を寄せながら視線を向け、姉をたしなめた。

 ジェニも妹の表情から何かを察したらしい。


「ん~、そんなヤバそうかな? まあそのへんはいつも通りまかせるけど」



 ちょうど姉妹のひそひそ話が一段落したころ、少し荒っぽいノックの音が聞こえた。


「対策会議の準備が整いました、ご参集ください」




 呼ばれた四人と依頼者たち三人が円卓を囲んでいる。


「つまり、無理のない範囲で偵察と侵攻ルートの整備……道中の罠を除きつつ居室を見つけ、もし可能ならそのお宝を奪ってこい……と」

 女魔術師レイの要約が、とても分かりやすい。気がする。


「おそらくあなた方では、真っ向勝負でヤツに勝つことはできないと思います」

「そして私達が勝つ必要もない、と」

「はい」


「といっても、それは別の隊も同じかもしれません。だが何とか……あの男の生死は問いません、とにかくあの男が盗み出した『保食璧(ウケモチノヘキ)』さえ奪還できれば、あとはこちらでいかようにも……」

「あっアワーさん、その話は後で」

「なるほど」

 レイが少しだけ口角を上げて頷くのに合わせて、その艷やかな黒髪が少し揺らぐ。


 ジュニはそんなレイの相づちを見てなぜか、彼女が何かを察したような気配を感じていた。


「窃取するも良し、籠絡し油断させるも良し、か」

 レイは顔を少し下げて視線を落とし、顎のあたりに手を当てている。


 なんか考えてるけど、盗み出すとか色気でだますとか……そのつぶやきとは違う、別のことを考えていそうな顔に見える。なぜかわかんないけど。

 とジュニがレイに意識を向けていると、


「残念だが、あれに色仕掛けは通用せぬぞ」

 横から低い調子の渋い声が聞こえていた。

 レイはそれに対しハッとした様子で目を丸くして、無言で顔を向けたが……そこに怒りの色は感じられなかった。


「あ、いや失礼、貴女は美しい方だと思うが……そうではなくてだな、問題は貴女よりもあの男のほうなのだ」

 今度は、そのまま話を続ける依頼人のほうを見てみれば……男はそう言いながら苦笑いした、かと思えばすぐに眉間にシワを寄せていた。


「そう……あの男には、そんな情などない…………」

 と、次には机上に握った拳を震わせ出す。


「あの男にそんな心はないッ!!」

 男は続けて血走った目で怒声を上げて、机に拳を振り下ろしてした。

 鋭い怒声と、それとは混じり合わない鈍い打音がして、円卓の空気が凍る。



 一気に重苦しくなった場をほぐそうと、他の依頼者たちが話を切り出した。


「まあまあ、それを抜きにしても……ヤツの好みは多分そっちのおふたりさんでしょう、なんと言うか、もっとこど……」

 依頼者のうちの若い男が軽口を叩こうとして、途中で口をつぐむ。


「じゃあアタシらでゆーわく……しちゃう?」

「ちょっと姉さん話聞いてたの?」

「やる前からあきらめてちゃダメでしょ、ジュニ!」

 ジュニは姉の言いように、無言でため息をついた。


「こらこら、そんな話は……それより皆様、ご質問はありますかな? 無ければ、今日のところはそろそろお開きとしましょうか」

 二人をいさめながら場をまとめようとする、依頼者アワーの言葉。


「ありません、それでは失礼いたしましょうか」

 それに対し、作り笑いをして立ち上がりながら答えるレイの言葉。




「明日もう一度細部を詰めて、明後日に出発となります。それまでは、こちらの各部屋にお泊りください」

 ジュニは案内された部屋でベッドに寝転がり、レイの荷物を漁る方法を考えようとしていた。

 すると夜が更けたころ、隣の部屋からドアを開ける微かな……他人には聞こえなさそうな小さな物音が聞こえた。


 姉さん……だから不用意だって。少し待って。


 ジュニは姉ジェニがレイの部屋を覗くために出てきた音だろうと察し、音もなく部屋を出て……

 案の定、廊下の……自室と姉の部屋の中間辺りにいた、姉ジェニの手をつかんだ。


「待って、姉さん……!?」

 暗がりのなか、人間には聞こえない程度の小声で姉を制しつつ、反対側に目を向け……たところで、レイの部屋のドアが開いているのが見えた。


 開けっぱなし? どういうことだろうか?

 もしかしたら、私たちの動きに気づいている?


 ジュニはあれこれ考えながら夜目を利かせ、ドアに触れずに灯りの消えた部屋を覗いてみる……

 が、覗き見ることのできる範囲には、誰もいなかった。


「どうする? 姉さん」


 と、ジュニが声をかけたところで、二人の耳が部屋の外で木の建材がきしむ音を拾った。


「いまの、もしかして?」

 レイが他のドアを動かした音ではないか、と姉は言う。

 それを追うふりをして歩き出しながらドアを押し、横目でレイの部屋全体を覗いてみると……やはりレイの姿はなく、彼女のものらしき荷物すら見当たらなかった。


「いない。追ってみようか、姉さん」

 姉妹は急ぎ部屋へ戻り、短剣など最低限の装備を手にして時折聞こえる物音を追ってみることにした。



 断続的に聞こえる物音や足音に、少し離れた場所からついて行ってみると……姉妹は町はずれまで出てしまっていた。

 その方向は、依頼の品を持つ標的『竜騎兵トーマ』がねぐらとする廃城がある森の側である。


 これは……どういうこと?


「姉さん、もしかしたら、私たち……」

 ジュニは後ろの姉へ振り返り、懸念を伝えようと……


「ジュニ、あれ」

 したところで前方を指す姉。


 前方から再び聞こえてきた足音の出どころに、レイの後ろ姿があった。

 ウイポ新作買いたいけど、この状況では手を出せないなあ……絶対他がおろそかになってしまう。

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