2・中年は変化に付いて行けない現実にため息をつく
真部はさりとて自らが魔法団体を作ろうともしなかった。
いや、出来なかった。
団体リーダーは二種類居る。
一つは、自らが攻撃魔法を操り、最前線に立てる存在。
一つは、後方で統括し、指揮や物資の差配が出来る存在。
真部にはどちらも足りないと感じていた。
社会経験があると言っても、魔法団体を率いるほどの才覚があるかと言うと全く自信はない。そもそも、現状では身体強化だけで前線に立つための武器が無い。
それに何より、ファンタジー世界と違って討伐報酬というものが存在していない。
あくまで手弁当での慈善事業であって、職業に出来るのかどうか良く分からない。
いや、それも変わろうとしているが、変わった後の組織、団体のそれはギルドのような組織となるだろうと予想していた
団体のリーダーは前線で戦う存在ではなく、ギルド長のような役割を持つであろうと。
政府の後援があると言う事は、資金的な支援もあるだろう。
国会では警察、厚労省、総務省、国交省がその利権と組織の在り方を巡って鍔迫り合いをやっているというニュースもある。
ただ、一つ言えることは、だからと言って外国の様に警察や自衛隊に魔法師部隊を設けて対処しようという話が不思議と出ていない事だった。
もちろんながら、魔法省のような話も出ていない。あくまで民間団体への委託事業として事を進めていきたい。
それを指導、監督する省庁がどこかという話であるらしい。
ここで、警察や自衛隊、あるいは市町村が部隊を立ち上げるというならば、安定した職業になったかもしれないが、そうはならなかった。
いや、誰もしなかった。
東京での事件においても魔法師の幾人かが犠牲になっている。
東京の事件で魔法師を特集しだしたテレビや新聞の取材は地方におけるさらに過酷な現実を全国へと伝える様になる。
モンスター退治に犠牲は付き物であると。
なぜ、国や自治体が正規の組織を持ちたくないかよく分かる話だ。
正規の組織を立ち上げてしまえば、犠牲を前提にした膨大な予算を必要とする。
そして、カネの問題だけで済まなくなるのが、事件ごとに、犠牲が出るごとに付きまとう責任問題だった。
東京の事件ではテレビや新聞が政府や都を激しく批判していた。
地方ではせっかくモンスターを討伐したにもかかわらず、家屋の破壊や一般人の犠牲者に対する補償問題、挙句には魔法行使の必要性に疑問を投げかける個人や団体が出現していた。
冷静に見ればクレーマーでしかないが、事態を受け入れがたい人たちにとってみればそれも当然の疑問であり行動であるらしい。
ここは日本であり、日常的に暴力で騒動を鎮圧するロシアや、毎日のように銃撃事件が起こるアメリカではない。
昨日までそんなものがないと安心していた日本で、魔法という得体のしれない力を行使する存在が闊歩し、モンスターという意味不明な存在が出現してしまったのだから。
ただでさえクレーマー対応に困っている国や自治体が魔法師部隊を立ち上げようなどとは思わない。
彼らには、魔法師部隊を立ち上げるとそれだけで批判して来るであろう団体や組織が脳裏に浮かんでいた。
民間組織を後援する理由は、それなしではモンスターに対処できないからだが、かと言って、魔法師組織、モンスターともに現行の法制度で組織編制や対処が行えるものではない。
今現在も政局がらみで魔法師後援を批判する野党が存在する状況が、それより先へ歩を進めることを押しとどめていた。
「魔法という軍事、警察に並ぶ第三の暴力組織は危険。か・・・・・・」
真部はニュースを見て呆れと諦めが混ざった表情を作り、ため息をつく。
新しいモノに飛びつくのも日本だが、新しいものを容易に受け入れようとしないのもまた日本。
国や自治体が力を持つような組織の存在には脊椎反射のような批判が、この国では良く起きることを彼は知っていた。
そして、アニメやゲームを恰好の標的として批判し、攻撃する性向が存在する事も知っていた。
命の価値が軽くなる社会を現実であっても受け入れたくないという考えは理解できる。ただ、それを政治批判やアニメやゲームへの拒絶を原動力にして現実から目を反らす人たちの存在を理解しろと言うのは、彼には不可能だった。
さらに、魔法師特集記事には若者搾取という内容も存在している。
魔法師組織を立ち上げた大人たちが若者の正義感を食い物にしていると云うのだ。
無い話ではないだろう。当然、利権やカネ、中には体目的のそのような話は何処にでも存在するとは思うが、そこにばかり焦点を当てて否定的に報じる様な話なのだろうか?と、疑問が先立っていた。
もちろん、針小棒大に薬害や医療過誤を報じる新聞やテレビが言うのだから、眉唾で間違いないと思いながらも、そういう後ろ向きな話を信じ込む人も多いだろうとも考えるのだった。
ネット記事のコメント欄にも賛否両論が踊っている状況だ。
片や魔法師を盲目的に英雄視する人々。片や力に溺れる哀れな奴、大人の食い物になるバカな奴と蔑む人々。
結局、そんなものを見るのは嫌になった真部は、それらを見ない事にした。
「魔法ってのはもっと明るいモノじゃなかったのか?現実と云うのはこうも後ろ向きなんだな」
そんな無益な記事ばかりが氾濫するネットや新聞、雑誌。いつもと変わらない、それでいて現実がどこにあるのか分からないテレビ。
真部はそうした現実を忘れ、とりあえず身体強化の鍛錬に励むことにした。
と言っても、無職の彼がロードバイクを漕いだり、ダンベルを持っている姿は、彼を知る人の目にはやはり奇異でしかなかったのだが。
身体強化についてはどうやら使えば使うだけ能力が持続するようになるらしく、ただ自宅周辺を周回するだけだった当初から、気が付けばいっぱしの自転車乗りの様に長距離を走るようになった。
その日もロードバイクを漕いでいっそ、近県一周でもしてみようかと遠出をしていた。
小回りの利く自転車であるため、車では通らないような細道やいつもは通らないような道を通り、山を下った先にある隣県の最近できた大学施設の前へとたどり着いた。
「ん?魔法技術研究所?」
そこはつい数年前に新設された大学の施設であったが、見慣れない看板が追加されていた。
いつの間にやら、ここの大学では魔法研究を始めたらしい。
面白い事もある物だと、最近の社会から逃避するようにその門近くにある掲示板へと近づいていく。
「テスター募集か、面白そうだな」
この研究所ではどうやら魔法使いのテスターを募集しているらしい。
思い立ったら即行動で、早速大学内へと侵入した真部。
魔法研究所、テスター。そんな事を出会った学生らしき若者に投げかけるとすんなり行き先が判明し、彼は吸い込まれるように足を運んだ。
「すいません。掲示板を拝見して伺ったテスター希望の者ですが、よろしいでしょうか」
特に受付などがある訳でもなく、なんなら、研究所というか、ただの研究室である。
「はい、え~と、学外の方ですか」
学生向けの掲示板だったらしいソレを見て訪れた事に少々後悔したのだが、今更引き下がる訳にも行かないと、堂々とありのままを伝えた。
「それは何という偶然!あなたのその体型で上級ローディーのような健脚ならば、身体強化魔法で間違いありませんね。一応、テストをしますので・・・・・・」
なんと、いともたやすく受け入れられることになった。
試験項目は自転車を漕いだり、何かの測定器具を使うという訳ではなく、石器のような石を魔法だけでうごかせるかどうかだけであった。
「お見事。このサイズを簡単に動かせる人が見つかるとは。ぜひ、テスターをお願いします」
良く分からない間にテスターとなる事が決まった。




