第十話 新たな力
お父様に呼ばれ、謁見の間に行く。謁見の間は普段は外から来たネスとお父様が面会するのに使う部屋である。部屋は特殊な空間で壁が見えず、床しかない。ラパンが部屋に来ると、ライオンを模した父の顔が宙に現れる。
「ラパンに力を与える。これでお前は半実体破壊兵器によって破壊されても地上で再生できる。また、体を破壊されても意識を残して戦場に散った粒子を通して力を振るえる」
素晴らしい限りだ。ヴァジュラにより破壊されても再生できるのは有難い。これで、避けそこなったり、罠として設置されたりしてあっても、対処可能だ。また、肉体の全損で意識だけがノスフェラトウ宮に飛ばされるのも防げる。
やられたと見せて粒子となった体で反撃すればきっと人間は驚くだろう。意識を地下に持って行って再生すればどうだろう。月詠市の地下で実体化できて攻撃もできるのではないだろうか?
「素晴らしい力をありがとうございます。これで人類の駆除が捗ります」
ラパンが喜ぶとお父様は注意する。
「慣れるまでは無理はするな。再生は無限ではない。地球は人類のものだ。人類の法則が色濃く支配する。無理な再生は身を亡ぼす。危ない時は意識をノスフェラトウ宮に戻せ」
人の生きる世には永遠と無限がない。人は死ぬことを恐れ悲しむ。だが、滅びがあるからこそ、無限再生するネスに攻撃される事態を防いでいた。古き世の人類が残した。取り決めが人類を守っていた。
お父様の贈り物は再生能力だけではなかった。
「我が子、ラパンよ。また、もう一つ力を授ける。太陽のあるところ、お前の持つ力を十倍にしてやろう」
これも嬉しいがこちらは使い方が難しいと感じた。出力十倍が可能になっても、力を使える総量は十倍にはならない。貰った力を良い気になって使い続ければ早くに限界は訪れる。
消耗して力を使え無くなれば、再生しても意味がない。こちらは、今まで以上にメリハリを意識した力の使い方が必須となる。
お父様が厳かな声で命じる。
「頭を垂れよ。力を受け入れろ。全ては新しい時代の到来のために」
ラパンは立膝を突き、頭を下げる。眼が熱くなった。そのまま、熱さが身体に拡がると、心地よい感覚が全身を襲う。ラパンは生まれて初めて深い眠りに落ちた。
目が覚めた時は私室だった。かなり寝ていた気がするが、どれほど寝ていたかわからない。ムクドリを使い、人間の世界を覗くと、草木は枯れて月詠市には雪が積もっていた。壊れた建物は撤去され、再建築が始まっていた。
冬まで寝たのか。ムクドリが地面に落ちている豆を食べた。ラパンは数日以内に節分があったと知った。人間の世界では年が明けていた。これは月詠市に偵察に行ったほうがいいな。僕が寝ている間にきっと防備を強化している。
次元門に向かう回廊を歩いていると、向かいから姉のドナが歩いてきた。ドナは六枚の翼を持つ中性的な顔立ちのネス。人から見れば見かけは天使だが、振るう力は強力。人間にとっては災厄以外のなにものではない。ドナから微笑んで声を掛けてきた。
「お寝坊さんね、ラパン。目覚めた兄弟は貴方が最後よ」
皆はもう起きたのか、目覚めには個人差があるんだな。他の兄弟たちは力を貰って、もう功績を積み重ねているのなら、僕も負けてはいられない。お父様の期待に沿わねば、申し訳がない。
「人間の世界はどんな感じですか? 抵抗は激しくなりましたか」
「アポカリプス作戦は#1を終了。事態は#2に移行したわ。夜が人間の世界から消えつつあるわ。夜に出掛けてみると良いわ」
意味がちょっとわからないが、ドナはふわふわとした性格である。変化が起きているのなら自分の目で確かめるしかない。
ドナが小首を傾げて愛らしく語る。
「ラパンが目覚めるまでに私たちがんばったのよ。日本の人口は六千万を切ってないけどもうじきね」
新しい力を受けた兄弟姉妹はきちんと力を使い成果をあげていた。人口とは生産力だ。今はまだ、機械化や省力化で社会を支えていても、この後は機能しなくなっていく。
このペースなら日本は急激に力を失ってゆく。あと三年も持たない気がした。
「人間の兵器はどうですか、進歩のほどは?」
ドナがふふふと笑う。
「それがね、ライデンが負けたのよ。玩具みたいなロボットにね。名前は金吒だったかしら。ライデンは負けて、たいそう悔しがっていたわ。もっとも、ライデンが貰った新たな力は戦闘向きではないから仕方ないわね」
やはり、金吒は海戦が得意だった。前回の金吒ならライデンが負けるとは思えない。金吒は強化改造されたとみていい。ライデンも海が得意。油断があったかもしれないが海でライデンが負けたのなら、次に金吒にあったら注意だ。
ドナは胸を張って自慢する
「深刻な顔をしないで、金吒なら私が倒したわ。人間がAlsvidと呼ぶ新型の戦闘機を出したけど、ぜーんぶ、私が落としたわ。人間の巣を蹂躙してやった。結果、東京は全壊よ」
ドナは戦闘向きのネスである。空気抵抗を無視して、音より速く移動する。新たな力を貰う前でも、瞬間速度は最大で音の百倍にも達する。新たな力を得たドナがどれほどの強さなのか見当が付かない。ただ、人間がこのままやられ放題になるわけがない気がした。
「姉上、用心してください。人間には知恵がある」
ドナはラパンの忠告を取り合わなかった。
「大丈夫よ。だって相手は人間だもの。私はライデンやコナンとは違う。生まれついての女王よ」
ドナは機嫌も良くラパンの前から去った。姉上は力に酔っている。新たな力を得るのは良い。だが、力がネス全体に慢心を産み広げなければよいが。
月詠市の上空にラパンは出現した。高度は六百mに保った。午前一時の月詠市は雪に覆われていた。月の明かりが街を照らしている。ラパンはドナが夜に出掛けると良いと言っていた意味を知った。以前より月が大きく見えた。また、明るくなっている。
月は満月に近い。以前に見た満月と比べると、大きさで八倍。明るさにして百倍は明るく感じた。アポカリプスの段階が進むと世界に異変が出る。フェイズ#2では月にその影響が如実に出た。大きく明るくなった月が綺麗だとラパンは素直に思った。
街の明かりが消え始めた。ラパンの出現を知って街が防衛体制を取った。下を見れば動く雪山が見えた。無人戦車群こと軍隊蟻だ。色は白く塗られているので、見事に背景に溶け込んでいる。
ラパンは攻撃をせずしばらく自由にする。低速で月詠市の上空を飛んだ。澄んだ空気の中をジェット機のエンジン音が聞こえてきた。戦闘機が九機やってきた。今までに見たのと同じ型なので、新型のアルスビズではない。
戦闘機は新型ではない。だが、ミサイルは新型だった、は充分にあり得るので油断はならない。戦闘機は三機で隊を組み、ラパンを中心に円を描く。距離は以前より取っていた。されど、新たな力を得たラパンには射程内。当然のことながら人間側ではラパンの情報は更新されていないと見て良い。
地球の空気が前より心地よく感じた。アポカリプス作戦が進み段階を経るごとに地球は人類に住みにくく、ネスに快適に変わっていく。ラパンは地球の変化に気分が良くなった。
ラパンは戦うのがもったいなくなり、撤退を決めた。たまにはこういう日があってもよいだろう。ラパンは次元門を通りノスフェラトウ宮に帰還した。




