表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/65

51.校内狂騒

 翌朝、早速嵐の前兆が漂い始めた。

 登校時、いつもの様に陽香が笠貫家前に足を運んで恋乃丞を迎えに来たのだが、その傍らに、陽香と互角、或いはそれ以上といえる程の美しい顔立ちが当たり前の様に佇んでいた。

 凛三郎だった。

 恋乃丞が通学鞄を抱えて玄関を出ると、そこだけが異様な空間と化していた。

 漫画かアニメの世界から飛び出してきた様な美男美女が並んで立っているという光景は、もうそれだけで脳内が変にバグってしまいそうだった。


「お、おはよ、恋君……えっと、こちらの方は、どちら様かしら?」


 陽香がぎこちない笑みを湛えて訊いた。その美貌には困惑と驚愕、更には多少の警戒感までもが滲んでいる。これ程の異質な美貌の持ち主がいきなり現れたのだから、この反応もやむなしであろう。


「あ、えぇっと、御挨拶がまだでしたね! オイラ、雪灘凛三郎っていいます! 恋兄(れんにい)さんの後輩です!」

「桜庭陽香です。恋君のお隣に住んでて、同じクラスなの。宜しくね」


 お互いに名乗りはしたが、陽香は尚も気圧された様子で笑顔が若干硬い。

 恋乃丞は周囲から浴びせられる視線が今まで以上に強くなっているのを感じながらも、ふたりを促して歩を進め始めた。


(いやしかし……綾坂さんが迎えに来た時も大概やったけど……凛のコレはレベチやな)


 陽香は地元だし笠貫家の隣人だから然程の耳目を集めることは無かったが、凛三郎の注目度は予想を遥かに超えて余りに異常だった。

 微妙に居たたまれなくなった恋乃丞は、せめて同じレベルの美貌の持ち主同士を揃えた方が良いと判断し、先に陽香と凛三郎を並んで歩かせ、その後ろに自分がついて行くという配置を取った。

 その甲斐あってか、恋乃丞に対する視線は相当に和らいだが、逆に前を行くふたりには尋常ならざる視線が集まる様になった。そこかしこで、凄いだの綺麗だの理想のカップルだのと色々と囁かれ始めている。


(まぁ、そうなるやろな……)


 周囲のこの反応は、恋乃丞の予想通りだった。

 そして同時に思う。陽香の様な美少女には、凛三郎レベルとまではいかなくとも、相応に顔立ちの美しい男が似合うのではないかと。

 恋乃丞は上谷マネージャーにいわせれば読者モデルとして陽香を超えた存在だという話ではあったが、それでも矢張り陽香の隣に居るべきは一定レベル以上のイケメンであるべきではないだろうか。

 そんなことを漠然と考えながら歩いていると、不意に前を行く陽香が振り向いて水を向けてきた。


「ねぇ恋君。雪灘君とは先輩後輩だってことだったけど、何繋がり?」

「凛が説明したんとちゃうんか?」


 恋乃丞が眉間に皺を寄せると、凛三郎は小さくかぶりを振って助けを求めてくる様な視線を送りつけてきた。恋乃丞の口から頼みたいということなのだろう。


(一応、厳さんと小堺さんから了承は(もろ)とるけど……)


 当然ながら、これ程の美少年と学校内外で一緒に居れば必ず関係性が問われることになる。

 そこで恋乃丞は、凛三郎との関係を格闘技の兄弟子(あにでし)弟弟子(おとうとでし)という形で説明して良いかとの確認を取り、厳輔と小堺担当官の双方からOKの返事を貰っていた。

 もっといえば、古式殺闘術の存在も口外して良いとの許可まで出ている。我天月心流や薙楽法忍道などの具体的な流派さえいわなければ問題無いらしい。

 実際、古式殺闘術はそれを学んでいるだけでは違法ではないし、タブーに触れるという訳でもない。

 この情報は既に凛三郎の耳にも入っている筈だが、彼は先輩である恋乃丞の口から話すのが相応しいと考えたのだろう。いわば、恋乃丞の顔を立てた格好だった。


「陽香は俺が格闘術やってんの、知っとるわな」

「うん……あ、もしかして、それ繋がり? 恋君が先輩で、雪灘君が後輩?」


 恋乃丞が頷き返すと、陽香は心底驚いた様子で傍らの美少年に視線を戻した。これ程に端正な細面の少年が、恋乃丞と同じく格闘術を習得しているというのが信じられないのかも知れない。


「だって、恋君のあの筋肉なら確かにそうだねって思えるんだけど、雪灘君は、ちょっと、その、かなり細身っていうか、大人しそうな感じだから……」

「あー、それよくいわれますけど、オイラや恋兄さんが習ってるのは体格差を覆す技とかも多いから、全然オッケーなんですよ」


 しかし強さも経験も技の豊富さも恋乃丞の方が圧倒的に上だと笑いながら、凛三郎は羨ましそうな視線を後ろに流してきた。

 そうこうするうちに、三人はM高正門へと辿り着いたのだが、この時点で周囲から飛んでくる注目と、そこかしこで渦巻く囁き声は尋常のレベルを大きく超えていた。


「んじゃ恋兄さん、陽香先輩、また後でー」


 元気に手を振りながら、一年生の教室が集まっている廊下へと去ってゆく凛三郎。彼が一年生教室エリアに足を踏み入れてゆくと、同じ一年生の女子らが黄色い歓声を上げながら挨拶の連弾を飛ばしていた。

 あたかも、芸能人が街中を気さくに散歩し、その周辺にファンが集まってきている様な風景だった。


「あんまりよぅ分かってへんかったけど……一年って今、あんな感じなんや」

「私も……ちょっとびっくりしちゃった」


 凛三郎が醸し出す美少年異空間に、いささか面食らった恋乃丞と陽香。

 ふたりが揃って二年A組の教室に顔を出すと、ここでも怒涛の質問攻めが待っていた。当然ながら、凛三郎と三人一緒に登校してきたことに対する問いかけだった。


「ほな、後は任せます広報官殿」

「え? わ、私?」


 戸惑う陽香に全てを任せて、恋乃丞は自席へと辿り着いた。

 クラスメイト男女の大半から質問ラッシュを浴びている陽香を尻目に、恋乃丞は内心でやれやれとかぶりを振っている。

 そこへ怜奈と麻奈美、優卯の三人が物凄い勢いで迫ってきた。


「ちょっと笠貫君、あの噂、マジ?」

「ねぇどういう関係? いつからそーゆー話になってた?」

「カサヌキどゆこと? めっちゃ気になるんだが?」


 恋乃丞は渋い表情だけを返し、そのうち分かるとだけ答えてシャットアウトした。

 恐らく、凛三郎は今後も学校内外で恋乃丞と接触してくることになるだろう。そう考えると、もういちいち対応するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

 最早これは、一種の狂騒である。

 まともに取り合うだけ無駄であろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ