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32.自分達の居場所

 あの後、陽香は上谷マネージャーやMayから何かいわれたのだろうか。

 彼女は恋乃丞を招待した撮影会の翌日以降、やけに積極的に声をかけてくる様になった。

 朝の挨拶は勿論、休み時間になれば用も無いのに雑談を持ち掛けてくることが増えた。

 それ以外にも例えば、昼休みには昼食を一緒に食べないか、或いは生徒会や読モの仕事が無い放課後には帰りにどこかへ寄っていかないかなど、明らかに接触の度合いが増えている。

 当然ながら、彼女を目当てに集まってくる桜庭グループの面々は困惑を隠せない。中にはあからさまに、やっかみの視線をぶつけてくる者も居た。


「何か……最近桜庭さんがやけにこっちに寄ってくるね……」


 浩太が幾分怯えた様子で、俊之や麻奈美に不安げな声を漏らすこともあった。

 それ程に、誰がどう見ても劇的過ぎる変化だった。


(あいつ……ちょっと何ぼ何でも極端過ぎるやろ……)


 恋乃丞は軽い頭痛を覚えた。

 自分ひとりがクラス中から敵視されるだけなら何の問題も無いのだが、怜奈や麻奈美、智佐、俊之、或いは浩太までもが実害を被るのは恋乃丞の本意ではない。


「ってかさ……桜庭目当てなんだったら、アイツらもこっち来たら良いだけじゃん」


 何故自分達があんな目で見られなければならないのかと、不満顔の麻奈美。


「笠貫が気に入らないんだか怖いんだか知らないけどさ、桜庭取り戻したいんだったら、自力で奪い返しに来いっつーの」


 もともと麻奈美も桜庭グループの中に居たというのに、笠貫組に移ったからといってこの様な扱いを受けるのはどうなのかと、全く納得がいかない様子だった。


「結局、てめぇのグループ以外が桜庭さんを横取りすんのは許せねぇってことなんだろ」


 俊之も呆れた様子で肩を竦めた。


「そうでなくとも綾坂さんが笠貫組に居るんだから、そりゃ皆、羨ましく思うよね」


 浩太のこのひと言が、すべてをいい表している。

 要は、クラスのアイドルふたりを少数派の笠貫組如きが独占するなという訳なのだろう。

 こうなると、取るべき道はふたつだ。


「自分ら、もう俺から離れとけ」


 と或る日の昼休み。

 恋乃丞は陽香が接触してくる前に、怜奈をはじめとした笠貫組の面々に自身が最適と考える結論を告げた。

 要は陽香を奪う悪者が恋乃丞ひとりだけになれば良いのである。何も、周りの面々までもが流れ弾を浴びる必要は無い。

 ところがその恋乃丞の結論に対して、智佐が、そんなのは無理だとかぶりを振る。


「それは嫌かなぁ。あたしは笠貫組の方が居心地が良いんだよねぇ……何っていうか、変に気を遣わなくて良いっていうか」

「あー、それ俺も分かる。桜庭さんとこに居るとさぁ、仲良さそうにしてる割りにはお互い腹の底で牽制し合ってるっていうか、誰が桜庭さんを射止めるのかってな感じで、微妙にぎすぎすしてんだよな」


 俊之が智佐に同調した。

 曰く、桜庭グループは陽香の前では誰もが仲良しの陽キャを演じているが、その裏では陽香というトロフィーを巡って熾烈な内部抗争に突入している、ということらしい。


「せやけどそれは、陽香が誰彼構わんと仲良ぅしましょってやった結果やしな。あいつが自分で落とし前つけんことには、どうにもならんわ」

「だよね……んで、もうひとつの道ってのは何?」


 怜奈が覗き込んできた。彼女程の美人でも、陽香派の連中から裏切り者扱いされてしまうというのは、何とも世知辛い話だった。


「あたしだって、笠貫組から離れるのはヤだからね。絶対、この面子の方が楽しいもん」


 こうまでいわれてしまうと、恋乃丞はふたつ目の手段を示さざるを得ない。

 正直、余り気は進まないのだが。


「ふたつ目もシンプルな話や。陽香をこっちに来させんこっちゃな」

「ま、やっぱそうだよね」


 恋乃丞が示した方策に、麻奈美が当然だとばかりに頷き返す。しかし彼女は同時に、こうもいった。


「でもさ、笠貫ばっかに負担掛けんのもどうかと思うんだよね……ここはウチらで何とかしよーぜ」


 麻奈美が他の面々に視線を巡らせると、怜奈、俊之、浩太、智佐が揃って頷き返した。

 この五人は余程に、桜庭グループには戻りたくないらしい。と同時に、自分達の居場所を失いたくもないのだろう。

 その気持ちは、分からなくも無い。

 だが、迂闊な真似をして陽香を孤立させるのも下策だ。恋乃丞はちょっと待てと、麻奈美と怜奈の肩を軽く叩いた。


「今回は俺も一枚噛む。まずは俺が先陣切るから、自分らはその後や」


 するとそこへタイミングを見計らった様に、陽香が近づいてきた。恋乃丞を除いた笠貫組の面々は幾分緊張した面持ちで、互いに目線で頷き合った。


「恋君、今日はお昼……」

「ちょい待て陽香。その前に話ある」


 いいながら恋乃丞は陽香の背後に廻った。驚いた様子の陽香だが、彼女もくるりと180度向きを変えて、恋乃丞と相対する格好となった。


「な、何?」

「俺の横からあいつらの顔、よぅ見てみぃ」


 一瞬、何のことかよく分からないといった様子で、恋乃丞の指示通りにそっと桜庭グループの面々を盗み見た陽香。

 ところがその直後、彼女は驚いた様子で頭を引っ込め、恋乃丞の体躯の陰に隠れる様な仕草を見せた。


「え……え? な、何? 何か、私、悪いこと、した? すっごい、睨まれてる……」

「お前が悪いことしたんやなくて、お前を呼び込んだ俺らが睨まれてるんや」


 ここで恋乃丞は、陽香が接触してくる様になって以降の、笠貫組が置かれている現状を手短に説明した。

 そこに加えて怜奈、麻奈美、或いは俊之らが、笠貫組での居心地の良さや、自分達がいわれの無い一方的な敵意を向けられていることに辟易している旨をそれぞれの言葉で伝えた。

 これに対して陽香は、愕然とした表情で視線を落としていた。


「そんな……私、そんなこと、望んでないのに……」

「でも、これが現実なんだよ桜庭さん」


 呆然と呟く陽香に、怜奈が気の毒そうな面持ちで低く応じた。

 怜奈自身もまた、陽香を傷つけたくはないと思っているのだろう。その美貌には、陽香を慮る念が滲み出ていた。

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