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26.職場見学への誘い

 翌日の放課後、恋乃丞はM高の生徒会室へと足を運んだ。

 幸いにも隆太郎、美夏、丈倫といった主だった顔ぶれは揃っていた。ついでにいえば、陽香もこの日は生徒会室で何かの事務作業をしている最中だった。


「あ、恋君……どうしたの?」

「いや、特命巡回役員の件で、ちょっとな」


 陽香に応じてから、恋乃丞は隆太郎と美夏が並んで座っている会議卓前へと歩を寄せた。

 隆太郎は既にこちらの意を察していたのか、幾らか緊張した面持ちながら恋乃丞に席を勧めてくれた。


「笠貫君、君には本当に助けられたよ。お陰でうちの生徒が関わっていたヤリサー連中、合計四つの集団に始末をつけることが出来た」

「それについてなんですけど生徒会長、特命巡回役員はまだ必要ですか?」


 ずばりと切り込んだ恋乃丞に隆太郎のみならず、美夏と丈倫も緊張の色を面に乗せる様になった。

 これに対して隆太郎は、今後はそこまで大きな仕事は無いかも知れないと穏やかにかぶりを振った。

 恋乃丞の活躍で生徒会が目標としていたヤリサー集団掃討は、一定の目途がついた。特命巡回役員の仕事はあらかた終わったと見て良い。

 しかし今後、生徒らの間で警察や司法がすぐには介入出来ない問題が発生しないとは限らない。そういう時の為に恋乃丞という切り札を取っておきたいというのが隆太郎の本音であるらしい。

 つまりは、もしもの時の為のジョーカーとしてこれから先も生徒会の一員として籍を残しておいて欲しいというのが隆太郎の希望だった。

 が、常時生徒会の為に働けというつもりも無さそうだった。


「ひとつ聞かせてくれないかな……もしかして、別の仕事を任される様になったとか?」

「まぁ、そんな感じです」


 流石に、内閣官房直属護衛士候補生をそのままストレートに伝える訳にはいかないが、もっと上の方の、相当な権力を持つところからの委任を受けたということぐらいは匂わせても良いかも知れない。


「良かったら、教えてくれないかしら? 君がこれから、どんな活躍をしていくのかが凄く興味あるわね」


 美夏が幾分食い気味に上体を乗り出してきた。意外とこの手の話には乗ってくる方なのだろうか。

 恋乃丞は、そうですねぇと唸りながら腕を組んだ。


「簡単にいうたら、仕事の幅が広がりました。相手にすんのは、ヤリサーだけやなくなりまして」

「それは……とんでもなく凄いことなんじゃない?」


 珍しく、美夏がその美貌に随分と驚いた表情を乗せた。

 横合いで聞いていた陽香も恋乃丞の話が余程に気になるらしく、作業の手を止めてじっと聞き耳を立てている様子だった。


「笠貫君はいよいよ……スーパー高校生だね」


 丈倫も眼鏡の奥で目を丸くしている。

 実際は、高校生などという範疇では収まらない。恋乃丞は候補生とはいえ、国家権力の闇の行使力を任されているのだから、最早学生の領分を超えた存在になりつつある。

 だが、それはいえない。恋乃丞は、想像にお任せしますとだけ答えた。


「だけど、くれぐれも危ないことだけには手を出さないで欲しい。君はうちの生徒でもあるんだからね」

「学校の先生みたいなことおっしゃいますね」


 驚いた様子ながら納得した表情を見せてくれた隆太郎に、恋乃丞は軽く一礼した。

 特命巡回役員の籍を残すことは恋乃丞も同意したが、緊急事態でも生じない限りは、自身が生徒会に関わることはほとんど無くなるだろう。


「けど、ホンマに必要になったらいつでも呼んで下さい。俺が出来る限りのことは何ぼでもやらせて貰いますんで」

「ありがとう。君にそういって貰えるだけでも、生徒会は安心して仕事が出来る」


 隆太郎の笑みに、恋乃丞は再度、一礼を返した。

 そうして立ち上がったところへ、陽香が通学鞄を抱えて身を寄せてきた。


「恋君、もう帰る?」

「陽香は仕事、せんでエエんか?」


 問い返すと、陽香は急ぎの内容は全て片付けたから大丈夫と笑顔を返してきた。

 それならば彼女が帰宅するのは何の問題も無いのだろうが、しかし恋乃丞の方に何となく気後れする部分があった。

 相手は幼馴染みとはいえ、学内でトップクラスの有名な美少女だ。読者モデルとしても結構な地位にあると見て良い。

 そんな陽香と、当たり前の様に肩を並べて一緒に下校して良いものか。

 彼女はもう違う世界、遥か彼方の煌びやかな舞台に立っている。校内では陰気なあぶれ者であり、しかも今は闇の戦闘職人として歩み始めた自分とは、明らかに住む場所が異なる。

 陽香の隣に立つのは、色々な意味で避けた方が良いのではないかと思う様になっていた。

 正直、格が違い過ぎるというのが恋乃丞の素直な感想だった。

 しかしどういう訳か、陽香はやけに嬉しそうに肩を並べて廊下を歩いていた。

 時折すれ違う他クラス、他学年の生徒が、奇異或いは嫉妬の念を湛えた視線をぶつけてくるのは、当然といえば当然の話であっただろう。

 恋乃丞の気が休まらないのも、無理からぬ話であった。


「……恋君、どうしたの?」

「いや……トップクラスの読モさんがお隣にいらっしゃるんで」


 辛うじてそんな台詞を搾り出した恋乃丞。

 これに対し陽香は、その完成された美貌に苦笑を滲ませて小さくかぶりを振った。


「んもう……そういうのは無し。私は私だし、恋君は恋君。それで良いじゃない」

「簡単にいうてくれるなぁ……ド底辺の気分は流石に分からんか……」


 何気にボヤいた恋乃丞。すると陽香はいきなり勢い込んで恋乃丞の正面に廻り込んで、若干怒った表情を見せた。


「だから恋君、どうしてそんなに自分を卑下したりするの? 恋君、もっと自信持って良いんだよ?」

「ブサメンが自信なんて持てる訳ないやろ」


 渋い表情で睨み返した恋乃丞。

 陽香は、あっとした顔つきで口元を掌で抑えた。恋乃丞に不細工のレッテルを貼ったのが自分であることを、思い出したらしい。

 何を今更――恋乃丞は馬鹿馬鹿しくなってきた。

 ところが陽香は、急に申し訳無さそうな顔つきでもじもじと視線を逸らした。その面には罪悪感の如き感情が滲み出ている。

 そして彼女は、とんでもないひと言を発した。


「じゃあさ……プロのひとに見て貰おうよ。もしかしたら私の目が狂ってただけかも知んないし」

「何の話や?」


 恋乃丞には、陽香のいわんとしていることがよく分からない。

 プロのひととは誰のことを指しているのだろうか。


「だからね……恋君、私の仕事、見においでよ。マネージャーとかスタイリストさんに、恋君のイケメン診断して貰いたいな」

「……自分、いよいよ頭おかしくなってきたんとちゃうか」


 恋乃丞は本気で心配になってきた。

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