EP9 三年生の絆
当然だけど、私たちだって下級生にばかり練習させていたわけではない。
朝錬と放課後の練習では下級生に付きっ切りになるため、私と燐火はみんなが部活を終わった後、二人で自主練をしていた。
下校時間を過ぎての練習だが、燐火が学校に強引に承諾させた。
それは、PTAの役員でもある燐火のパパが、なのだが。
他のエレメンツは練習を終えていて、各フィールドはどこも使い放題、私たちは各フィールドをつぶさににあたり、その特徴を徹底的に頭に叩き込んだ。
自分たちにとってどうすれば有利となるか、実際に駆け回りながら、懸命に考えた。
木=ユースフォレストは林の中。立ち並ぶ木々をどうやって利用するか。
火にとって癒される場所だし、身軽な私たちにとっても戦い易いフィールド。見通しも悪く敵の視認が難しいが、こちらも見つかりずらい。
土=セントラルグランドは見通しが良くて、敵に視認されやすい。けれど、戦う相手の動きを早い段階から視認出来るのは、スピードに勝る私たちに有利なはず。
ただし、だだっ広くて柔らかい土のグランドはみんなには疲れやすく不評。
金=プラチナキャッスルでは狭い室内での戦いとなる。今まではデスタロイ相手の戦いで、さほど不利は感じなかったが、キルカがいる今回は不気味だ。
水=JBポンドでは用水路や池が邪魔になり、身を隠しずらい上に、スピードも生かせない。最悪なフィールドといえる。
パラードにフュイール、エシャピーの練習も燐火と1対1で必死に練習した。向日葵たちに偉そうな事を言っているんだ。それ以上に自分を追い込まなきゃ。
けれどやっぱりエシャピーは私には難しく、まだ成功していない。フュイールも同様。
「はぁはぁはぁ、ダメだ。全然、うまく、いかない」
「陽央子はスピードもキレも今一つだし、どちらに動こうとしているのかバレバレなんだよ。きっと今のままじゃ、目線を切るなんて無理だよ」
「私って、ホント、才能ないんだ。どうしたら、エシャピー、出来るように、なると思う?」
「わかれば、こんな苦労しないって」
「なんだ、燐火も、わからないのか」
クソッ、キルカがバケモン扱いされていたのが良くわかる。
「よし、休んでる時間なんて無い。さぁ、もう一本行くよっ!」
燐火の声が、静かで真っ暗なフィールドに響いた。
その時、燐火の声にかぶる様にして、予期しなかった声が!
「ちょっとぉー、ズルくない? 私たちはノケ者なワケ?」
とっくに帰ったはずの夏美と晶、そして青葉だった。
青葉なんて、顔を真っ赤にして怒っている。
「なんで黙っていたんだよ! もっとうまくなりたいのは、私たちだって一緒だっての!」
「みんな、どうしたんだ? 帰ったんじゃなかったのか?」
「お前たちがこんな特訓しているってわかって、ノコノコと家に帰れるかよ!」
「ゴメン。君たちには朝早くから辛い練習させた上、こんな時間まで居残りなんてさせられなかったんだよ。疲れをとるのも大切だし」
「それはお前らだって一緒だろ!」
「うん、そうだね。本当にゴメン。でも、どうしても私、キルカに負けたくなかったんだ。あいつを倒したいんだ」
「陽央子、それは私らだって一緒だよ。な、夏美? 晶?」
「青葉の言う通り。忘れちゃダメだよ。私たちだって心の火は燃えているよ? あいつを見返したいし、私たちを見限った事を後悔させてやりたいよ!」
それからは、下校時間を過ぎてからの自主練は、三年生全員での練習となった。
二人での練習にくらべて内容が濃くなったのはいいが、流石に毎日夜遅くまでの練習は体に堪えてきたのか、だんだんとみんな、体のキレがなくなってきていた。
それは二年生、一年生も同様で、少しふっくらしていた朱里でさえ、最近頬がこけてきたくらいだった。
「みんな、今日の練習は中止だ」
そんなある日、燐火が練習前に突然そう言い放った。もうすぐ学期末ルーティンマッチが迫る大切な時期。ルーティーンマッチの前には、最初のルーキーズセプトもある。
案の定、マーズはざわつき出す。
「え、なんで?」「いや、練習しないと、もう少しでルーティーンマッチだよ」「燐火先輩、またヤル気無くなっちゃったのかなー?」
「いいから聞けーーっ! とにかく今日は練習は休み! でも、みんなすぐに練習技に着替えてフレイムスクエアに集合する事! あ、ARゴーグルはいらないから。さぁ、早く!」
これは私も聞いてなかった。燐火、いったい何をするつもりなんだろう?




