EP7 タイプファイヤーの結束
翌日、学校へ行くとキルカは三年F組から、タイプメタルのクラス、3年M組に移っていた。キルカの席があった窓際の奥は、そこだけポッカリと空いていた。
そして燐火と私は放課後のミーティングで、キルカがタイプファイヤーから正式に抜けた事を下級生たちにも話した。
「みんなも噂で聞いたかな? 炎林錦流佳がタイプファイヤーを辞めた」
「なんで!」「…信じられない」
困惑する、顔、顔、顔。
「燐火、お前は理由を知っているのか? ただでさえこんな状況、なんであいつはあんな勝手な事が出来る?」
「そうですよ! それって私たちを見捨てるって事ですよね? 自分さえ良ければいいって事ですよね? そんな事を燐火先輩は許したんですか?」
「キ、キルカ先輩が…。し、信じられません…」
青葉は怒り、明日名は憤り、螢火は涙する。
みんなは好き勝手に騒ぎたて、マーズは収集がつかない状態になってしまう。
「とにかくワケを聞かなきゃ腹の虫がおさまらない!」
「そうですよ! わたしたちだって納得できません!」
燐火は視線を落としたまま、呻くように言った。
「ゴメン、理由は、話したくない。納得なんて、しなくていい」
青葉はガツッと壁を拳で殴った。目には涙が滲んでいる。
悔しいよね、わかるよ。
「みんな、よく聞いて欲しい。今回、キルカが辞める事を私は許した。だから、みんなが辞めたいといっても、それを止める権利は私にはない。こんな状況だ、辞めたい者は今、この場で言って欲しい」
「ちょ、ちょっと、燐火!」
私は焦って燐火を遮った。でも、燐火は話すのを止めない。
「でも私は、やっぱみんなと戦いたい。これからの一年、私たちにとっては地獄のような屈辱が続くかもしれない。それでも私は、ここにいるみんなと一緒に戦いたい。もう、誰一人として欠けて欲しくない。これは私の勝手な我儘だから、こうしてお願いする。どうか、私と一緒に戦ってくれ! 私の側にいてくれ!」
燐火は床に跪くと深く頭を下げた。真っ赤な髪が床に広がる。
「止めろっ! そんな事するなっ! 燐火、いいか? なんで私はここにいると思う? 私って、木のトリプルなんだよ?」
青葉は涙を流しながら、燐火の肩を掴み、強引に立たせた。
「お前に惚れているからだよ。心に火があるからだよ。いい成績が欲しくてパンタグラムスやってるわけじゃない。お前と、ここにいるみんなと、真剣にバタイユしたいからここにいるんだよ。タイプファイヤーを辞めたい? 誰がそんな事、思うんだ? ふざけんじゃねぇよ! 私らをなめんなよ! 女王が頭下げてどうするんだ? 燐火のバカやろうが!」
青葉が燐火の頭を強く抱え込んだ。みんなも燐火に飛びついてきた。
赤い髪色が十五人も集まってもみくちゃになっていると、まるで炎が燃えているみたいだ。
それからというものの、私たちは練習に熱を込めた。走り込み、筋トレ、今までの倍、いや三倍、徹底的に鍛えた。
朝に弱い燐火が言い出しっぺで朝錬も始めた。
朝から大汗をかいてフィールドを走り回る私たちを、他のエレメンツは嘲笑していた。
とにかく、多勢の敵と戦うためには体力が第一だから。出来る事からやる。
オフェンスに関しては、キルカが抜けた分、従来の主力である明日名というパワー系、早陽というスピードスターに加え、二年生の日照森向日葵、明星佳央流、西明鈴早を重点的に鍛える事にした。
木、土、金、三つのエレメンツのダブルでもある三人ならば、どのような敵にも対応できるだろうというのが抜擢の理由だ。三人でキルカの代わり、とも言える。
螢火もトリプルネームの上にマルチエレメンツなので、自分も加えて欲しいと懇願してきた。螢火は次世代の希望でもあるから、特訓に参加させる事にした。
ルーキーたちによるセブンスも近いし。
向日葵はトリプルネームという事で、ヤル気に問題ない。螢火とは髪色が似ているせいか、姉妹のように仲良く二人でガンガン練習に取り組んでいる。
ところが佳央流は土のダブルの上に水のシングルでもある。落ち着いていて女の子らしい半面、割と気も短く飽きっぽいという、ちょっと難しい性格だ。そのせいなのか、私の指導が悪いのか、身を入れて練習をしてくれない。
ピンクの髪色がカワイイ鈴早は、火のダブル、金のダブルという珍しい組み合わせのエレメンツを持つ。
そのせいなのか、かなりドライな性格で、ヤル気に関しては少しみんなと温度差があるように感じていた。
けれど、今回の件でキルカに対して一番怒っていたのは鈴早だし、抜擢に一番喜んだのも鈴早だった。 HPポイントを稼げるからという、現実的な理由ではあるけれど。
オフェンスの要となるべく、三人プラス螢火の特訓は厳しいものになった。
「何やってるの、向日葵! あなたトリプルでしょ! あなたがそんなんじゃ、みんなだってついていけないよ!」
「佳央流、違うってば。そこは一旦回避してからピストに入らないと! そんなスピードで入ったって、初太刀は取れないよ!」
「足が止まってる、走れ、走り回れ! どうした鈴早、あんたそんなもんじゃないだろ! もっと走れる、もっともっと!」
今後の私たちのパンタグラムスにおいては、何よりも初太刀が大事だ。先に攻撃権を得て、相手に攻撃を許さない。そんな戦い方にしか、勝算は無いんだ。
そのためには相手よりも早くキャプティブしなければならない。そのためには、何よりもスピードが必須。
「あ、あたしー、もう無理ぃー! これ以上走れない」
「文句言える力があるじゃない! だったら走るんだ、鈴早!」




