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EP5 キルカの告白

 キルカの住まいは、小さな古いアパートだった。すでに両親は亡くなり、一人でそこに住んでいるとは聞いていたが、私は来るのは初めてだった。

 私たちが着いた時には、まだキルカは帰ってなく、とりあえず階段に腰を掛け帰りを待つ事にした。初夏だというのに、じっとしていると寒くなってくる。


「私のした事って、間違っていたのかな?」

「え?」

「私さ、キルカがタイプファイヤーでいる事が、一番だと思ってたんだよ。あいつもそれを望んでいてくれているもんだとばかり。それが間違いだったのかな?」

「違う、そんな事ないよ。別に燐火が強要したわけじゃないし。それに、私、ちょっと許せないんだ。どんな理由があろうと、燐火を恨むなんで逆恨みだよ。だって、そもそも嫌われるのって、キルカがあんなんだから」

「でも、パンタグラムスではすっかりキルカに嫌われ役、任せてしまっていた。あいつに頼りっきりで、それは、完全に私の責任だ。私が自分の思い通りにやりたいがために、あいつを犠牲にしてきた」

「そういう事でも、ないと思うけど」


 その時、両手に大きな荷物を抱えキルカが帰ってきた。

 待ち伏せしていた私たちを見ても、特に驚くでもなく無言のままアパートの扉を開けると、顎で部屋の中へ招き入れた。


「用があってきたんだろ? 入んなよ」


 キルカの部屋は、良く言えば綺麗に片付いているというか、ほとんど物がない殺風景なものだった。

 JKなら当たり前にありそうな、可愛いグッズや化粧品なども一切ないし、なんか、ちょっと普通じゃない。

 けれど燐火はそんな部屋の様子などはお構いなしに、単刀直入にキルカに問いかけた。


「陽央子から聞いた。君、タイプメタルへ移ろうとしているってのは本当か?」

「本当だよ」

「私に復讐したい、そう銀子に言ったっていうのは?」

「それも本当だ。でも、よくそんな事がわかったな?」


 私は少し心苦しくなり、昨日の事を正直に白状する。


「わ、私、昨日キルカを見つけて、その、何かおかしいなって…」

「後を付けたってわけだ? じゃあ、全部見ていたのか?」


 私は無言で首を縦に振った。


「なぜだ? 私は君を傷つけるような事をしたのか? だとしたら謝る。だからタイプメタルに行きたいだなんて言わないでくれ! ずっと君と一緒に戦いたいんだよ、私は!」


 燐火の言葉に、キルカは背を向けた。

 少し間を置くと、ゆっくりと話しだした。その言葉はたんたんとしていて、まるで他人事のように聞こえる。


「燐火、アンタってホントに能天気だよね。今の状況、わかってる? おそらく今年度いっぱい、この前の試合と同じ様な事が繰り返される。タイプファイヤーを倒してポイントを4エレメンツで分け合う、とても平和的なバタイユになるだろうな。交互にアンタの首を分け合うらしいよ。きちんとした話し合いでね」


 振り向きもせず話し続けるキルカ。


「それでもタイプファイヤーのポイントだけで全員がお腹いっぱいになるのは無理だ。だから、計画的にポイントを与え合うポイントトランスファーという仕組みを清水流一瀬は考えた。痛みのないHPの譲渡。それはアンタも聞いただろう?」

「馬鹿げた話しだ! 聞くだけでも汚らわしい!」


 燐火は心底気分が悪そうに吐き捨てる。


「けれどルール違反じゃない。それにジョイントだって似たようなものじゃないか。1チームとやるか3チームとやるかの違いだけ」

「違う! ジョイントはあくまで作戦上の協力だ! ポイントの譲り合いなんてやってないし、少なくとも私はジョイントしたチームとだって、クイーンを狙わないなんて約束をした事はない!」

「ま、アンタはそうかもね。いずれにせよ、アタシは生贄になるのはゴメンなんだ。清水流の作った新しい秩序に乗ったほうが得だからな」

「キルカ、君は」

「アタシ、あと一つクイーンの首を取ると、高校で通算3つ目の女王狩り達成なんだ。そうすると学校から特別報奨金が出る。このままタイプファイヤーにいたんじゃ、それは叶わないし」


 私はだんだんと腹が立ってきた。ポイントトランスファー? そんな事を考えた清水流もどうかと思うけど、私は今、キルカに猛烈に頭にきている。


「キルカ! あなた、お金のためにタイプファイヤーを見捨てる気? どんだけ燐火にお世話になってきた? 孤立しそうなあなたを助けてくれたの、誰? チビで役立たずだったあなたが、ここまで強いプレイヤーになれたのは誰のお陰?」

「ま、金だけじゃないんだけど。それにアタシは助けてくれだなんて、一言も言ってない。仮に陽央子がいう恩ってものがあるとしても、もう十分過ぎるくらい働いたはずでしょ、アタシ?」


 バッチーーーーン!


 私は思わずキルカの頬を叩いてしまった。悔しくて涙が溢れてくる。後から後から、涙が溢れてくる。


「陽央子、ダメだ、暴力は良くないよ」


 燐火は震える私の肩を、そっと抱いてくれた。燐火はやけに落ち着いている。

 気の短い燐火なら、もっと怒ってくれると思っていたのに…。



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