EP3 夕刻の誓い
カバンから赤いARゴーグルを出すと、キルカはゆっくりと被った。
タイプメタルのメンバーたちは銀色のゴーグルを被り、まずは体の小さな1年生がキルカの前に立った。
「本当にいいんですか?」
「構わない、やっちまいな」
素直にうなずき、一年生は腕を振るった。
「あっ、くっ!」
キルカが胸を押さえる。
私はARゴーグルを着用していないので見えないが、タイプメタルのメンバーの手には、アイアンソードが握られているに違いない。
「じゃ、今度はアタシね。よーし、この前はよくもやってくれたな、この薄汚いロッテンチョコがっ!」
「っうぅぅ」
1人、2人、3人…。
次々にソードが振るわれ、その度に痛みを堪えるキルカのうめき声が聞こえる。私は思わず耳を塞いでしまう。
2年、3年、ダブルにトリプル、どんどんメンバーが入れ替わり、攻撃が続けられていく。
なんて残虐なリンチだ。
キルカは歯を食いしばり、脂汗が額を流しながら、それでもなんとか立っている。
タイプメタルのソードは、本当に剣で切られたような痛みがあり、私たちも極力避けたい攻撃だ。その攻撃をもう何回食らっているのだろう?
「よくここまで頑張ったな。最後はオレの斬撃だ。それを食らって5秒だけカウントする。それに耐えてみせたら合格だ」
そう言うと銀子は大きくソードを振りかざした。
金のクイーンの象徴、両刃の剣サウザンスラッシュ。一歩大きく踏み込み、激しい動作でキルカに切り込んだ。
キルカの目が一瞬見開いた。グラッと体が落ちそうになる。口が開き、涎が垂れる。
「1,2,3,4,5。ちっ、合格だ。仕方ねぇな」
その言葉を待っていたかのように、キルカは床に突っ伏してしまった。失神しているのか、ピクリとも動かない。
「銀子さん、ホントにコイツ、仲間にするんですか?」
一年生がクーラーボックスからコーラをメンバーに手渡す。下品にラッパ飲みをするタイプメタル。
「コイツは確かに信用ならねぇが、戦力と考えたら申し分ねぇ。タイプファイヤーの連中には痛ぇー目にあってきたからなぁ。コイツを利用しない手はねぇだろう?」
「でも、ウチらピカッピカでゴージャスな美女軍団に、こんな汚らしいヤツ入れんのも、どうなんすかねぇ?」
「まぁ、オレらの引き立て役って事でいいんじゃねーの? どっちみち仲間っていっても、今年度いっはいの話だ。せいぜい頑張ってもらって、たっぷりHPを稼いでもらおうぜ」
タイプメタルの笑い声が、キンキンと耳に響く。
「てめー、いつまで寝てるんだよ」
銀子が口にしていたペットボトルのコーラを、ドボドボとキルカの頭にかけた。
「…ううぅ」
「今日の練習は無しだ。これからちょっと気晴らしにいく。キルカ、お前も来い。その代わり、お前は一番下っ端だ。みんなのカバン、たのむぜ」
十五個以上あるカバンを背負わされ、キルカはタイプメタルのメンバーの後をついて出て行った。
なぜ?
そこまでして燐火に復讐がしたいの? そんなに私たちが憎いの? 嫌われるのが、そんなに辛かったの?
―紅炎燐火に復讐したいんだ! 陽央子みたいな無能でドンくさいカスを侍らせて、いい気になってる火の女王に復讐したいんだ!
キルカの言葉が甦る。
私はむくむくと怒りが沸いてきた。
わかった! あんたがそういうつもりなら、私が燐火を守る! 私があんたを倒して、絶対に火の女王の炎を消させやしない!
私は夕刻となり暗くなったトレーニング室で、一人涙を拭いながら心に誓った。




