表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/21

EP1 悪夢のルーティーンマッチの後

「この間のバタイユ、何なんだよ、あれ!」


 キルカが怒っている。まただ、いつも私ばっかり、何で?


「私、一生懸命に戦ったよ。でも、相手が強かったから」

「なんでオマエは馬鹿の一つ覚えみたいに、敵の剣を受ける事しかしないんだ? 剣を受けてパラードするのは、相手の剣圧を跳ね返すほどの力があって出来る事だろう。今のオマエじゃ無理だって何度も言っているだろっ! 剣を受け流すんだ! それが出来ないなら躱す事を覚えろ! 絶対にバタイユで役にたつ!」

「嫌だよ! 剣を避ける、相手から逃げるなんて汚いマネ、出来ないよ。私はタイプファイヤー、敵から逃げるな、そう教わってきたんだから!」

「オマエは、ずっとそうなんだよ! 自分の苦手な事、嫌いな事を、全部すり替えちまう。火のプライドがあるからやらない? 違う、やらないんじゃない、出来ないんだ。オマエはノロマだから剣を躱すのが怖いんだ!」


 キルカの言葉が刺さる。怖い、それはホントだから…。でも。


「違う! 私は嫌なの! あんたみたいな、汚い戦い方が! きちんと相手に向き合う事をしないで、剣から逃げてばかり、ホント、格好悪いったらないよ! だからあんたは嫌われるんだよ! 名前だけじゃなく、心まで穢れているんだって!」

「だったら、好きなようにやれよ! どうせオマエなんて、力任せに剣を打ち込むしか能が無んだ。それだけやってればいいだろう、このデクノボウ!」

「うるさい、うるさーいっ! 汚いロッテンチョコォーッ!」


 …、あ、あれ?

 うわー、夢かー。

 最悪な目覚めなんだけど。中等学校の頃だったかな。こんな事、あったよなー。

 けれど、何でこんな夢、見るかな…。

 最近、どうにもやるせない日が続いているから、私も疲れているのかも。


 あの悪夢の敗戦の日から一週間。

 練習は欠かさず行っていたが、いつも誰かが欠席し、全員が揃う日は無かった。

 以前なら考えられない事だったが、なにせあの敗戦の後だけに燐火も怒る事もなく、その時集まったメンバーだけで黙々と練習する日々が続いた。


 一つ気がかりなのはキルカがあの日以降、一度も練習に参加していない事だった。

 今まで熱が出ようと台風が来ようと、一度として練習を休まなかったあのキルカが。

 ただ燐火も特に無理強いするでもなかったので、授業が終わった後、いそいそと一人で帰宅するキルカの姿は、珍しいものではなくなっていた。


「ねぇ燐火、いいの? キルカ、このままで? 仮にも司令塔なんだよ、こんなに練習サボるってのもどうだか」

「キルカも疲れたんだろう。ずっと気を張って練習も試合もこなしてきたからな。次のルーティンマッチに向けて対策を練らないといけないし、そのためには頭をリフレッシュする事も大事だと思うんだ」

「燐火?」

「だから今日は練習休み。みんなにも伝えておいてくれるか。私もたまには映画でも見に行って、ちょっとリフレッシュしてくるよ」

「なら私も…」

「ゴメン、陽央子。今日は、独りになりたいんだ」


 燐火が独りになりたいだなんて、出会ってから初めて聞いた。


 いつもみんなに囲まれて、必ず誰かがそばにいる。いや、誰かがいないとダメな、寂しがり屋の燐火が…。


 仕方なく他メンバーへの連絡を終えた私は、一人で家へ帰る事にした。


「燐火のヤツ、映画だなんて。興味なんて全然ないくせに…」


 そう独り言をつぶやいてみたものの、私だって余った時間をどう使ってよいのかわからない。行きたい場所なんて、一つもない。

 今までパンタグラムスしかやってこなかったんだな、私たちって。

 そう考えたらなんだか泣けてきて、慌てて目尻を拭う。

 あーぁ、これじゃ怒られて帰る子供みたいだ。


 一つ溜息を漏らし前を向いた先に、脇目もふらずに歩く、見慣れた茶色い頭が見えた。


「キルカ?」


 キルカは帰る方向が違うので、普段ならこんな所を歩いているはずがない。いったいどこへ行くんだろう?

 私は単純な興味で、キルカの後を追ってみる事にした。


 キルカは学校から少し離れた幹線道路へと出ると、駅とは真逆のほうへ歩いていく。行き交う車こそ多いが、私たちが立ち寄るようなお店など無いはずだけど。

 とにかく気付かれないように距離を置いて後を追う事10分。キルカが着いたのは幹線道路に面した巨大なパチンコ屋だった。


「え? パチンコ?」


 キルカはパチンコ屋の大きな入り口からは入らず、その脇にある別の入り口から中へ入ったように見えた。

 さて、どうしたものかと、その入り口あたりをウロウロしていると、人相の良くないパチンコ屋の店員が声を掛けてきた。


「あんた、お嬢さんと同じ学校の子だよな? お嬢さんなら上にいるはずだよ。上がっていってみな」

「え? あ、は、はい、ありがとうございます。上ですね」


 お嬢さん、私はそれで思い出した。

 タイプメタルのクイーン白鉄鎖銀子しろてっさぎんこの実家がパチンコ屋だった事を。


 胸騒ぎがするし、少し怖くもあったが、興味のほうが先に立ち、私はその扉を開け階段を昇っていってみる事にした。

 上ってみるとそこは、細長いエントランスとなっていて、奥にある扉が少しだけ開いている。そっと近づき中を覗いてみると、見えたのは体育館のような広いスペースだった。


 パチンコ屋の上に、こん所があるなんて。

 天井も高く、バスケのコートなら四面は出来そうな大きな空間。あちらこちら無造作に物が積み上げられていて、普通のスポーツをするにはちょっと邪魔そうだが。

 その謎の空間に、白鉄鎖銀子を中心としてタイプメタルのメンバーが揃っている。いったい何をしているんだろう?


 それよりか、キルカは? 確かにここに入っていったはずなんだけど?


 そして私は、銀子の前に跪いている小さな背中に気が付いた。頭は見えないが赤いタイプファイヤーの制服、あれはキルカに違いない。

 でも、何で銀子の前に跪いているの? こんな所で?


 私はワケがわからないものの、その様子を息を顰めて覗き続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ