EP9 今年度最初のルーティンマッチ
そして、モヤモヤしたものを抱えたまま、私たちは戦いの当日を迎えた。
天気は曇り。
私たちが大好きなお日様も、今は空一面に広がる、白い雲に隠されている。
バタイユに備え、真っ赤なバトルスーツに着替える。
バトルスーツはいわば野球のユニフォームやラグビーのジャージと同じ様なもの。お揃いのバトルスーツに身を包んだだけで、嫌が応にもヤル気が満ちてくるものだ。
けれど今日は、マーズに集まったメンバー全員がヤル気どうこうより、いつに増して緊張しているのが見て取れる。
「よし、円陣だ」
上級生、下級生の違いなく、私たちは肩を組んだ。円陣の中で、燐火の顔が紅潮している。
「じゃ行くよ、みんな!」
「おー!」
「何だ、声が小さいぞ!」
「おおーーー!」
燐火の言葉に鼓舞されるメンバー。けれど、やはりどこか元気が無い。
わかるよ、タープアースとのジョイントの件で未だに連絡が無い事をみんな知っているんだもんね。
一年生ながらプレイヤーに選ばれた螢火は、やはり不安そうにキョロキョロしている。
数日顔を出さない穂菜南ちゃんの事が心配なんだろう。そんな螢火の肩を、燐火が笑いながらパーンと大きく叩いた。
「大丈夫、心配するなって!」
ぎこちなく、螢火が笑顔を返す。
しかし、まだまだ固い雰囲気を感じた燐火は、大きく一声吼えた。
「何なんだーっ、その面はーっ! 今日、みんなはどうしたいんだ?」
「そりゃ、勝ちたいさ」「勝ちたいに決まってるでしょー!」「勝ちたいですっ!」
「じゃあ、やる事は何だ! うつむく事か? 黙り込こむ事か?」
「違う! 戦う事だ!」「敵を倒す事だ!」「叫ぶ事だ!」
「おっしゃぁーーーっ! よーっし、今日は勝つぞーっ! 私たちはー!」
「ファイヤーーーァ!」
今度こそ私たちも腹の底から声を張り上げ、バトルフィールドへと向った。
パンタグラムスの戦いの場は、広大な敷地全体を利用して作られた、五芒星女子学園自慢のものだ。
各エレメンツ専用の、5つのバトルフィールドを擁する、
まずはルーティンマッチを告げる開戦式。各エレメンツが集まり整列した時、夏美が突然大きな声を上げた。
「あーっ? ほ、穂菜南ちゃん? えーっ? な、何でぇー?」
タイプツリーのクイーン木森枝莉の脇で、顔を伏せて立つ炬火穂菜南ちゃんの姿がそこにあった。螢火は顔を青くし燐火を見上げた。
ほ、穂菜南ちゃんが、タイプツリーへ?
本心なのか、強引に誘われた結果なのか、穂菜南ちゃんの表情は見えない。
燐火は顔を真っ赤にし、唇を噛んでいた。空を見上げ、一回ズッと鼻を啜り上げる。燐火の悔しさが、胸にズンと迫まってくる。
「ごめんなさい。私がもっとちゃんと穂菜南を…」
涙を流す螢火をギュッと抱きしめた燐火は、私たちを見回し、何でもないとでも言わんばかりに、大きく頷いた。
いつも通り校長の開戦を告げる言葉を聞き終えると、私たちは我先へと各フィールドへ散らばった。
戦い方の基本。まずは各フィールドに着いた頃、準備を促すプレパレーションの鐘が小さく三つ、鳴らされる。そこで準備開始、対戦準備を整え、開始の鐘が鳴るのを待つ。
開始の鐘は大きく一つ。フィールド中に鳴り響かせバタイユ開始となる。
パンタグラムスの定石は、各エレメンツの専用エリアにクイーンとそれを守るディフェンスを置き、相手の出方を睨みつつ、オフェンスを敵陣へと進める事だ。
敵は1チームだけではない。どのチームがどのチームを狙い、どんなメンバー構成で攻撃してくるのか、その読みと、それを読んだ上で瞬時にメンバー編成を整える事が肝心だ。
そして、刻一刻と変わる情勢を確認しながら、味方に指示を出すのが司令塔の役割で、通常司令塔はディフェンスに守られたクイーンが行う事が多い。
有能なオフェンスとしてフィールドを駆け回りつつ、司令塔としても抜群の能力を持つキルカは特殊なのだ。
もっともそれは、クイーンでありながらも積極的にバタイユに加わりたいと望む、燐火という特別なクイーンがいたから出来上がったシステムだったのだが。
しかし今回のバタイユは、そんな定石の戦いではなくなるだろう。ジョイントチームがいないという、初めての戦い。清水流の企みとは、何なのだろう? 不安は募る。
そんな中、私たちは自分たちのバトルエリアである、フレイムスクエア=火の広場に到着した。
まずは最初の準備、ARゴーグルの装着だ。
私たちタイプファイヤーはお揃いの真っ赤なARゴーグル。みんなの髪色に映えて、我ながらカッコイイ。
ゴーグルのレンズに表示されたメニュー。
視点による操作で多くの情報が得られるが、まずは私のパーソナルデータ。
YOOUKO HINATA
TYPE・FIRE FHP380 EHP265
SWORDTYPE
PHOENIX・SWORD Or GIRAFFE・HUMMER
Which will you Choose?
私は迷わず火の剣フェニックスソードをチョイジアすると、手に真紅の剣が現れる。私たちのフェニックスソードは、切先がユラユラと揺らめいているのが特徴。
もっているエレメンツによって剣が選べ、HPによって強度が異なってくる。私は土のジラフハンマーも選べるが、相手が誰であろうと、フェニックスソードを手離す事はない。
それが火の証、誇りだから。
燐火の手には、火のクイーンのみが持てる大剣ヘルブレイズがある。身長よりも高く、真っ赤にゴウゴウと燃える大剣は、美しく力強い。
それに引き換えキルカが選べる剣は5つ、相手によって剣をチョイジアする。
木ドラゴンウィップ、火ファイヤーブレード、土ジラフハンマー、金タイガーセーバー、水タートルスピアー、節操がないと言われても仕方ない。
目まぐるしく五つの剣を使い分けるキルカの戦いを、穢れた剣、と吐き捨てる者は多い。
ともかく、準備は出来た。
燐火がみんなに問う。
「エトドゥプレ!」
そして、私たちが答える。
「ウィ!」
バタイユ、開始だ!




