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第90話 砲台と商会

高火力なのはいいが、火力が高すぎて使い道の見つからない魔道具ができてしまった。

アーティファクトなので威力を微調整するのも難しく、かといって魔石結合で無理矢理威力を落とせばこの魔道具の強みがなくなってしまう。それなら『火炎放射』で十分だ。

いっそロボでも作れば心置きなく搭載できるのだが……この世界はおろか、地球の技術でも人型戦闘ロボなど存在しない。

とりあえず、船に戻って相談するか。

「すごい威力でしたね! 反動はどうですか?」

カトリーヌが魔道具の威力を賞賛するが……船は俺から随分と離れていたからな。魔道具の余波を見ていないのだろう。

「あのままじゃ実用化は無理だ。というか爆風と熱で、高ランクの冒険者でもなきゃ死んでたぞ」

その高ランク冒険者にしたって、無傷で済むのは防御力が高い冒険者くらいのものだろう。

魔法装甲に近い魔法を持っていない限り、まず即死なんじゃないだろうか。

爆風はともかく、熱の方は生身じゃどうしようもないからな。

「そんなに酷いんですか?」

「あんな炎が目の前で燃えるんだぞ、酷くないわけがないだろう。その上、発動直後は爆風で吹き飛ばされかけたからな」

安全性でいえば、帰りの燃料を積まない特攻機のほうがまだマシなレベルである。

「カエデさんが吹き飛ばされかける……それはちょっと売り出せませんね」

分かってもらえたようで何よりである。

「まあ、それは単体で使えばの話だ。余波から身を守る機構をセットにすれば、使えるんじゃないか?」

別にロボじゃなくとも、要はこの魔道具が生む熱気と爆風から身を守れればいいのだ。

そのくらいなら魔道具を駆使すればいけなくもない……気がする。

地球にだって、生身で余波に耐えられない兵器はあるからな。

「余波ですか……空間を冷却する魔道具って、制御が難しいんですよね。身を守るのには使いにくいと思います。爆風の方も……既存の魔道具にそんな機能のものはありません。結界魔法ではまず耐えられないでしょうし」

そういえば、今までに見た魔道具はほとんどが攻撃系で、防御系はあまり見た覚えがない。

結界系にしろ、そんなに強力な物があるなら今までに使われているだろう。

アーティファクトも確か6構造からだ。

2構造のアーティファクトから身を守るために6構造を使うのは……ちょっとどうなんだ。

そもそも魔石結合の関係で、威力が数十分の一になってしまう。

マシな手段はないかと少し考えると、まだ現実的な手段を思いついた。

「じゃあ、物理と魔法を組み合わせたらどうだ」

「物理と魔法を……ですか?」

「そうだ。確かアーティファクトに、物の位置を空中で固定する魔道具があったよな?」

「ええ、確か2構造でしたね」

確か『定点支持』とか呼ばれていたはずだ。

弱くはないが、二構造アーティファクトにかかるコストの割に対して三十分ほどしか持たないためにあまり使い道がないと思われていたアーティファクトである。

だが反動抑制には、その十分の一でも十分すぎる。

「ミスリルでできた大きな装甲を、その『定点支持』で固定するんだ。熱の方は、魔道具で装甲を冷やせばいい」

メタルリザードメタルが理想的かもしれないが、さすがに高価になりすぎるだろう。

その点コークスにより大量生産が始まっているミスリルなら、現実的な価格に収めることができる。

「装甲の機能を魔道具で強化するわけですか……できるかもしれません」

「とりあえず、やってみようじゃないか。ミスリルなら沢山あるからな」




三日後。

試行錯誤の末、物理/魔法複合装甲を利用した新型兵器が完成を迎えた。

ここまで速く完成したのは、造船用アーティファクトの流用によりミスリルの整形が短期間で済んだことが大きいのだろう。

最終的な形は、中に人が入る半球形のシェルターに、魔法により角度を変えられる砲身がついたような装備となった。

ガルゴン程度の突進ならビクともしない耐久性と生半可な魔物なら一瞬で焼き尽くす火力を持った、強力な装備である。

「……で、こんなの何に使うんだ?」

勢いで作ったはいいが……俺達はまたも使い道不明問題に直面していた。

兵器としての力は高いのだが、誰がこんな物を買うのかという問題がある。

ドラゴン討伐以前ならともかく、状況の安定した今、そこまで頑強な防御陣地を築く必要のある場所など存在しないからな。

唯一これが必要そうなブロケンは、いつでも俺が飛んでいける場所にある。

「……コノンサ商会の方が見に来るとのことでしたから、その方なら何か思いつく可能性が……あるかもしれません」

「それに期待するしかないか」

コノンサ商会とは先日カトリーヌの言っていた、武器を扱っている大規模商会のことである。

属性付き『火炎放射』のほうはかなり実用的なので、見に来てもらうことになったのだ。

ちょうどそんなことを話している時、ノックの音が聞こえる。

メルシアが、コノンサ商会の人を連れてきたようだ。



「いい船ですねぇ。こんな立派な船を見るのは久々ですよ」

一時間ほど後、俺達の船はコノンサ商会の担当者であるインタイゼさんを乗せ、実験用の無人島に向かっていた。

インタイゼさんはズナナ草輸送船の速力と安定性が気に入ったようで、顔をほころばせている。

「今はミスリルが安いので、この規模の船も作りやすくなったんじゃないでしょうか」

「確かにコークスが出てから、うちでも船は増やしてますが……この規模だと運用コストが馬鹿になりませんからねぇ。それだけコストをかけて運ぶものなんて、そうそうないんですよ」

運用コスト……ああ、魔力か。

木造と比べると、俺達の船は重いからな。

「デシバトレ近海で使おうとなると、やはり重くなってしまうんですよね。…お、到着したようです」

雑談をしているうちに、目的の島に到着する。

アーティファクトの実験で使用された関係上、あちこち燃えたり窪んだりしているが、まだ無事な部分や生えている木(外見はヤシと同じだ)はそこそこ存在する。

ちなみに使い終わったらズナナ草生産地として有効活用される予定である。

「じゃあ、早速実験を始めましょうか。その辺りは安全ですので、安心して見ていてください」

司会役はカトリーヌである。

メルシアでもよかったのだが……魔道具担当はカトリーヌだからな。

俺は船に積んであったグリーンウルフの檻を地面に置き、そのすぐ前に魔道具を設置する。ちなみに、的となるのは、元々この島に生えていた木である。

火に弱いグリーンウルフは、余波を押さえ込めているかのテストに最適だと判断されたのだ。

ちなみに用意の方法は、俺が無理矢理つかまえて檻に押し込み、蓋を閉じるという至極単純なものである。

「では『火炎砲』、いきますね」

名前が変わっているのはこの魔道具が一般的な『火炎放射』とはあまりにかけ離れているからだ。

別に隠しているわけではない。

というか、今回見せる魔道具が属性付き魔石を使用した物であることは、事前に伝えてあるのだ。

俺が『火炎砲』を発動させると、魔石から巨大な炎が吹き出す。

威力を示すための的にされたヤシの木は10秒ほどで燃え落ち、ゆっくりと倒れた。

「これは……『火炎放射』とは桁が違いますな! 素晴らしい威力だ!」

もちろん、『火炎砲』の下に置かれたグリーンウルフも、元気に檻の中で暴れ回っている。

大した余波が発生しない証拠である。

「どうでしょう。売れますかね?」

「それはお値段次第としか言い様がありませんが……通常魔石製の100倍程度の価格であれば、かなりの数を仕入れたいですね」

……百倍!?

ただでさえ高い魔道具の100倍、そこにコンサノ商会の利益分を乗せた魔道具とか、そんなの誰が買うんだ。

「冗談ですよね?」

俺がそう聞くと、インタイゼさんは笑って答える。

「冗談ではありませんよ。例えば、カエデさんは以前に、ギルドの弱い街でメタルリザードに遭遇したことがありますよね?」

「……よく知っていますね」

その件はギルドが隠していたはずなのだが……大規模商会って怖いな。

規模だけでなく、武器を扱っている関係かもしれないが。

「そのような場合、この魔道具があるだけで止められる可能性が大きく上がります。エインの予算では置けないと思いますが、ツバイあたりにあれば大分変わってくるでしょう? 通常の魔道具が百個あっても同じことはできません」

冒険者の強くない街に、備えとして置くわけか。

コストは通常の魔道具とほぼ変わらないので、ほとんどぼったくりのような形になってしまうが……

安すぎると、冒険者の仕事を奪ってしまうことになるからな。

仕方ない。これは仕方の無いぼったくりだ。

「メルシア、そのくらいでいいと思うか?」

俺はあまりこの業界に詳しくないので、一応メルシアにも確認を取っておく。

本当は商談相手の前で知識不足を見せるのは微妙なのだが……相手も俺があくまで冒険者だということは知っているだろうから、今更である。

「こちらとしては、悪い話ではないかと」

「では、こちらとしてはそのくらいの値段で卸したいと思います。詳細はこのメルシアと交渉してください。……それからもう一つ、今日完成した魔道具があるのですが……見ていきますか?」

もちろん、あの使い道が分からない属性付きアーティファクトのことである。

開発中につけられた名前は『超火炎砲台』だ。

「是非お願いします」

「では威力が大きいので、念のために結界を」

そう言いながら、船と俺以外の参加者を覆う結界魔法を二重に発動する。

装甲で余波が防げるのは、射手だけだからな。

「ここまでの防御が必要なのですか……楽しみですねぇ」

インタイゼさんが面白そうに見守る中、俺は『超火炎砲台』の設営を終わらせ、中にグリーンウルフの檻を放り込む。

それから、しっかりと安全確認を行い、念のために二重の結界を三重に張り直しておいた。

「じゃあ、いきますよ!」

俺は『超火炎砲台』を起動し、吹き飛ばされそうになるのを加速魔法で相殺する。

この魔道具は、熱の余波でさえ強力な爆発の魔道具を超えるのだ。

その影響は凄まじく、的となった木はもちろん、射線から外れていたヤシの木までが土煙と共に吹き飛ぶ。

土煙が晴れた後に残ったのは魔道具周辺のクレーターと、島を一直線に貫く炭化した……いや、灰と化した木々と下草である。

「えー……これはなんというか……凄まじいですね」

インタイゼさんも、流石に少し引いているようである。

やはりここまで強力だと、兵器商人としても扱いかねるだろうか。

「一応、これが数十分持続します。それから、撃つ方向も変えられますね」

俺は冷たくなっている砲台の装甲を開き、中から無事なグリーンウルフを取り出す。

中の人の安全性は、ちゃんと確保されているのだが。

「……作っているうちにも、薄々使い道が無いんじゃないかと思っていたんですが、どうでしょうか?」

まあ、ダメで元々だ。一応使えるか聞いてみることにした。

しかしインタイゼさんは、それを全力で否定した。

「使い道がない!? とんでもない! この魔道具には、火炎砲以上の需要がありますよ! ぴったりな使い道があります!」

……あるのかよ。どこかの国を滅ぼすとか言わないだろうな。

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もちろん、書き下ろしありです!

是非読んでください!

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