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黙示録  作者: 山本正純
第四章 12月28日
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堕天使 5

 12月26日午後6時40分。東都ホテルに到着した朝霧は異変に気が付いた。妙にホテル内が騒がしいのだ。朝霧の耳にホテルの従業員の会話が聞こえた。

「監視カメラが故障したらしいな」

「はい。午後4時40分からの一時間の監視カメラの映像が映っていません。このホテル内全ての防犯カメラが一斉に故障するなんておかしいですよね。もしかしたら怪盗・・」

「馬鹿。人前でそんなこと言うな」


 その会話を聞いた時、朝霧は神が完全犯罪に味方していると悟った。朝霧が監視カメラの前で常盤ハヅキを絞殺したのは午後4時47分。監視カメラが原因不明の故障を起こした範囲内だ。これで常盤ハヅキ殺害の証拠は完全に消えた。朝霧は怪盗何某に感謝することにした。怪盗何某がホテル内に侵入しなければ、完全犯罪は常盤ハヅキの妨害で破綻していただろう。


 午後7時朝霧は東都ホテル最上階にある展望レストランネクストで湯里文と落ち合った。

「湯里さん。お待ちしていました。今日は僕におごらせてください」

「君も出世しましたね。このカウンセリングのスペシャリストに食事をおごるほどに」

「それは自慢ですか」

「もちろんです」


 湯里が席に座ったことを確認した朝霧は早速店員を呼び注文する。

「フランス料理フルコースで頼むよ。それとワインは勘弁してくださいよ。両方とも車で来ているからさ」

「かしこまりました」

 店員の後ろ姿を見ながら湯里は感心した。

「まさかフランス料理のフルコースをおごるつもりですか」

「男に二言はありません。今回は日ごろの感謝をこめてディナーに誘いました」

「別に感謝されるようなことはやっていないはずだが」

「1か月前に取材したでしょう。その感謝です。今でも週刊誌に掲載したその記事を持っているんですよ」

 

 朝霧は週刊誌を取り出し、彼が掲載した記事を見せた。

『爆破事件に巻き込まれた被害者のカウンセリングをする精神科医湯里文先生』

 これが週刊誌記事のタイトルだった。

「この記事が好評で、また湯里さんに取材してこいと編集長に頼まれているんですよ。今度は前回のような堅苦しい記事ではなく、読者の相談に答えていただくという相談コーナーです。忙しいのであれば隔週連載にします。ギャラは取材一回につき10万円。隔週連載なら一か月20万円の収入になりますよ」

「面白い臨時収入ですね。受けましょう」

 

 すると朝霧たちの机の上にフランス料理の前菜が運ばれてきた。

 次々と運ばれてくる料理を食べながら朝霧は湯里に話しかけた。

「そういえば、如月武蔵さんも湯里さんの所でカウンセリングを受けているそうですね。何かそこで変わったことでもありますか」

「楽になったのか、最近呟くようになりましたよ。『水無信彦の奴、あの爆破事件で酷いことをしやがって。あの責任は俺が取るはずの物ではないか』って」


 湯里から如月武蔵のことを聞いた時、朝霧の体に寒気が走った。考えたくもなかった。如月武蔵が残したメッセージ『一番の悪は水無信彦』は間違っていなかった。

 つまり第四の被害者は水無信彦。だがその証拠はない。だから水無信彦自身に証拠を出させる必要があった。あの爆破事件に水無信彦が関わっているという証拠を。


 湯里とのディナーが終わり、朝霧は自宅に戻った。第四の被害者として水無信彦が浮上した。今回彼が殺すのは水無元太の父親水無信彦。彼が特急ブルースカイ号爆破事件に関わっているとしたら、親族であったとしても許せない。

 自宅の駐車場に車を停め、玄関に向かった。その玄関には黒いローブに身を包んだ一人の女が立っている。この人物は朝霧に爆弾やチェーンソーを売った女だ。

「こんな夜中に何のようですか」

「お困りのようだね。その顔は関係ない奴を殺しに巻き込んだ顔でしょ。今のあなたに必要な物だと思ったからプレゼントしに来ましたよ。飛ばしの携帯。しかもこれは7年前の特急ブルースカイ号爆破事件当時共犯者が脅迫電話を掛けた奴を同じ奴。これを使えば偽装できるでしょ。この一連の犯行は爆破事件の忌まわしい共犯者の仕業だとね」


 朝霧はシノから携帯電話を受け取った。

「あなたは何者なんですか。あの爆弾は特急ブルースカイ号爆破事件の時と同じ物でした。そして共犯者が持っていた携帯電話をあなたは入手した。とても普通の人とは思えません。あなたも爆破事件の関係者なのですか」

「最初に自己紹介したよね。地獄の商人シノって。これ以上詮索したら、死ぬことになりますよ」

 シノと名乗る女は朝霧に言い残し、暗闇に消えた。


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