堕天使 3
午後5時10分。常盤ハヅキの自宅の周辺には刑事の姿がない。朝霧は運が良いと思った。
朝霧は急いで常盤ハヅキの遺体を彼女の自宅に運び込む。まず朝霧は常盤が履いている靴を脱がせ、靴を玄関に放置した。
遺体を背負っている彼は常盤ハヅキの部屋へと向かう。彼女の部屋のドアを開けた朝霧は常盤ハヅキの遺体をベッドに寝かせる。
「悪かった。僕の犯罪計画に利用させてもらうよ」
朝霧は涙を浮かべながら常盤ハヅキの右腕を用意しておいたチェーンソーで切断する。彼の涙は床に落ちた。右腕があったはずの部位からは大量の血液が噴き出る。それは朝霧の服に大量の返り血を浴びせるほどだった。
返り血対策で雨合羽を着ていなければ、朝霧の衣服は返り血で染まっていただろう。
朝霧は躊躇した。常盤ハヅキは常盤光彦の娘。彼女を殺す必要はなかった。
昨日相模長重を残忍な方法で殺害した朝霧にも良心が残っていた。これ以上の切断は断念しよう。朝霧はそのように考え、如月武蔵の遺体が入っているキャリーケースを常盤ハヅキの自宅に運び込む。
如月の遺体を遺棄する場所は既に決まっていた。それは常盤ハヅキの部屋がある2階のトイレだ。そこに遺体を隠せば、如月犯人説を仕立て上げることができるだろう。
常盤ハヅキは如月武蔵を自分の自宅に招き入れた。そしてその場で如月が常盤を殺害。逃げきれないと考えた如月は2階のトイレに隠れ、自分の両手両足を切断し、爆弾で命を絶った。
完璧な犯罪計画を思いついたと朝霧は思った。これなら司法解剖を調べられても、犯行当時アリバイがある朝霧は容疑者から外れる。犯行現場がこの自宅であると警察に思わさなければ成立しない計画だが仕方がないことだろう。
朝霧は如月の遺体を便器に座らせ、相模と同じように両手両足を切断した。血液は大量に流れ、トイレを血の海に染めた。朝霧は爆弾を如月の腰に巻く。その現場に犯行に使ったチェーンソーと相模長重と常盤ハヅキと如月武蔵の携帯電話を捨ててから、その場を逃走する。
その後朝霧は如月の靴を裏口に置いて逃走する。こうすれば、時間稼ぎができると思ったからだ。
問題はこれからだ。現在の時刻は午後5時35分。それまでのアリバイを作らなければ、犯行現場偽装トリックがバレてしまう。偽装トリックは既に完成している。後はこの現場から脱出するだけだ。
遠くの方からパトカーの音が聞こえてくる。まさか常盤ハヅキを捜索している刑事がここに向かっているのか。朝霧に緊張が走る。
タイムリミットは近づいている。早くこの場から脱出しなければ、朝霧は逮捕されてしまう。
警察を鉢合わせてもアウト。逃走に費やせる時間は少ない。その時朝霧はあることを思いだした。それはこの家の隣は相模長重の自宅の隣であること。これをうまく使えばアリバイは成立すると朝霧は考え付いた。
行先はこの家の隣にある相模長重の自宅。警察は殺害現場がこの家であると思い込むはず。下手に現場から逃走するより、現場近くに居座った方が安全だろうと彼は考えた。
朝霧は隣の相模長重の自宅に向かう。
午後5時40分。朝霧は相模長重の自宅の呼び鈴を鳴らした。すると中から相模弥生が現れた。
「ルポライターの朝霧睦月です。特急ブルースカイ号関係の取材資料を取りに来ました」
「そうですか。それではお上がりください」
これで朝霧のアリバイは確保された。それから10分後常盤ハヅキの自宅前に覆面パトカーが停車した。




