怪物
田中なずなが衆議院議員会館に到着した頃、合田と月影は湯里文が勤務している東都病院心療内科に到着した。第三の被害者如月武蔵が昨日湯里の所にカウンセリング行っていたという情報を合田たちは受けていた。
その際に何か変化がなかったのかを彼らは湯里に聞きに来た。合田たちは診察室で湯里に会っている。
まず合田たちは警察手帳を見せる。
「警視庁の合田だ」
「同じく警視庁の月影です。湯里さん。昨日如月武蔵さんがあなたの所にカウンセリングを受けにきたそうですが、何か変わったことはありますか」
「ゆのさとです。如月さんは特に変わっていませんでしたよ。昨日は桐嶋君とお話しをされていました」
「桐嶋君というと、桐嶋師走のことか」
湯里は頷いた。
「はい。そうです。桐嶋君もカウンセリングを受けているのですよ」
「だから桐嶋師走と12月24日は飲み屋ブラッグ大河で飲んでいたのか」
「そうですよ。良く知っていますね。僕と桐嶋君が飲んでいたということを」
「先日の聞き込みで知りました」
「そうですか。桐嶋君と飲んだのはカウンセリングの一環です。お酒の力を借りて桐嶋君の闇を具現化したかったので飲みに誘いました」
月影は質問を続ける。
「本題に入りますが、如月さんはなぜカウンセリングを受けていたのでしょう」
「悪夢です。怪物のような生き物に食い殺される夢を毎日見るそうです。その治療のため絵を描いてもらっていますが、それを見ますか」
湯里はスケッチブックを合田たちに見せる。
合田がスケッチブックをめくると、そこには不気味な怪物が描かれている。その怪物はページをめくるごとに不気味さが増していく。
「この怪物の正体は何か分かりますか」
「それが分からないのです。最初は青空運航会社社長としての責任が具現化した姿ではないかと思ったのですが、治療を続ける内に怪物の不気味さが増していくので違うようです」
「ということはこの怪物の正体が連続猟奇殺人犯かもしれないな。部下から如月武蔵は命を狙われているらしいという報告を聞いたから間違いない」
合田の一言を聞き湯里は頷いた。
「そうかもしれませんね。不気味さが増していくのは、殺人鬼に殺害される恐怖が増していったから。それだと説明ができそうです。如月さんの命が狙われているなんて知りませんでした」
「それは妙だな。如月武蔵は悪夢を見ないようにするためにカウンセリングに通っているのだろう。だったらなぜ如月は湯里に命が狙われていることを言わなかったのか。分かるか」
「警察沙汰にしたくなかったからではないですか。この心療内科と警察は連携をしていますから、命を狙われているなんて言ったら警察に通報されてしまうでしょう。だから言えなかったのでしょう」
「最後に、12月26日午後4時20分から午後5時40分までどこで何をしていた。覚えていたら12月25日の午前4時50分どこで何をしていたか教えてほしいのだが」
「25日は寝ていました。証人はいません。26日の方は診察をしていました。その時間帯なら桐嶋君のカウンセリングだったかな。事件とは関係ないかもしれないが、午後7時から東都ホテルで朝霧睦月君と食事をしたよ」
合田と月影は会釈をすると診察室を後にした。




