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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act 8 それぞれの思惑

リィン指揮下の解放軍は、初回の会戦に勝利を収めた。


機械兵の総本部では、看過できない敗戦に軍議が開かれるのだが・・・

反攻に転じた人類解放軍の情報は、直ちに総本部のあるニューヨークへ齎された。


機械兵を伴った戦車部隊が壊滅の憂き目に遭わされ、漸く事態が看過できないのを悟ったのだが・・・



「我等に反撃するなど以ての外」


戦闘人形でありナンバー付きの将が吠える。


「いや、ナンバー03よ。

 滅びゆく者が悪足掻きするのは必定」


「如何にも。ナンバー06の言う通り」



それぞれが1軍の将でもある戦闘人形バトルドール上級将官達が、バベルの塔で軍議を開いていた。

目下の議題は反抗して来た人類の軍に対して、どのような手を持って応じるかにあった。


「全軍を以って直ちに殲滅に追い込む必要があると思われるが?」


「いや、全軍をつぎ込む等、愚の骨頂だ。

 核ミサイルで葬ってしまえば良いだけと思うが?」


一人は全力で応じよと言い、また別の者は核攻撃で敵の意図を頓挫させ得るとも言う。


「どちらにせよ、このまま放置はしておれぬ。

 方面軍を創設し、直ちに逆賊を討たねばならぬことは明白だぞ」


反攻して来た人類の部隊が、抗しきれない程の勢力になる前に叩き潰さねばならない。


「戦術核を使うかの判断は、現地に派遣される将に一任すれば良い。

 無駄に使ってしまえば、我等の行動にも支障をきたすからな」


敵の部隊に向けて使用する戦術核ミサイルだが、使用を間違えれば無意味にもなり、却って自分達に被害が及ぶ事が懸念された。


「人類の部隊が広範囲に展開していたら、戦術核ではなくて戦略核を使用せねばならんのだからな」


反攻してくる解放軍が、一部隊だけには限らない。

報告された部隊以外にも存在しているのかもしれないと。


「それならばいっそのこと、中西部全土に対して無差別攻撃をかければ良い。

 全土を焦土化し、人類をすべからく葬ってしまえば良いのだ」


情けなど、元より無用だと結論付け。


「創造主に、上告して許可を頂こう」


戦略核を以って駆逐すると軍議を決した。


軍議を開いていた上級戦闘人形達が、広間を出て謁見の間に向かおうと歩み出した時。


「ファースト閣下がお着きになられました」


近衛兵がナンバー01の到着を報じて来る。


「なんだと?死神人形ファースト様が帰還されただと?!」


「閣下は機械軍団を率いられて、まだニューヨークには程遠い筈だが?」


帰還予定は2週間後と予定されていた。

脚の遅い部隊を率い、各地を制圧しながら北上していたのを知っていたから。


「ファースト閣下がお越しになられます」


だが、近衛兵は慇懃に頭を下げて道を開けるのだった。



 ざッ!



戦闘服を着て赤黒いマント姿の少女人形が、颯爽と将達の前に現れる。



 ギラリ!


紅い瞳でナンバー持ちの将官達を睥睨し。


「人類解放軍には、御子が居るのを知らないようね」


どこから聴き齧って来たのか、


創造主タナトスに核攻撃の許可を求めるのなら。

 解放軍には御子が居ると報告してからにしなさい」


核を使うと言っていた将達へ、戒めるのだったが。


「ファースト、それは誠なのですか?」


「その情報が確かだと言う証拠は?」


軍議を翻された将達が、挙ってファーストへと質して来て。


「証拠?証拠ねぇ・・・」


口元を歪ませた死神人形ファーストが、胸元から取り出したのは。


「これ・・・さ。この緑の指輪リングが全てを表す」


皆の前に突き出した手の上で、緑色のリングが輝く。


「それは・・・確か?」


中継されて来た画像の中で、茶髪の少女が填めていた。


「しかし、指輪だけでは解放軍に御子が居るとは・・・」


指輪を奪い取っただけだと思った将が、更なる証拠を求めるが。


「これのダミーを填めてある。

 代わりに渡した物には、発信機を内蔵させてあるのだ」


死神人形ファーストが教える意味は。


「つまり・・・御子は自らの位置を死神人形ファーストに知らせていると?」


「そうだ」


填めた指輪からの位置情報により、解放軍に御子が同道しているのは間違いないと。


「故に・・・破滅兵器の使用は禁ずる。

 御子の安全を計らねばならぬのだからな」


創造主の次に位する戦闘人形ファーストからの命に、


「御意」


将達は従うより他なかった。


「うむ・・・御子は此処まで連れて来なければならない。

 だが、他の者達は・・・殲滅してしまえ」


「ファースト閣下の命のままに」


御子であるリィン以外は、悉く死滅させろとの命にも服す。


「良いかお前達。

 あの娘が塔に辿り着けるように計らえ。

 連行するのではなく、自ら来るように仕向けるのだ。

 方法はお前達に任せるが、傷一つ与えてはならん。

 血の一滴でも溢せば、最終兵器の鍵として機能しなくなるかもしれんのだからな」


創造主の求める鍵の御子に、手を出す事を固く禁じて。


「分かっているとは思うが。

 しくじりは、則ち死を意味する。

 御子を手に出来なければ、ここに戻れないと思うが良い」


将たる者へも失敗を赦しはしないと告げる。


「残された期限は短い。

 一刻も早く連れて来るのだ、お前達」


ナンバー付きだろうとお構いなしに、死神人形ファーストが厳命する。

失敗は許さないと、失敗は則ち死を齎すと。



将と呼ばれるナンバー付きの戦闘人形達は、帰還して来た死神人形ファーストの元から足早に離れて行った。

自分が御子を連れて来ると意気込み、仲間の将さえも出汁にしようと。

機械なのに得点稼ぎに邁進する姿は、まるで浅ましい人のようにも観えた。


「フフフ・・・愚かな奴等め。

 お前達が束になってかかっても、おいそれとは行くまいに。

 リィンは自分で此処へと来る。

 遅かれ早かれ・・・いずれにしたって」


仲間の戦闘人形によってではなく、リィン自らの意志で辿り着くと。


「あの子には貼り付かせてある人形がいる。

 もしもの時には、私からのメッセージを直接伝えれば良いだけだ」


闘いが長引くのなら、最後の手段として考えておいた方法を以って。


「この指輪を取り戻しに来るよう仕向ければ、リィンはきっとくる筈だ」


ニヤリを嘲笑い、


「その時こそ・・・人類の終わり。

 その後には、リィンは私だけの傀儡にんぎょうになる」


全てを終わらせると嘲るのだった・・・







 ・・・人類に残された時間は、あと150日・・・





最初の本格的な会戦は勝利に終わった。


機械達が反抗の旗上りを打ち砕く為に寄越した部隊を蹴散らす事に成功した。

それは人間達にとって、初めての勝利と呼べる闘いだったのだが・・・



「来るでしょうか・・・隊長?」


キューポラに陣取るオーリア隊長に、砲主席のアルが訊く。


「間違いなく・・・な」


アルピノの瞳を彼方へと向ける車長が断じる。


「核を撃っては来ないのでしょうか?」


キャミィが心配しているのは、無差別殺傷兵器の使用と。


「衛星からの監視の目もあることですし」


上空遥か、衛星軌道からの監視の目からは逃れられないと。


「監視されているからこそ、撃っては来ないだろう」


機械達が見張っているのも、承知の上で撃たれないと断言する。


「あの娘が部隊に居る限りは・・・な」


「リィンタルト・・・ですね?」


振り仰ぐアルの答えに頷いたオーリアが、


「御子をむざむざ、殺しはしないさ」


敵にとって重要人物である鍵の御子を殺しうようなへまはやらないと。


「つまり我々にとっても、奴等にとっても鍵を握る娘だということだ」


ニヤリと哂う隊長に、3人の娘は頷いて応える。


「そうですよねぇ~、アタシ達の狙いにも」


キャミィが右の義手を撫でて。


「奴等の中に居る筈ですからねぇ」


アクセルとブレーキを踏んでいる両足を眺め降ろすラミアも。


「ケダモノも・・・居ますよね」


そっと下腹部を押さえたアルが唇を噛み、


「みんなの仇を討てる時が来ますよね?」


照準器に映る夕日を眺めた。


「ああ・・・その日は近いだろう」


彼方に燻ぶる砲煙と砂塵。

未だに砲火を交えている双方の部隊から離れて。


「俺達が相手をするのは・・・魔女ドールだけ。

 人の面を被った悪魔を葬るのが、俺達<魔女殺ストライカーズし>だからな」


片目を機械に換えて闘うオーリア。

彼女達の隊長として魔女を相手に戦い続けて来た。


「その日が来れば。

 俺達は、やっと安息が与えられる。

 因果を終え、宿命から逃れ、死を賜れるんだ」


死に損ないと揶揄される事も無く、願いを果せるのだと。


「死に別れた友達の元へも逝けるのですね?」


照準器に映る夕焼けを見詰めて、アルが涙を溢しそうになるのを耐えながら。


「友の恨みを晴らし、こんな体にした奴等を地獄へ堕とせる。

 その日が来たら私は・・・懐かしい人達に逢えるのですね?」


オーリアに訊いたのだ。


「そうだ。こんな穢れた世界ともおさらばさ」


ゆう日に照らされたオーリアの瞳が金色に染め上がる。


「魔女達の中には奴の仲間がいるだろう。

 そいつを追えば、きっと辿り着ける・・・バローニャの元へ」


恨みを抱く者が居て、宿命を叶える為に抗って来たと。


「機械達が反乱してくれたおかげで、やっと自由に闘えるようになった。

 機械と同化しているバローニャを、正々堂々と殺せるんだからな」


3人の娘達も、何も言わずに奪われた物を観て。


「右手と耳・・・そして戦友達」


キャミィが失った日を思い出して呟く。


「膝より下の両足・・・それに父母」


ラミアが唸る、壮烈な過去を想い。


「身体中を獣に穢され、お腹を破裂させられた・・・友の前で」


友を庇い、無惨にも凌辱されて果てそうになったアル。

腹部の機能を奪われ、下腹部から下をサイボーグ化されている。

少女にとっても女性にとっても耐え難い悲痛な処置を受けて・・・でも。


「恨みを晴らし、友の元へと行ける迄は。

 私はみんなと共に闘うと約束したのですから」


今在るのは、魔女の如き奴を倒す為に他ならないと。


「みんながそうさ、アル。

 だからリィンタルトの元から離れちゃいけないんだ。

 きっと奴の方からやって来る。俺達は待っていれば良いんだよ」


魔女殺ストライカーズしの狙いは唯一つ。


「バローニャを倒せれば・・・許されるだろう。

 無慈悲にも惨殺された皆の元へと。

 地獄へではなく、皆の待っている天国へ逝くことが・・・な」


死ねなかった者。

自らの死を欲する者。


魔女を狩る者達は、自ら呪った罪により死を賜れずにいた。

仇を討つ・・・その為だけに生きて来たから。

恨みを晴らすだけ・・・その時までは死ねないから。



「リィンタルト・・・俺達が宿命を終える時までは利用させて貰うぞ」


オーリア達は鍵の御子を手放さない。

自分達の呪いを断ち切るその日までは。


「世界が滅びようと関係ない。

 俺達に必要なのはバローニャを討つチャンス。

 宿命を断ち切るその日までは、護ってもやるぞ御子よ!」




其々の思惑が交差し、


各々が我欲に踊る・・・


世界は滅びるだけに終わるのか?




敵味方の中で交差する思惑。

貫かれる想いの果てに見えるものとは?


世界の運命を託されたリィンと、それに味方する者達。

機械に打ち勝ち、ニューヨークまで辿り着けるのだろうか?

人類に残された時間は僅かしかない・・・


次回 Act 9 敵部隊見ユ!

本腰を入れた機械兵部隊の接近。迎え撃つリィン達に索はあるのか?!

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