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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第4章 光と闇を抱く者 
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Act1 少女と乙女

人類に残された時間が日を追って短くなる。


残った日数で破滅から救えるのだろうか?

それは一人の少女に担わされているのだ・・・

地球上に核の嵐が吹き荒れてから、既に2週間が過ぎようとしていた。


爆心地付近には未だに放射能が漂っていたが、ある程度距離が離れた場所では脅威も大分少なくなり、人間の行動にも支障を与えなくなりつつあった。


尤も、それは機械達にも言える事なのだが・・・




アラバマ州北東部に位置するガリアテの街。

要塞都市として攻め寄せた20体の機械兵を邀撃し、壊滅に追い込んだリィンタルト指揮下の解放軍部隊も、いよいよ攻勢に打って出ようと準備を整えつつあった。

彼女を擁する人間の部隊は、噂を聞いて集って来る民兵や正規軍を含めると、その数3000にも膨れ上がっていたのだ。


しかし、集まって来た者達は各々に考え方が違い、それを統率するには幼き御子リィンには荷が重いみたいで・・・



「はぁ・・・一体いつになれば出発出来るのかしら?」


深いため息を溢すリィンが、傍らに控えるマックに訊ねる。


「お嬢、そう焦りなさんな。

 今暫くは、部隊構成を練り上げなきゃいけませんからな」


リィンの良き参謀アドバイザーとしての位置に居るマックが、焦る必要はないと言うと。


「そうは言ってもねぇマック。

 残された時間は半年も無いのよ?」


憂うリィンが、終末の日を思って愚痴を溢すのだが。


「3日前の邀撃戦を思い出すのです。

 機械兵20体を待ち伏せた、あの闘いが教えたではないですか」


リィンの初陣となった戦闘。

ガリアテ前面での野戦が参考になるだろうと言って聞かす。


「我々が奇襲を加え、圧倒的有利な条件だったのに苦戦を強いられたのは。

 味方が先走って接近してしまったから、陣形が崩れて窮地へ追い込まれそうになったからですぜ。

 それというのも、俺達が停めるのも無視しやがったジュノーの部下の所為なんですがね」


苦虫を噛み潰したように吐き捨てたマックは、指揮統率が完全ではなかった事が欠点なのだと教えているのだ。


「あの時点では、リィンお嬢に責任はありませんがね。

 ジュノーの叔父貴が部下達に徹底出来ていなかったのが原因ですんで」


「でも・・・アタシにも責任はあるわ。

 マックが停めたのに救援に駆けつけようとしたんだから」


闘いの後半で、自らが冒した失敗を認めるリィンが。


「だから同じ轍を踏まないようにって、言うのよねマックは?」


「如何にも・・・お嬢は物分かりが良い」


今暫くの間は、部隊の編制と人心掌握に務めなければ、出発できないのを納得させられた。


「良いですかいリィンお嬢。

 一旦出撃すれば、もう後戻りは出来ませんぜ。

 旗を立ち上げて攻め上る決意なら、一度の敗北でも人心は離散すると心してくだせい」


「分かったわよマック。

 あなたが心配するなら、もう少しだけ我慢するわ」


そうするより他は無いと諭されて、将であるリィンは参謀マックに同意した。


「でも・・・」


しかし、まだ思いつく事があるようで。


「でも、敵の第2波が襲っては来ないかしら?

 こちらの拠点を知ったのなら、波状攻撃をかけては来ないの?」


こちらが手を拱いているのなら、敵の方が攻めて来ないかと気にしての発言だったが。


「その事なら。

 あの闘いを勝利へと導いた奴等が手を打っていますんで。

 相当の兵力で向かって来ない限りは、奴等が駆逐してしまうでしょうな」


「あ・・・そうか。魔女殺ストライカーズしさん達が偵察に行ったっけ」


窮地に追い込まれそうになった時に現れた魔女殺し達。

一両の戦車で反撃に転じた機械兵を悉く叩きのめしたのを思い出して。


「そっか、それなら任せておけば良いんだよね。

 あの方達が易々と通らせたりはしない筈だから」


斥候を兼ね、街の周囲を見張る魔女殺ストライカーズし。

どれ程の実力を持っているのか、本当の処は分かり得なかったが。


「あの方々なら、アタシ達の準備が整うまで敵を近寄らせないでしょうね」


「そうですな。並みの相手なら」


マックは知っていたのだ。魔女殺しが如何なる力を秘めているのかを。


「戦闘人形であれども、単独では奴等に勝つのは難しいでしょうな」


リィン救出戦の折、戦闘人形を見事に撃破したのを観ていたから。


「そうね。きっとそうなのね」


断言したマックに、リィンは疑いもせずに頷いて見せた。


ガリアテの街には人類の解放を求めて来た部隊が集っていた。

その部隊は、リィンを救世の御子と崇め奉る解放軍へとなりつつあったのだ・・・





 ・・・人類消滅まで、残り160日・・・






前に観た夢と同じ。

自分が誰なのかはっきりと分からない。

どこでどんな暮らしをしていたのか思い出せない・・・しかも名前さえもが朧気だった。


目覚める時に観た夢の中で、彼女の声が名前を告げた。

私はその夢の中で、オオガミ・ミハルと呼ばれた。

だけども、それは夢であり現実では無い。


本当にミハルと言う名だったのか?

私は夢の彼女が告げた名を、疑わず信じ込んでいるだけなのかもしれない。

しかもその夢の中で聴いた声が、この躰のモチーフであるミハエルさんだとは限らない。


確実なのはこの躰に宿らせてくれた人が、私が機械の身体だったと教えてくれたこと。

燃やされ破壊されて、消え去りそうになっていた私を、記憶という形で蘇らせてくれた。


でも・・・

でも、本当に私は機械だったのだろうか?

人間としての記憶の欠片が、それを否定している。

痛みや辛さをも感じるのは、私が人間であったのを裏付けてはいないのだろうか?


なにもかもが虚ろ気で、何一つ確証が無い。


だけど、たった一つだけ確実なことがある。


それは・・・今の私には掛替えの無い人が居ると云う事。

傍に寄り添って居たい人。愛を感じ、愛を告白した人が居る。


その人は、消え去ろうとしていた私を助けてくれた。

その人は、私の愛を受け入れてくれた。


そして旅の終着駅を共に迎えようと願ってくれた。


私はその人との約束を守らなければならない。

そう・・・確かなのは、たった一つの約束を守らなければいけないというだけ。

彼との約束を・・・ルシフォルとの誓いを。



ー ルシフォル・・・ルシフォルと離れたくない・・・


前の夢との相違点。

私が誰であったのかなんて知らなくても良い。

目の前が靄に霞もうと関係ない。


ー 逢いたい・・・逢いたい・・・逢わせて・・・


周りが霞んでいても手を伸ばし続けるのは、約束を守りたいが為。

二人で交した愛を繋ぎ止めたいだけ。


伸ばした手の先に、一つの影が見えて来る。


ー ああ!見えて来る・・・大切な人が!


もっと近くに。もっとはっきりと見たい。


必死に手繰り寄せる私の手の前で、影に色が付き始める。

朧気に観えていた影が、やがて輪郭を模り・・・


ー え?!あなたは・・・誰なの?


茶色い髪色。蒼い瞳・・・の、


ー あなたは?!グランの画像に居た女の子?


哀し気な顔を見せる少女。

私に向けて差し出している手は、何かを求めるように差し招いている。


何か?何を求める?

私を?なぜ求めているの?


ー 違う・・・私の求めるのはルシフォルなの。あなたではない・・・


・・・筈。


だとしたら、機械であった私の傍に居たこの娘は・・・誰?

どうして燃やされ果てそうになっていた私に手を伸ばした?

なぜ、機械達に取り囲まれ捕らえられていた?


ー 私は彼女に逢わなければいけない・・・真実を知るには!


蒼い瞳の少女に逢って、自分との関りを訊かねばならない。

真実を知り、自分を取り戻さなければいけない。


ー この躰をミカエルさんへ返し、本当の自分でルシフォルに愛を告げる為にも・・・


本当は躰を返すなんて怖くて堪らない。

でも、ルシフォルは言ってくれた、目覚めた時からミハエルさんではなく<ミハル>が好きだと。

宿った身体ではなく、目覚めたミハルを好きなのだと言ってくれたから。


だから・・・逢わねばならない、あの娘に。

会って本当の自分を取り戻して・・・ルシフォルへ全てを捧げたい。


喩え自分が人間では無くても。

機械の身体に宿るだけの存在だとしたって。


夢が再び靄に霞み出す。

茶髪の少女も、私自身の意識も。

何もかもが再び靄の中へと堕ちていく・・・


だけど、今は。

たった一つの約束を胸に抱いて、彼と共に旅を続けたい。

それだけが、私にとっての幸せだと思えるから・・・・



「ルシフォル・・・」


重く感じる瞼を、ゆっくりと開いていく。


「ルシフォル?」


聴いたことの無い少女の声が訊き返して来る。


「そう・・・私の大切な人の名」


「ふぅん?あのひとのこと?」


あどけない感じの声が、私の傍から訊いている。


「だったら呼んで来ようか?」


ー え?呼んで来るって?


ぼやけた頭に光が燈った。



 ガバッ!



飛び起きた私だけど。


「い、痛たたたたぁ~」


どうしたことか、身体中の筋肉が痛んで叫んでしまった。


「もう!無茶したら駄目じゃない。

 3日も昏睡状態だったんだからね!」


飛び起きたは良いが、痛みに蹲る私へ。


「あなたはねぇ、お姉ちゃん。

 化け物みたいな機械に襲われたんだよ?

 良くも生きていられたモノだって、クーロブお爺ちゃんも言ってたわよ」


傍らに居る、赤毛の女の子が呆れたような顔で観ていた。


「化け物・・・そうだわ、ルシフォルさんは何処に居るの?!」


痛みを堪えて、女の子へ訊き直して。


「酷い傷を負ってしまったのルシフォルさんは!」


自分よりもルシフォルを心配していたのだが。


「ふぅ~ん、あの人って・・・お姉ちゃんの彼氏なんだぁ?」


女の子は茶化して来るだけで、教えようとしなかった。


「か・・・彼氏ぃ~?!

 あなたねぇ、大人を揶揄うにも程ってモノが・・・」


「図星・・・ね」


どっぎゅ~ん・・・と、的を射られたミハル。


「そ、そ、そ、そ。そんな事は?!」


「図星」


で?トドメを刺されてしまった。


「・・・・」


「言い返さない処を観ると・・・ズボシ」


挿絵(By みてみん)


赤毛の少女は、勝利を宣言するような目でミハルを観てから。


「私はミルアと言うんだけど。お姉ちゃんは?」


名乗ってくると、


「確かミハルって言うんだよね、ルシフォルって人から聞いてたから」


部屋に居ないルシフォルの話を出して来る。


「そうなの、私はミハルって・・・て?!

 ルシフォルさんは?今どこに?」


聞き流しそうになったミハルだが、


「無事なのね?話す事が出来るくらいまで快復したんだよね?」


自分の事を話せたと言ったミルアに訊ねた。


「ふふん!気になる?だったら少し待ってて」


癖っ気のある紅い短めの髪を靡かせ、部屋の外に駆けて行く。


「ルシフォルさん・・・ルシフォルは無事だったのね?」


ほっと安堵のため息を漏らす。

あれ程の疵を受けていたのだから、無事な訳が無いとも思えるのだが。



「ミハル?!気が付いたのかい?」


耳に飛び込んで来たのは、まぎれもなくルシフォルの声。


「がうがう~?!」


・・・と、グランの吠える声。


「さぁ!ご対面~!」


と。ミルアのふざける声だった。


駆けこんで来た人の顔を観た瞬間。


「あああ~!ルシフォル」


寝かされていたベットから跳ね起き、痛みも忘れて縋り付いてしまった。


「ミハル・・・身体はもう良いのかい?」


胸に飛び込んで来たミハルを、優しく包み込むルシフォル。


「あああ~ん!もう逢えないかと思っていました」


泣きむせぶミハルがルシフォルの胸に顔を埋めて。


「・・・って?あれ?防護服は?!」


衣服が違う事に漸く気付いた。


「ははは・・・そそかっしいなぁミハルは。

 もう防護服なんて着なくてもいいんだよ、ジョージアではね」


「ジョージア・・・へ?」


ボケっを噛ますミハルに。


「トンネルを抜けると・・・そこは?」


「雪国・・・違うぅッ!そうでした、ジョージア州なのですね」


はた・・・と、気が付く辺りは天然か。

そして今居るのが放射能汚染から逃れられているのが分かり。


「ルシフォルさんの顏が・・・こんなにも近くに。あわわ」


胸に飛び込んだというのに、今迄気が付かない方が可笑しいのだが。


「もう、心配しなくても良いんですよね?

 放射能を浴びる惧れも、身を守り続けなければならない必要も無いのですよね」


「ああ。そうだともミハル」


ルシフォルの口から肯定されて、やっと本当の事なのだと理解した。


「グランも!無事で良かったね」


ルシフォルの傍から離れようとしない機械の犬へ手を伸ばし、


「あなたが私達を助けてくれたの?ありがとう」


わさわさと頭をなでてやる。


「いや、違うんだよミハル。助けて頂いたのは・・・」


ミハルを抱いているルシフォルが訳を話そうとしたのだが。


「気が付いたようじゃのぅ、お嬢さんも」


歳枯れた声が割って入って来た。


「助けたのは確かにそのグランとかいうロボット犬だが。

 此処まで運んだのは儂と孫のミルアなんじゃぞ」


白髪で髭を蓄えた、恰幅の良い老人が部屋へと入って来ると。


「そうだよ~ミハルお姉ちゃん。

 クーロブお爺ちゃんの言う通りなんだからね!」


白髪のクーロブと赤毛の少女ミルアによって救われたのだと知らされた・・・



トンネルを抜けた場所は、ジョージアだった。

目覚めたミハルの前に立つルシフォル。

あれほどの傷を負ったのに、ミハルよりも先に目覚めていたとは?


二人を救ったのは老人と少女?!

癖毛のミルアはどことなく飄々としていて・・・・


次回 Act2 薄幸のミルア

君は生き残れたのを不幸だと言うのか?

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