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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第3章 闘う宿命
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Act11 翠の輝

目覚めたのは戦闘人形の記憶か?

失われたものとばかり思われていたが・・・

記憶の少女は触手を繰り出すメデゥーサボールと闘った。


失った筈の記憶が蘇った時、少女の宿命もまた目覚めたのだ。


「そう・・・私は・・・闘う宿命を背負った。

 もう一度逢うと・・・あの娘と約束を交わしたのだから」


右の手首に浮かび上がる翠の光。

小さく燈る光の中には、数字の<ゼロ>が浮かんでいる。


「しかし・・・この躰では難しいかもしれない。

 あの死神人形フューリーを叩きのめすには、やわ過ぎるようだな」


パワーユニットである翠の光が燈っている右手を見て。


「人間だった頃を思い出させる・・・痛み。

 それにこれは・・・血なのだろうか?」


殴りつけた際に裂けた皮膚から滴る紅い液体に。


「人ではないが人に近い存在。

 機械でもあるが純粋な機械人形ドールでもない」


骨は砕けてはいない・・・鋼の敵を打ち破っても。


「ホムンクルスでもなく、クローンでもない。

 半分は機械、もう半分が人・・・つまり、キメラのような存在か」


宿った容が何者であるのかを問い詰めて。


「闘い続けるには、もっと力が必要だ。

 戦闘人形バトルドールを相手にするには武器も必要だな」


闘い続けるには、身体をレベルアップさせなければならないと言うのだ。


「エイジが居ない現在、頼れるのはヴァルボア教授くらいなものだが・・・」


元の戦闘人形とまではいかないまでも、相当の戦闘力を欲しがる。


「なにせ、こんな目玉の機械を倒すのに苦労する位では・・・な」


右手に疵を負い、不必要な時間を費やしたから・・・と。

破壊し終えたメデゥーサボールの残骸を見下ろし、


「それに。

 この躰では長期戦も戦えない。全力では1時間とは保てないだろう。

 フルブースト状態で闘った今のように・・・」


もう間も無く稼働限界が訪れると・・・


「その前に・・・やっておかなければならないな」


残骸と化したメデゥーサボールから、傍に控える姿へと顔を向け直して。


「君はその男を運んでくれ。

 私はもう一人の記憶たましいに身体を譲るから」


膝を着いて、控える者へと話しかけ、


「それから・・・私が蘇ったのを教えないでくれよ、グランド」


頭を撫でて頼むのだった。





身体中が痛い。

まるで筋肉が引き裂かれるような痛みが、全身を駈け廻る。

それよりも増して、右手の指が折れてしまったかのように動かない。


「う・・ああ・・・」


痛みで我に返らされる。


「あぅ・・・う。私・・・どうしちゃったの?」


なぜ倒れているのか?

どうして何も思い出せない?


それに・・・


「あ?!あのバケモノは?ルシフォルは?!」


無理やり身体を起こして周りを伺う。

ホンの手の先に見えるのは・・・


「ルシフォル!」


自分と同じように倒れたままのルシフォルの姿が。


「ルシフォル?!ねぇルシフォル?」


もう少しで触れられる距離に倒れているのに。


「ぐぅ?!」


起き上がろうとした身体に激痛が奔り、堪らず苦悶の叫びが漏れて。


「ルシフォル・・・ルシフォル・・・」


痛みで眼が翳むが、どうしても傍へと辿り着きたくて。



 ズル・・・ズルリ・・・


動く度に全身から痛みが襲い掛かるが、


「離れたくないよ、触れたいよ・・・ルシフォルに」


僅か1メートルの距離が、こんなにも遠くに感じて。


「せめて・・・手に触れさせて・・・神様」


息絶えるのなら、想い人の手にだけでもと。

ブルブル震える手が伸び、力尽きる寸前にやっと。


 パタリ・・・


ルシフォルの手の上に被せられた。


「ああ・・・ルシフォル・・・いつまでも一緒に・・・」


遠退く意識の中、


「この手を・・・離さないで」


微笑を浮かべる顔で、ミハルは最後の瞬間に願った。




「ががう?」


ルシフォルとミハルの二人が気を失っている傍らで。


「がう?!がぅぅ~」


グランが吠えていた。



ここはフロリダから通じたトンネルの出口付近。

外の光が差し込んで、グランを照らし出している。


「がう~ぅ!」


吠えるグランは出口に吠える。

道路に黒い物が現れ。


 ゆらり・・・


こちらへと黒い物が伸び続けて。


「がう!がううッ!」


その声は警戒している訳ではない。

揺れ動いているのは、道路に映る影だ。

その影がゆっくりと伸びて来ている。


「がう!がうう!」


吠え続けているのは近付く者に教えようとしていたから。

ここに二人が居ることを。



 ジャリ・・・


靴音が鳴る・・・と。


「・・・小鬼だ。小鬼が居る」


光が差し込むトンネルに、誰かの声が木霊した。


「犬型の小鬼じゃ」


立ち止ってグランを観ているのか、影が進もうとしなくなって。


「機械じゃのに、人の傍で吠えとるわい」


「ホントだ!倒れた傍から離れないね」


影が大きいのと小さいものとに別れると、

歳枯れた男の声と、張りのある少女らしき声が影から流れ出て。


「死んどりはせんじゃろ?」


「そうだね多分、お爺ちゃん」


倒れた二人の傍から離れないグランの前に、老人と少女の影が再び進み出た・・・








ガリアテの北、およそ10キロの距離。


荒涼たる平原に、砂塵が舞っている。

ゆっくりと街の方角に向かう砂の壁の下に観えるのは、芥子粒ほどの黒い塊。


その黒い物がゆるゆると動き、砂を撒き散らしているのだ。


黒い物?

ゆっくりと動き、ガリアテの街へと近づく物?


北の方角から向かって来る黒い物とは?



「どうやらお嬢を奪い返しに来たようですぜ?」


黒服が双眼鏡を向けたままで、


「数は20程もいますぜ、マクドノーの兄貴」


後ろに居るマックへと報じるのだ。


街の外周部に張り巡らせていおいた偵察所からの一報で、機械達が攻め寄せて来たのを知った。

北の方角から向かって来るのであれば、リィンを追って来た部隊だと判断できる。


それ程早くない進撃速度から、敵が軽快な兵力ではないと考えられるが。


「あれはパスクの街で観たことのある、重装甲型機械兵だと思えますが?」


双眼鏡に写り込む敵の姿に、見覚えがあると黒服は答えて。


「奴等には大砲ぐらいでなきゃ歯が立ちませんぜ?」


分厚い装甲を誇る敵には、小銃の弾如きでは対処不能だとも言うのだ。



「ふふふ・・・らしいですぜ、リィンお嬢」


黒服の言葉に、マックは傍に控える少女へ伺いを立てる。


「機動力の無いのろまな敵が相手らしいのですがね。

 重装甲が自慢なだけの機械兵と闘わねばならんようですが・・・」


サングラスの中で、マックの眼が笑っていた。


「重装甲って言っても、弱点の一つや二つがある筈じゃなくて?」


茶髪を掻き揚げるリィンが、マックに問いかけると。


「その通りですぜ、リィンお嬢」


我が意を得たりと、頷いて見せてから。


「いくら装甲が分厚くても、装甲の無い観測装置に弾を受ければ。

 標的を選ぶ事も、攻撃するのにも支障が出ますんでね」


機械兵達と交戦するにはどうすれば効率的かを教えるのだった。


「先ずは、相手の眼を潰してしまえば良いのね?」


「小口径の弾で重装甲の相手と闘うには、それが効果的ですんでね」


マックは気安く言ったが、問題は敵の眼を潰せるのかが焦点なのだ。

弾をウィークポイントへ直撃させられるには、余程近寄らねば難しい。


こちらが何処まで接近できるかが、勝利の別れ目だとも思えたが。


「敵はゆっくりでも動いているわ。

 動く的に対して、どうすれば当てることが出来るの?」


至近距離まで近寄るのか、それとも遠距離でも狙撃が可能なのかと問うリィンへ。


「お嬢、答えは簡単。

 動こうが動けまいが、必ず当たる距離まで引き付ければ良いんですよ」


「・・・マック。任せるわ」


簡単だと言われて、頭に何も描けなくなったリィンは、参謀に匙を投げたようだ。


「良いでしょう。

 これが闘い方の基本だと覚えて頂けるのなら」


腕を組んで敵の方を睨んでいるリィンへ、慇懃に答えるマックが。


「戦闘は先に敵を知った者が絶対に有利なのだと。

 敵を知り、先に手を打った者に勝利が転がり込むと、覚えてくださいリィンお嬢」


「うん、アタシのマックが勝ち方を教えてくれるのならね」


戦闘とは、敵より先に発見して対処する事に全力を尽くせと教えるのだ。


「それこそが見敵必勝。

 今の我々は、敵には発見されていませんからね」


傍らに居るリィンに、自分達が待ち伏せを敢行した有利性を知らせて。


「奴等に目に物見せてやりましょうや」


初陣の将であるリィンにとって、この闘いが初勝利をも手に出来ると言ったのだ。


「リィンお嬢の名は、この闘いで広まる。

 それによって仲間を集いやすくもなるだろう。

 その為の一戦。その為の勝利なのだ」


リィンの参謀を務めるマックは、この闘いの後まで図っていたのだ。

人類の希望リィンタルトをして、世界を制するのだと。

それがリィンの母、ミカエルへの忠義の証なのだと考えて。

運命に翻弄される二人。

一人は世界の運命を握る鍵の御子。

もう一人は戦う宿命を課せられた戦闘少女。


いつの日にか合間見えることが出来るのか?

今はまだ、己が宿命に翻弄されるだけだった・・・


今話で第3章もお終い。

次回からは 第4章 光と闇を抱く者 が、始まるのです。

タナトスの野望を砕こうとするリィン達、人間の解放軍。

死神人形との宿命を果たそうとする戦闘人形レィ、そして今はミハルと名乗る娘。

各々の想いはやがて一つの奇跡を呼ぶ・・・


次回 第4章 光と闇を抱く者 Act1 少女と乙女

彼女が目覚めたのは、想い人の胸に飛び込んだ時だった・・・

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