Act4 燈る想い
危険な影が姿を現す。
暗がりの中で、ミハルは窮地に立たされる・・・
谷合で野宿していたミハル達の前に姿を現した人影。
暗がりの中、星の灯りを背景に浮き出て来たのは・・・
「ロボット犬と一緒に居るのなら、お前達は機械達の仲間なんだろう?」
「人間ならロボット犬に噛み殺されている筈だよなぁ」
二つの影はグランを敵視している。
岩肌から浮き出る人影は、星明りにキラリと反射する刃を手にしている。
「それともお前達は人間ではないと言うんじゃないだろうな?」
にじり寄って来る影が、ミハルを庇う様に唸るグランを指して。
「もし人間ではないのなら、その犬諸共に壊してやるぜ」
影の男達は、機械を敵視している。
しかも一緒に居るというだけで、ミハルへも憎悪を募らせているのだ。
一方的に憎しみを向けられ敵視されるミハルは、庇ってくれるグランの傍から離れることも出来ずに。
「待ってください!
私達は旅をしているだけで、あなた達に狙われる謂れはありません」
自分が人間ではないのを明かせず。
「それにこの犬は人を敵だと思ってもいませんから」
ロボット犬ではあったとしても、人に危害を加えないのだと教えるのだが。
ズル・・・・ズルリ・・・・
影だった男達の姿が、薪の残り火に照らされて。
「ひッ?!」
ボロボロの衣服を纏い、火に炙られたような火傷が所々に観える。
一人の男は大柄で、片方の男は太って見えるのだが。
双方共にバケモノか悪魔の様に醜く顔を歪めていた。
「女・・・俺達が悍ましいか?
こうなったのも機械達が襲ったからだぞ」
「核の光を浴び、機械達に追い回されたからなんだぞ」
幽鬼にも見える身体。
身体のあちらこちらに観える傷、火傷。
そしてボロを纏っている姿は、戦火の中を逃げ惑って来た証だろうか。
「俺達だけじゃない。
友達や家族、親しい者達全てが・・・死んでいった。
いいや、もう間も無く・・・死ぬ。機械共が始めた戦争でな!」
キラリと反射するナイフを片手に、大柄な男が歩み寄る。
「俺達だってそうだ。
浴びてしまった放射能で、いつ死ぬかも分からないんだからな」
太った腹をボロから出しているもう一人が。
「だから・・・死ぬ前に。
俺達をこんな目に遭わした機械に復讐してやる。
ロボットと一緒に居る奴も・・・同罪だぜ」
グランに庇われるミハルを睨みつける。
核兵器により、この男達は生死を彷徨ったのだろう。
機械達が襲い掛かり、親しい人を喪ったのだろう。
憎しみや恨みが募り、見境なく機械というだけで襲った。
どんな機械だって良かったのだろう、死ぬ前に恨みの一つだけでも晴らそうとして。
彷徨う内に灯りが見え。
近寄ってみればグランが居たというだけで、ナイフを投げて寄越した。
「やめてください!
私達にどうする気なのですか」
刃物をチラつかせ、脅しをかける相手に。
「あなた達に何を差し出せば赦して貰えるのです?!」
意図しない争いは、互いに不幸を齎すだけだと譲歩したのだが。
「そのロボット犬を動けなくしろ」
「犬を壊されたくなかったら・・・アンタが俺達を癒してみろよ」
亡者のような男達からは、脅迫しか返されなかった。
「癒す・・・まさか?」
自分を人間だと思い込んでいる男達が求めたことに、ミハルは危険な匂いを感じ取った。
人間として・・・女として。
「嫌なら・・・その犬もお前さんも。
そこに横たわっている奴も・・・切り刻むだけだぞ」
拒絶すれば男達は襲い掛かり、刃物で斬り付けてくる。
それが単なる脅しではないのは、投げられたナイフが物語っていた。
ー この人達は、自分の命が永くはないと思ってる。
だから半ば自棄になって罪を犯そうとしているんだわ・・・
自分が死んでしまうのなら、その前に好きなようにしてやろうと思う自暴自棄的な心理。
目の前に恨みの対象が居て、その傍らに女性が居たら・・・
「途中で死んじまったら許せよな。
あ?
ああ、手加減はしねぇぜ?
死ぬのはお前さんってことさ」
大柄な方の男が、悍ましい言葉を投げてくる。
「こいつの趣味は悪質だからなぁ。
俺達の相手が務まるのか・・・まぁ覚悟するんだな」
太った男からは、二人同時に相手をしろと含ませてきた。
ミハルが拒否するとは考えていないのだろうか。
黙って男達が嘲るのを聞いていたミハルだったが。
「・・・嫌です」
一言で拒否した。
「な?断るのなら・・・」
「お前等を殺すだけだぞ」
拒絶された二人が、更に脅そうとしたが。
「ルシフォルさんに危害を加えるというのなら、私はあなた方を許しません!」
キッと二人を蒼い瞳で睨みつけ、グランの陰から立ち上がるミハルが。
「不幸なのはあなた方だけではないのです!
勝手な恨みを突きつけられるのは迷惑なだけです」
二人の男へと敢然と言い放つ。
「なんだとぉ・・・この女!」
「許さないと言うのならどうする気なんだ」
刃物を突き付けて脅す二人にも屈せず。
「護るだけです!」
両手を拡げて、伏せたままのルシフォルを庇うのだった。
「がうううぅ~ッ!」
勿論のことだが、グランも牙を剥いて二人の前に立ちはだかっていた。
ミハルとグランが男達へと啖呵をきった時。
「もうそのくらいにしておいたらどうだい?」
横になっていたルシフォルの声が停めに入った。
「死ぬのは誰だって怖い。
怖いからと言って、誰かに憂さを晴らそうとするのは間違いだよ」
ゆっくりと起き上がる防護服姿のルシフォル。
「君達は先が短いと言うけど、ボクだって同じなんだよ?」
防護服のマスクの中から、紅い瞳で男達を見詰めていた。
「同じだと?!放射線防護服を着ておきながら言うのかよ?!」
ナイフをルシフォルへと向け直して問い詰める大柄の男。
「同じだと言うのなら、マスクを外してみやがれ!」
この辺りは未だに危険区域内だから、外そうものなら被曝する虞がある。
本当に放射能に冒されているのなら、防護服を外せる訳がないと踏んだようだが。
「そうかい・・・信じてくれないようだね」
ルシフォルの手が、首へと伸びる。
「ルシフォルさんッ?!」
その行為を観たミハルが引き攣った声で停めるのだが・・・
カシュ・・・・シュン
防護服の機密が外れ・・・マスクが外されて。
「これでも、疑うのかい?」
銀髪のルシフォルが、紅き瞳で男達へと問う。
「こいつ・・・馬鹿かよ?」
「いや・・・左頬を観て見ろ。
こいつも光を浴びてやがるんだぜ?!」
ルシフォルの行為を馬鹿と罵るが、自分達と同じ火傷を観た後には。
「なぜ・・・被曝しているのに?」
今更防護服を着るのかと訊くのだった。
「なぜって?
それはね、ボクには死ぬまでにやり遂げなければならない事があるから。
旅の終着駅で待っている人が居るからだよ」
起き上がったルシフォルは、自分を庇ったミハルの元へと歩み寄ると。
「ボク達には目的があるんだよ。
それまで死ぬ訳にはいかないんだ。
黙ってこの地を通して貰えないかい?」
防護服のポケットから拳銃(SIG)を抜くのだった。
「う・・・ぐっ?!」
言葉を飲み込んでしまう二人の男。
拳銃を向けられては、刃物を握る手を降ろさざるを得ない。
「まだ・・・死にたくはないだろう?
見逃すと言ってくれるのなら、撃ちはしないよ」
自動拳銃を突きつけられた男達は、ルシフォルから後退り始めると。
「お前達は何処に行くと言うんだ?
目的って、何をする気なんだ?」
旅の目的。
それと目的地を訊ねるのだった。
「・・・楽園。
そこにいる裏切者へ会いに」
はぐらかす様にルシフォルが答えて。
「君達には悪魔の囁きは聴けても、神の嘆きは届かないようだね」
死に直面したという男達を煙に巻くのだった。
「なにを・・・言ってるんだ?」
「こいつ、きっと放射線でおかしくなってるんだぜ」
逃げるように男達は身を翻す。
「そうかもしれない。
でもボクには女神が傍に居てくれるから」
去って行く男達の背に、ルシフォルは呟く。
「ミハエルの身体に宿った、神の子なのだから」
ミハルを見詰め、ミハルの中に居る筈の義姉を想い。
「ルシフォルさんッ!
早く防護服のマスクを!」
泣きそうな顔で、ミハルが頼んで来た。
「どうして?!こんな無茶を?」
放射能に冒されているのは、薄々気付いていた。
だけど、危険区域でマスクを外したら・・・
「旅が続けられなくなったらどうするんですか!」
必死にマスクを着けようとして来るミハルにルシフォルが、
「大丈夫だよミハルさん。
もしもの時は、君に頼むから」
マスクを被せようとするミハルの手を取って。
「君になら・・・全てを託せると想うから」
ぎゅっと自分より頭一つ分背の低いミハルを抱いて。
「ありがとうミハル。
命懸けで護ろうとしてくれて」
横になっていた自分を守ってくれたのを感謝した。
「いいえ・・・当然ですから」
抱き締められて驚き、感謝を告げられたミハルは。
「ルシフォルさんを御守り出来るのなら」
抗いもせずにルシフォルの胸に頭を添えていた。
心の内に好意以上の感情を抱きながら・・・
仄かに燈る想い。
ミハルは機械の身体を持つ者としてではなく、人として傍に居続けたいと願う。
旅路の果てに訪れてしまう最期が分かっていても・・・
ガリアテのジュノーへと身を寄せていたリィンは、幹部達の前で今後の目的を明かす。
敵である機械の巣窟、ニューヨークのオークタワーを目指すのだと。
自分が鍵の御子であると告げ、ロッゾアの遺志を汲むのだと命じるのだが・・・
次回 Act5 軍議は踊る
説得するには少々芝居じみた真似をしても許されるかな?




