表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
魔砲少女ミハル最終譚 第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第1章 奪われた記憶
65/428

Act8 忌まわしき者共

語られるルシフォルの思い出・・・


その中で私は、悲劇の顛末を知る。

世界に蔓延る・・・戦争の裏で蠢く悪を。

ベットに並んで座った私とルシフォルさん。

二人の前には伏せている犬型ロボットが、耳をたてて聴いている。


「そうかい、君も聞きたいんだね」


「がぅ!」


一声鳴いて応える犬型ロボットへ微笑むルシフェルさん。

私は横に座りこれからどんな話をされるのだろうかと、心持ち緊張していたのだけど。


「これから話すのはね、ボクが知ってる範囲の話。

 兄や義姉がどう思っていたのかは憶測だからね」


観て来た真実だけを語ると前置きされたの。


「ええ、承知しました」


それがルシフェルさんらしい、気の配り方だと感じた。

聞き手の私に対する配慮から、ぼやけた言い回しをすると仰られたのだろう。


「それじゃぁ話すね・・・ミハルさん。

 先程も話した通りなんだ。

 初めてミハエル義姉ねぇさんと逢ったのは、今から4年前・・・」


思い出の中へ入って行かれたのか、少し上を向きながら話し始めるルシフォルさん。


「出逢ったのは兄に紹介されたから。

 同じ想いを抱いている同士なんだって・・・なんて、誤魔化していたけど。

 逢った瞬間に分かったよ、同じ想いと言った意味が」


上に向けていた瞳を私に向け直して、分かるかい?・・・と訊かれた。


「恋人・・・って、意味ですね」


「御明察」


片目を閉じてウィンクして来るルシフェルさん。

私の緊張を解そうと、恋バナを絡めて語り始めたようだ。


「兄は若いながら人間工学の教授として名を知られていたんだ。

 しかも病理学や治癒法理学まで会得しているエリート教授だったんだよ」


「そうでしたか。立派な研究者だったのですね」


いろんな知識を得ていたらしいことが分かる。


「まぁね、ボクみたいな機械工学エンジニア専修ごときには雲の上の人さ。

 目指す処が違い過ぎて、兄弟なのに逢うのが2年ぶりだったんだよ」


私の感想に、頭に手を置いて兄を称える。

なかなか逢えないと言うからには、お兄さんは研究に没頭されていたのだろう。

でも、目指す処ってなんだろう?


私が小首を傾げて意味を訊こうとしたら。


「兄さんは不治の病に冒された人をも救えるようにしたかった。

 不老不死なんかでは無くて、絶たれそうな命を救ってあげたかったんだ。

 人間の記憶を脳波から読み取り、魂の代わりとして保存する。

 身体が治ったら元に戻す事にして、一時的に機械の身体に宿らせようとした」


「え?そんなことが・・・」


不治の病を治す為に?

人の記憶を脳波から読み取る?

ルシフォルさんの話は、あまりにも突飛すぎて分からない。


「可能だと・・・言っていたんだ兄は。

 そうすることで救えるんだと言ったんだ・・・義姉を」


「え?!」


でも、続けて教えてくれたのは悲劇の始まりに思えた。


「君の記憶に残っているかは分からないけど。

 世界は貧富の差が激しくて紛争が絶えなかった。

 ジャーナリストだったミハエル義姉は、仕事柄飛び回っていたんだよ。

 紛争地帯で何がおきているかをレポートする為に・・・」


「はい、私の記憶にも残されています。

 悲しい現実として、停めねばならない過ちだと思っていたようです」


なぜだか、そう答えるのが不自然ではない気がしていた。

人間だった頃の記憶の夢では、タナトス教授に憧れていたと答えていた。

平和を希求していたようにも思えたから。


「そうだね、二人の意見と君は同じようだ。

 兄タナトスと結婚した後でも、仕事として危険地帯へ赴くのを止めなかった。

 ボクは新婚の兄達が、互いの仕事を尊重しているのを理解していたつもりだった。

 危ないから辞めたら・・・なんて差し出がましい事を言える立場でもなかったしね」


ふっとルシフェルさんが言葉を切る。


私はこの後、何が起きたのかが少し分かりかけていた。

紛争地帯へ取材に訪れた折に、何かが起きたことを。


「中東の小国にガルシアという街があってね。

 国境を挟んだ隣国と政府軍の双方から無差別攻撃を受けていたんだよ。

 敵味方が入り混じる紛争地帯とでも言った方が分かり易いかな。

 数年も互いに鬩ぎ合い、住民の犠牲も甚だしかったんだけど・・・」


「酷い話ですね・・・」


段々とルシフォルさんの声が沈み込んでいく。


「そう、全く以って酷過ぎたんだ。

 二つの勢力は人の命を虫けら以下にしか思っていなかったんだろう。

 それだから十年もの歳月を経ても和解しなかったんだろう。

 戦闘員が足りないからと言って、機械の兵士を送り付けあったんだ。

 海外から機械兵を輸入してまでも、紛争を続けていたんだよ」


「機械の兵士を・・・ですか?」


うん・・・と、頷いたルシフェルさんが。


「機械の兵士と云ってもね、戦闘に特化した武器なんだ。

 見境なく人々を殺傷する悪魔の武器と言った方が良い。

 このが見せてくれた画像の中にも居たけど、屈強なボディーを持つ人型ロボット。

 そんな彼等が人々を襲い、無差別に殺戮を繰り返す。

 ミハエル義姉は世界に惨状を伝える為に渡ったんだけど・・・」


ごくりと、息を呑む。

この後、ルシフォルさんの口から出るであろう悲劇を想像して。


「ミハルさん。

 この後ボクが何を言うのかが分かるだろう?

 先に結論から言うと、悲劇は紛争地帯で起きたのではないんだよ。

 ミハエル義姉はガルシアで殺されたのではないんだ」


「え・・・そうなのですか」


少しほっとしたけど、良く良く聴けば悲劇は起きたのだと言われた。

現地ではないにしろ、とんでもないことが起きるのだとも。


「義姉は双方が放った機械兵についての情報を得ていた。

 それはこの国から秘密裏に送られていた武器についてだった。

 分かるかい?それはね・・・二つの会社が密輸していた事実なんだよ」


感情を押し殺したルシフェルさんの声が低くなる。


「密輸・・・されていたのですか?」


機械の兵士達を両方の勢力へ送りつけていたのなら、悲劇は延々と続けられてしまう。

しかも二つの会社からだとも教えられた。

つまりは企業間の鬩ぎ合いともとれるのだけど。


「そう。

 二社から武器を供給され続け、互いが降参するまで紛争は終わらない。

 その事実を国連で発表し、二社に対して制裁を発動させようとしていたんだ」


「確かに元を断ち切らなければ、終わりなんて来やしませんものね」


供給源を断てば、紛争も下火にならざるを得ないだろう。

そうする事で悲劇を停めようとされていたのだと分かった・・・けど。


「していたんだと、仰られましたが?」


制裁を発動させたとは言われなかった。

出来なかった訳とは?


「・・・発表前に。

 あいつらがミハエル義姉を暗殺しようと目論んだんだよ」


「あいつら・・・二社の放った暗殺者エージェントですね」


こくりと頷かれるルシフェルさん。


「オーク社とアークナイト社。

 両方とも機械兵を製造して密輸していたんだ。

 公には平和維持活動用だとか公表していたんだけど、

 裏では儲け話としか思っていなかったんだろう・・・」


無感情を装ってはいても、心の奥では憎しみが湧きかえっているように見える。

言葉の端々に、二社への怨唆が現れていたから。


「義姉は毒を盛られた・・・いや、正確にはVXガスを嗅がされてしまったんだ。

 身体に入ると数時間後には死に至らしめられてしまう猛毒を・・・」


「VX・・・ガス?!サリンですね」


なぜかは分からないけど、私の記憶にも似た情景がある。

誰かが、誰かに嗅がそうとしていたような・・・


「そのサリンをミハエル義姉は嗅がされてしまった。

 急報を受けたボクはタナトス兄の元へ駆けつけた。

 集中治療室で泣き叫ぶ兄を、どうする事も出来ないまま観ていたんだ」


「・・・酷過ぎます。自らの保身の為に人を殺めるだなんて」


二つの誤った会社に因って、義の人が殺められるなんて。

私には紛争を続ける人も、密輸した会社も同罪だと思える。


「しかし、彼等はその後も機械兵を造り続けたんだ。

 誰にも咎められる事なく・・・ね」


「人を殺める機会を作る会社も、それを使って殺戮を続ける人も。

 司法で制裁を科さなければいけない筈です。

 ましてや秘密を守ろうと暗殺するだなんて」


存続する二社に対して、憤りを覚えてしまう。


「せめて経営者に対して、裁判を行うべきではないのですか?」


経営トップの責任を追及し、密輸の罪を取らせるべきだと。


「出来なかったよ・・・密輸も暗殺行為も、証拠を隠滅されて。

 それに奴等は司法も警察権力さえも、傀儡にしていたんでね」


「そんな?!」


あんまりだと思った。あまりにも理不尽な話だと感じた。


「だから・・・そう、だから。

 あいつ等をのさばらしておけなくなった、ミハエル義姉の仇を」


怨唆の声が耳を打った。

初めてルシフォルさんが怖ろしいと感じた。


「まぁ・・・今となっては過去の話だけど。

 本題はそこじゃないんだよミハルさん。

 死の淵に立たされた義姉をなんとしても救おうとしたんだ、ボク達はね」


「ボク達?ルシフォルさんとタナトス教授ですね」


恨みの表情が和らぎ、私の問いに頷く。


「そうなんだよミハルさん。

 初めに言っていた兄の研究と、ボクの技術でね」


技術と言った処で、私を観る。


「あ、あの?

 もしかして・・・この躰を?」


ミハエルさんを救おうとして造ったのですか・・・と、訊いてみた。

すると微かに微笑んだ・・・ルシフォルさんが。


「ああ!

 本来ならミハエル義姉が宿る筈だったんだよ。

 脳が停まる前に・・・脳死に至らなければ、拒絶しなければ!」


「?!」


グイっと私の肩を掴んで、


「どうしてなんだミハエル義姉ねぇさん?!

 なぜ?生き続けようとしてくれなかったんだ?」


私をミハエルさんと混同してしまったかのように叫ぶ・・・


オーク社とアークナイト社。

二つの勢力が、互いに凌ぎ合う。

その結果が悲劇を生み出したと・・・


ここにも運命に狂わされた人の影が垣間見れた。

悪は身近に存在し、魔は密かに手を伸ばすのだと・・・


そしてルシフォルさんは私に教えた。

ミハエルさんの最後を!


次回 Act9 命のかたち

君の中には彼女が息衝いているのか?容を君に託して・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ