表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
魔砲少女ミハル最終譚 第1部 零の慟哭 戦闘人形編 魔弾のヴァルキュリア 第1章 奪われた記憶
62/428

Act5 朱に染まる空

そう・・・あのに会わなければ・・・


画像を見た私は感じていた。

奪われた記憶を取り戻す為には会わねばならないと。

印象に残ったのは、茶髪と蒼い瞳。

そして差し出されていた指に填められていた緑の指輪リング


ー きっと私を助けようとしていた・・・


差し出された手を観て感じた。


ー きっと悲しんでくれたに違いない・・・


叫び乍ら最期の瞬間を蒼い瞳で観たであろう。


ー 機械達に捕らえられてしまった、あの茶髪のは・・・


少女との間に、どれ程の絆があったのか?

自分はロボットで、あの娘は涙を溢せる人間。

その娘が、あれ程助けようとしていたのだから・・・


「深い愛情の故?親友と認められていた?

 ・・・どちらにしても、もう一度逢わなければいけない」


二人の絆をこの目で、この耳で確かめてみたい。

機械達に囚われたのなら、今度は自分が助け出したい。


「そう・・・あの茶髪の娘に逢わなければ!」


奪われた記憶も、彼女に逢いさえすれば取り戻せると思うから。


犬型ロボットのメモリーに残されていた画像で、私は少なくともやるべきことが分かったような気になっていた。

・・・だけど。



私の呟きを聞いていたルシフェルさんが。


「あの娘に逢いに行きたいんだろうけど、居場所が分かるかい?

 その前に、あの子の名前は?君はみんな思い出せたのかい?」


矢継ぎ早に質して来た。


「あ・・・いえ。何一つ思い出せないのです」


夢の中で声が聞けていたぐらいで、名前すら思い出せていない。


「そうかい・・・

 こののメモリーにも、名前らしい音声が捉えられてはいなかったからねぇ」


思い出せないと答えた私に、画像の中にはヒントすらないと言い返して。


「それじゃぁ何かと不便だから。

 仮の名前として<0(ゼロ)>と、呼んで善いかい?」


急に呼び名を付けられた。しかも数字を・・・


「ゼ?ゼロ・・・ですか?」


なぜ名前が数字なんだろうと不思議に思って訊いてみると、ルシフォルさんは焦げた人形を指して。


「前の身体に刻印されてあるんだけど・・・ほら」


良く見れば所々に<0>が刻印されてある。


「あ・・・ホントですね・・・って、あの。

 いくらなんでも人間に宿れたのですから、その呼び名は・・・」


ロボットだったけど、今はこの女性の身体になっているのだからゼロと呼ばれるのは抵抗がある。

そう言った意味合いで躊躇したのだけど。


「あん?人間って・・・あ、そうか。

 その体を人間なのだと勘違いしているようだね」


「はい?え・・・違うのですか?」


あっさりと人間ではないと言われて驚いた。


「最初に言った通り、ボクは機械博士なんだ。

 人間工学にも触れていてね、より人間らしい身体を造っておいたんだけど。

 それが今の君なんだよ、ゼロ」


「は?・・・はいぃ?!」


追い打ちをかけられた気分。

この躰は人間だとばかり思い込んでいたのに、機械仕掛けだと知らされた。


「でも!衣服の感覚や痛みだってあるんですよ?

 ロボットが痛痒を感じるなんて、有り得ないじゃ・・・」


そこまで話して気が付いた。

自分はやはりロボットだったと。

だから目覚めた時に違和感があったのだと分かったから。


「そうなんだ・・・機械の身体では痛痒を感じられなかったんだわ」


自分の手の平を観てから、焦げたロボットに目を移す。

至る所に疵があり、胸には風穴を開けられているのを見て。


「痛みが無いっていうのが、せめてもの慰め・・・だったんだ」


記憶が無いから分からないけど、炎に巻かれる瞬間まで痛痒が無かったことぐらいしか気休めにならないだろう。

だけど、この躰は痛みどころか人間の肌その物の様に感じられた。

まるで人間の様に・・・


ー 人間の様にって?どうしてロボットだった私がそう言えるの?


不意に違和感が募る。

ロボットだったとしたら、肌の感覚なんて分かる筈が無いのだから。

痛痒の無い身体なら、痛みを覚えている訳がない筈?!


再び頭の中が混乱を始める。

ロボットだったのは夢や記憶の欠片で間違いではない。

なのに、ロボットでは感じ取れない感覚を持っている。

それじゃあ・・・私は・・・何者だった?

人間でもない?ロボットでもない?両方を掛け合わせた・・・モノ?


「感覚を覚えている私って・・・一体?」


痛みを知っているロボット?機械の身体を持った・・・人間?


・・・人間?私は人間だった・・・ロボット?!


頭の中が霧が晴れて行くように輪郭が露わになる。

自分がロボットであったのは間違いない。

でも、人の記憶も残されているのだと分かって来た。

突き詰めて考えれば<人であった私がロボットの身体を得た>のだと分かったのだ。


どうしてそうなったのかは不明だけど、先ずは間違いない。


「私・・・人間だったんです。

 どうしてロボットになったのかは思い出せないのですけど」


「ああ。ボクも君が目覚めた時に気が付いたんだ。

 差し出したココアを呑んでくれた時に分かったんだよ。

 熱いって、甘くて美味しいって言ったよね。

 あれは人でなければ答えられないんだからね」


機械にだって温度センサーで測ることは出来るが、熱いとは言わない。

糖度を計れたとしても、美味しいとは答えないだろう。

それこそが人間の証だ・・・と。


頷いたルシフェルさんが続けて問いかけてくる。


「仮にだよ、誰かに因って人間だったゼロを機械に閉じ込められるのか?」


「え?えっと?!」


問われたけど答えようがない。


「答えはNOノーだよ。

 肉体から魂を抜き取る様なオカルトが可能とは思えない。

 だとすれば脳波から記憶を読み取り人工頭脳へ移植したのではないかな」


「え?えっと・・・分かりません」


もっと答えようがなくなってしまう。

腕組みしたルシフェルさんが、私が戸惑うのを見て微笑むと。


「もう一度言うけど、仮の話だよ。

 人間だった君の記憶が人形ドールに納まっていたとして。

 なぜ他のロボット達が君を壊そうとしていたのか?

 どうして機械同士なのに敵として扱ったのか?

 それには、あの娘が関係しているのか・・・

 もし、ボクの仮定が間違っていないのなら」


「仮定の話なら?」


推理が正しければ、どうだと言うのか?

思わず訊き直した私に向けて、


「君はあの茶髪の娘を護る為に機械の身体を持った・・・持たされた。

 そして機械達に狙われた娘の身代わりになって殺られそうになったんだ」


「あのを護ろうとして?」


仮定だと言われたけど、間違いではない気がする。

だって、娘の画像を観た瞬間に感じていたのだから、助けなければって。


「そう。

 ボクが思うに、あの娘は特別な存在なのだろう。

 ゼロが人を捨ててまでも護らねばならない程、何かを秘めているのかも知れない」


何かを秘めた娘?

それって機械達が強奪する程の秘密?


「もしかしたら機械達にとって、代え難い存在だったのかもしれないね」


代え難い?


「あの工場に居た人達のように殺さずにいたのだから」


人類を襲う機械達が殺さずに捕らえていたのは、生きたまま必要だから?


「少なくとも黒髪の敵は、あの娘に話しかけていた。

 もう一体の人形ロボットには殺す気なんて無かったように思えるよ」


茶髪の娘を殺さなかったのは、剣を突きつけていた敵だと教わる。


「きっとどこかへ連れて行く気なんだろう。

 そう考えないと、ゼロを倒した後でも殺さないのは辻褄が合わないよ」


そして彼女が未だに生きている可能性を言及された。


「生きている・・・ですよね?」


逢わなければいけない人が。


「あの後も、間違いなく。

 後は何処に連れて行かれたか。

 そして逢えるまで生かし続けられているのか・・・だね」


二人が逢えるかの可能性を示唆してくる。


「絶対に逢いに行きます。

 だって、それしか記憶を取り戻す方法が見つけられないから」


逢わなければいけないと感じていたし、守らなければいけない筈だったから私は即答したのだけれど。


「そう言うだろうと思っていたよ」


ルシフェルさんが微笑みながら頷いてくれて。


「その体なら外に出たって影響がないよ。

 ゼロだったら直ぐにでも探しに行けるから」


放射能に汚染された外界へ出ても大丈夫だって言われたんだけど。


「え?でも・・・ここが何処なのかも分かりませんし。

 この姿のままで外に出ても無事に済むのですか?」


探すにしても宛ても無く?

それ以前に、防護服も着ずに外に出ても大丈夫なのかって。


「ああ、君というモノを知る為にもね。

 外界を観た後で帰って来れば?

 ゼロが戻るまでに着替えを用意しておくよ」


でも、ルシフォルさんは何食わぬ顔で答えて来る。

外を見た後で帰って来れば良いんだって。


「・・・分かりました。外に出てみます」


自分が本当に人間ではないのか。

そして世界が本当に核に冒されているのかを確かめる為にも。


「扉は二重に施錠されてあるからね」


腰を挙げたルシフェルさんがドアノブに手をかける。


「帰って来たら同じように開けると良いから」


時計回りにノブを廻すと。



 ガコン!



重い解錠音が響き、ドアが開き始める。


「このドアは閉めるけど、奥にあるドアを開けると階段を登って。

 暗いけど・・・そのまま地表まであがると良いからね」


「あ、はい」


ドアへ一歩踏み出すと、背後からルシフェルさんが教えてくれた。

独りだけで地表へと向かうのは怖かったけど。


二重扉の前迄進んでから振り返ると、閉まりかかったドアの向こうから。


「あまり遠くには行かないでね。

 もしかしたら悪漢に遭遇しちゃうかもしれないから」


「え?」


半ば冗談交じりで忠告されてしまった。


「嘘だけど、機械達はいつ襲って来るか分からないからね」


冗談では無かったみたい。


「わ、わかりました」


忠告を真に受けて身を縮める私。

恐くて離れられなくするルシフォルさんの狙いだなんて知る由もない。


「外を見たら直ぐに帰りますから」


「待ってるよ」


一言交してドアを閉じてられちゃった。


二重扉のノブが目に留まる。

これを廻してしまえば、放射能を浴びる可能性が高い。

人間だったら即座に被曝してしまう。その結果は死に至らしめるかも知れない。


でも、自分は人間とは違うのだとルシフォルさんは言った。

肌に感じる感覚や、触ったノブの冷たさも人間そのものに思えるのに。


「ごくり・・・」


息を呑む・・・そして思い切って。



 ガコン!



ノブを廻し・・・扉が開く音が耳を打つ。



 ギィ~ギギィ・・・



解錠されたドアが開く。


「すぅ・・・ハァ・・・」


深呼吸してみる。


・・・何も感じられない。


と、言うか。ロボットなのに深呼吸出来ているのが不思議。

本当に私はロボットなのだろうか?

少し違和感が襲うけど、こういうモノなのだろうと誤魔化してしまう。



 すた・・・すた・・・



言われていた通り、暗い通路の先に階段がある。

その先から観えている光を頼りに、歩を進め始めた。


 すた・・・すた・・・


一歩づつ・・・また一歩。


階段を登ると光が私を包み始める。

出口には扉は無く、開放された入り口から外の色が見え始めた。


「・・・なぜ?夕方なのかしら?」


朱に染まる外の色に、てっきり夕方なのかと思った。


紅く染まる陽の光に、そう感じるのは当然だと思ったが。


 すた・・・


階段を登り切り、外界に出られた・・・けど。


「なぜなの?」


瞳に飛び込んで来た光景に言葉を失った。


「なぜ?

 どうして・・・こんな世界に?」


誰の所為なのか・・・と。



挿絵(By みてみん)



朱に染まっていたのが夕日の所為ではないと分かった途端に。


「ああああ~ッ?!

 誰がこんな酷い世界にしたのよ!

 なぜ核兵器を放棄できなかったのよぉッ!」


立ち竦んで叫んでしまう。


黒く澱んだ建物、陽の光を鉄錆が覆い隠して朱に染める。

生きる者が居なくなって死に絶えてしまった街。

廃墟と化した建物の影さえもが死神の様に紅く澱んで見える。


この世の終わりのような光景に、唯々声の限りに叫んだ。


「馬鹿!馬鹿!馬鹿ッ!

 人間なんて大馬鹿者だわ!

 悪魔の兵器をいつまで経っても捨てられなかった馬鹿者よ!」


核兵器により地上は荒廃を極めていた。

放射能で汚染され、命ある者が死に絶えた世界と化していたのだ・・・


 

核兵器が齎した暗黒世界。

人類の未来を奪う悪魔の脅威。


周囲を見渡した私は声の限りに叫んだ・・・愚かな人類を呪って。


次回 Act6 疼く傷痕

彼が話した名。それは私の心にある傷を擽る?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ