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絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第6章 思い出を穢す者
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Act42 思い出を穢す死神人形

遂に死神人形と闘う事になるレイ。


嘗ての友との1戦の結末や如何に?!

銀の閃光が襲い来る。


白刃が身体目掛けて伸びて来る。


人間の視力だったら避けれる速度では無かった・・・が。



 シュッ!



間一髪の離れ業で切っ先から逃れた。


「ちッ?!」


第1撃を避けられた死神人形が舌打ちする。


「なら・・・これでどう!」


突き刺す筈だった刃を、そのまま横殴りに振り払う。



 ビュッ!



並みの人間だったら、間違いなく斬られていただろう。

それ位の速さだったのだが。


 ひょいっ!・・・と、避けられてしまう。


「な?!」


いとも容易くなのかは分からなかったが、相手は完全に見切っている。


「くぅッ?!」


攻めている筈なのに舌打ちしてしまった。

まだ一振りしただけだったのに、間を執る為に後退らねばならなくなったのだ。


「ば、馬鹿な?!私の速度スピードに負けていないだと?」


アークナイト社から得た情報を元に、オーク社が対抗する性能を与えて造られた人形であるファースト。

プロトタイプを凌駕している筈のスピードだったのに、完全に見切られていると感じた時、フューリーは言い知れぬ不安を感じ始めていた。


「そんな事がある筈が無い。

 私はゼロを超える性能を与えられているんだ!」


口ではそう吠えても、焦りは隠しきれない。


「なぜ?どうしてなんだ?

 私はぜろを倒す目的で造られたんだぞ」


次第に気が付き始めた。

目の前に居る少女人形が、以前に観たモノとは別なことに。


「あれはなんだ?

 黒い円環やワッペンに光っているゼロの文字は?」


緑色のゼロ表示に気が付く。

気が付いたが、それが意味している訳には思い至らない。


「糞がぁッ!切り刻んでやる」


考えても答えが見つかる筈もない。

焦りが行動を無謀へと導いてしまった。



ー 見える・・・まるでスローモーションのようだ!


切っ先を見詰めているレンズからの情報で、次に執るべき動きが判った。

第1撃を避けた時は戸惑いを感じたが、次の一手に於いては余裕を感じられた。


ー これが・・・戦闘状態の私?


あの試合の時だってこんなにも素早く動けなかった。

いや、あの時は自分が人形だという感覚に慣れ切っていなかった。

 

だが、今は違う。

これが秘められていた本当の少女人形<ゼロ>の性能だと感じた。


人間を軽く超越した視力、そして思考回路。

闘う事に特化した動き・・・そして。


ー 敵が得物を持つのならば・・・・


身体に秘めた武器を手にする時が来たのを感じ取る。

右腕の中に隠されてあるヒート剣を。


ー これが・・・生まれ変わった私の武器?!


体内の装置を人工頭脳で感知して、作動準備を完了させる。

剣の性能、そして発動した後の使用秒時も。

何もかもが一瞬で頭に叩き込まれて。


ー 私は闘う身体に生まれ変わったんだ。

  これこそがリィンを護るべき守護者(ガーディアン)たる戦闘人形バトルドール


右腕の中から感じる熱さに、自分が闘う人形なのだと再認識する。


ー だったら!リィンを渡す訳がないじゃないか!


熱き想いが身体中を駈け廻る。

約束と誓いを纏う者として。


「斬られるのは、ファーストの方だ!」


突き出す右手を死神人形へと向け、


「リィンを泣かせた罰を受け取れ!」


手袋を突き破って現れた棒を握り締める。



「な?何ぃ?!」


一方的に攻めているつもりだった少女人形ファーストが驚愕する。


「なんだよそれは?!」


観てしまった変化に。


「どうしたら髪の色が蒼くなれるんだ?!」


高圧電線に触れたかのようにスパークを放ち、ピンクのリボンを解けさせる髪を観てしまった。

蒼いスパークを伴いながら、黒髪が徐々に蒼く染められていくのを呆然と眺め。


「なぜ?お前だけが?!

 何時もお前だけが!私を超えられるんだぁッ!」


体内に納めている感知装置が知らせた性能差に怒りを覚えて。


「赦せないぞレィ!

 許さないからな、人間共よ!」


またしても謀れたのだと恨みを膨らませるファースト人形。


「認めないッ!認めてなんかやるものか!」


己を超越した者への怒りが、剥き出しになり・・・


「切り刻んで殺してやるッ!」


冷静さを失って刃を振り被った。



ー 目の前に居るのはフューリーではない。

  リィンが教えてくれた通り、こいつは死神人形(ファースト)なんだ!


鬼の形相になったファーストを観て、レイは思い出を打ち消そうと必死に考える。


ー あの優しさを湛えた蒼い瞳は死んでしまったんだ。

  こいつはフューリーとは違う・・・悪魔なんだ!


バサバサの金髪、怒りに眩んだ蒼い眼。

嘗ての友の姿は微塵も無くなり、牙を剥いた悪鬼に堕ちている。


「そう・・・悪魔は倒さなければならない」


思い出を穢されたレイが導き出したのは、


「私の手で・・・穢れを祓ってやるんだ」


仇として討たねばならないという結論。


戦闘人形として生まれ変わった今こそ、嘗ての友を倒さねばならなくなった。

この悲劇を生んだのが、タナトスの所為だと思いを新たにして。


「私に課せられたのが闘う運命だというのなら。

 必ず果たしてみせる、野望を挫くその時まで」


振り被ったファーストとの間合いを取りながら、右手のヒート剣を握り締める。

発動タイミングを図りながら、これで終わりにしなければならないと感じていた。


ー タイミングを間違ったら・・・私が負ける


敵となった少女人形(ファースト)も、十分に分っている筈だ。

性能差をカバーできるのは得物の有無によるから。

刃を失ってしまえば、忽ちにして窮地へと追い込まれることぐらい。


だから・・・最初で最期の一撃となる。

まだ死神少女人形(ファースト)は手の内に気が付いていない。

蒼い髪色に気が取られ、手にした棒が何なのかを考えてもいない。


ー 僅か10秒で・・・決めなければ!


剣戟を交わす時間などは有りはしない。

避けられでもしたら、反撃を喰らう。


10秒・・・されど、10秒。


ホンの一呼吸する間で、決着しなければ反対に負ける恐れがあった。


相手も刃を携えている。

間違えば死神人形の言う通り、切り刻まれてしまうかもしれない。


ー 何としても一撃で倒さないと・・・


人工頭脳で図っても、相手の剣を避けてしまえばタイミングを逸すると出た。

ならば、どうすれば良い?


咄嗟にレイは自分が人形なのを思い至る。

常人には出来なくとも、今の身体なら活路があると気が付く。


ー そうだ。それが出来る身体なんだ!


戦闘人形として生まれ変わったこの躰だからこそだと。



挿絵(By みてみん)




白刃を閃かせて躍りかかる死神人形(ファースト)


「死ねぇーッ!」


右手を後ろに隠し、身構える戦闘人形(レイ)


「はっ!」


両者の影が重なる・・・一瞬。



 ガキンッ!



刃が振り下ろされて・・・


「なッ?!」


驚愕する叫びをあげるのは?


「手を斬られてでも防いだのか?!」


左手で刃を受け、超硬度ジュラルミンを半ばまで破断されていたのに。


死神人形ファースト)が喚いた瞬間だった。


「ごめん・・・」


戦闘人形が漏らす。



 ビシッ!



紅く光る刃を突き出して。



 ブワッ!


高熱の刃が、死神人形の頭部を薙いだ。


「ぎゃぁッ?!」


途端に悲鳴が空気を切り裂く。

断末魔の悲鳴が辺りを震わせた。


紅く光る高熱のヒート剣を受けた死神人形(ファースト)が、仰け反るように吹き飛ぶ。


「ひいいいぃッ?!」


だが、一撃を受けても倒されずに済んでいる。

右頭部を半ばまで焼き切られていても。

高熱で髪を焼かれていても・・・


「ぐあああああぁッ?!

 お、おのれぇ~ッ、レィいいいぃーッ!」


頭部の損壊だけでは倒し切れなかった。

更なる憎しみを募らせる、悪魔のような人形がそこに居る。


なぜ?倒し切れなかったのか。


「もう、諦めなさいフューリー。

 その傷では闘う事も出来ないでしょ?」


頭部の機能の半分を失った死神人形に、戦闘人形レィが質した。


「勝負は着いたのよフューリー」


決着したからには闘う必要が無いと。


「く・・・糞がぁッ!」


だが、負けた死神人形は認めようとはしない。


「倒し切れなかった癖に!」


怒りを露わにし、抗おうと試みたが。


「く・・・右目も使えなくなったのか」


異常を知らせる体内センサーに表示されているのは。


「戦闘不能だと・・・馬鹿な!」


唯の一撃で継闘が不能となったのを知らされてしまう。


「負けた?このファーストがプロトタイプ如きに?!」


油断していた訳では無い。勝てる見込みが無かった訳でもない。


生き残った左目で相手を見ても。


「まさか・・・左腕を潰してまでも打ってくるなんて?!」


片腕を犠牲にして一撃を放って来た戦闘人形(レイ)に、感嘆とも驚愕とも言い知れぬ言葉が漏れる。

相手の腕を叩き斬っただけに終わった勝負の末、自分はこれ以上闘えなくなった。

性能差だけの話ではない。

戦闘人形の決意の方が優っていたと分かる。


「覚えていろよレィ。

 次こそは殺してやるからな・・・次こそ!」


やっと状況を飲み込めるだけ落ち着きを取り戻した。

このまま闘えば捕らえられるか倒されてしまうのは必然。


復讐に蘇ったのに、このまま倒されても口惜しい。

だとしたら?


「覚えておけよ蒼髪のレィ!

 この次は・・・殺してやるぞ」


身を翻した死神人形が、広間から扉を打ち破って逃げ出す。




 どがぁッ!



大きな扉のかんぬきをモノともしないで。


「あ、待てよフューリー!」


砕けた扉の陰へ死神人形の姿が消える。

追いかけようとした戦闘人形だったが、傍らの声に停められた。


「レィちゃん!」


声に振り返った先のリィンの表情は、何故だと問いかけている。

どうしてなの?なぜ倒さなかったの・・・と。


「逃がすつもりは無かった。

 あれ程の傷を受けても・・・走れるとは思わなかったんだ」


左手を支えてリィンへ答える。


「ほんの僅かに・・・狙いが甘くなったよ」


その答えから、レィがフューリーを想ってしまった結果の表れだと分かる。

倒すのなら眉間を砕く位置に、狙いに絞るだろうから。


後に憂いを残す結果となったのを詫びる戦闘人形(レイ)に、リィンは首を振って訊く。


「違うよ、どうして手を斬られてでも・・・って、訊きたかったの」


「あ・・・こっち?」


腕の骨格であるジュラルミンまで斬られてしまっていたのを思い出したかのように。


「まぁね、日本には骨を斬られて髄を断つって言葉が残されていてね・・・って?」


少々惚けてみせるのはリィンに心配をかけないようにだったが。


「馬鹿馬鹿馬鹿ァッ!死ぬほど心配したんだからぁッ!」


跳び付いて泣くリィンには、流石の戦闘人形でも歯が立たないのか。


「ごめんよリィン」


戦闘人形から人間レィに戻って謝るのだった。



大広間の扉が破壊された。

扉を守っていた不運な黒服が巻き込まれてしまったが・・・


「なんだ?!何が起きたんだ?」


傭兵達は飛び出していく少女人形に不信感を持って見送るのだったが。


「ボス?何が・・・」


広間に飛び込み状況を把握しようとした。


そこには、少女と人形。


それに倒れたままのロッゾア・オークの姿が・・・



「貴様らぁッ!ボスに何てことを」


懐の拳銃を掴み出して吠えるのだった・・・


決着は先延ばしに?

逃げた悪党はしつこいと言うが?


今は唯。

祖父と孫が別れを惜しむとき・・・だが?!

黒服が邪魔を?!

第6章はコレでお終いです。

次回からは第7章<託された者> が、始まります。

リィンとレィが下す決断とは?!


次回 Act43 託されたモノ

祖父が亡くなる前に手渡すモノとは?!

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