魔鋼の乙女 16話
射撃訓練と銘打ったテストが始まる。
命中させなければクルーガン中尉から搭乗員から外されてしまう。
初の実弾射撃に戸惑う美晴。
果たして命中させられるのだろうか?
小銃を右手で提げて射撃地点に進み出る。
真っ直ぐに標的を見詰めて。
「おいおい。硬くなるなって」
「先ずは銃になれる方が先決だろ」
成り行きを見守る二人の少尉が声をかけて来る。
「ミハル候補生、頑張ってくださいね」
射撃観測員配置に就ているミルアからも。
隊員達の前を通り過ぎる美晴へと激励の声がかけられる。
小さく顎を引いて、声援に応える美晴。
その様子を腕を組んで見守っているクルーガン中尉。
「もしも彼女が言っていた通りなら。
私は受け入れざるを得ないだろう、ミハルを」
何かを感じ、記憶にある言葉を思い起こして。
「闘う為に帰って来た<希望>を」
美晴を幼馴染と認めずにいたことの意味を匂わせて。
「当てなきゃいけない。当てないと認めて貰えないんだ」
射撃地点へと向かう途中で口に出る。
絶対に命中させなければならないと。
クルーガン小隊長から言われてしまったから。
魔法力を以てしても当ててみろと。
魔法使いならば、当てられる筈だとも言い切られてしまった。
「もしも当てられなかったのなら。
もうこの小隊には居られなくなる」
的を外したら搭乗員とは認めて貰えない。
当てることが出来なかったのなら、魔法使いとして失格。
魔法の戦車を配備した小隊で、魔法使いとして認められなかったのなら、搭乗員には採用して貰えない。
そればかりではなく、小隊の中での居場所が無くなってしまうだろう。
最悪、クルーガン小隊長から不適正者だとの報告が司令部に上がれば、転属させられるかもしれない。
そうなったら未だに解せない幼馴染の行為も判らず仕舞いになる。
「マリアちゃんと話し合える事も無くなってしまう。
あたしを美晴だと、どうして認めてくれないのかも分からず仕舞いになっちゃう」
射撃地点へと歩き出す前、美晴は失意を覚えながらも考えていた。
「「当ててみせたい。絶対に」」
全ての魔力を使い果たしたとしても。
決死の想いに染まった美晴が覚悟を決めた時だった。
「「出来るわ。私が見守っているから」」
自分ではない誰かの声が、再び脳裏を過る。
「「魔砲の異能があるでしょ?あなたには」」
教えて来る声に、自分の属性を思い出す。
「あたしの魔力。
魔砲少女って呼ばれて来たんだ、仲間から」
祖母から受け継いだ異能。
伯母から引き継いだ属性魔力。
日ノ本で目覚め、闘い続けて開花した魔砲の異能。
「本物の銃なんて撃った事は無かったけど。
魔砲の異能で当ててみせる」
脳裏に過った誰かの声に力を得て、心が決まったのだった。
隊員達が見守る中、小銃を両手に握って地面に伏せる。
弾倉の中に込められてある12発で、的を射貫かねばならない。
最初から命中させようとは考えてもいない。
だけど、ラスト1発迄には何としても当てておきたかった。
「装填棒を引いて・・・」
側面に突き出ている弾丸を撃発位置へと送り込むボルトを引いた。
ガシャッ!
実弾が弾倉から送り込まれる。
「的を照準して・・・」
銃口を的へと向けて。
「狙いを絞って・・・」
目標である的に軸線を併せて。
「トリガーを・・・引き絞る」
ゆっくりと。
慎重に。
引鉄を人差し指に力を込めて。
バムッ!
射撃音が周り中に響き渡った。
「!!ひぐぅッ?」
轟音に身体が反応してしまう。
不意に襲ってきた、肩へ伸し掛かる様な痛みを感じて。
「くぅッ?」
思わず瞼を閉じてしまった。
実際の身体を使って行う実弾射撃訓練も、小銃を撃つのも初めての美晴。
地に這いつくばって撃った。
撃つだけは。
だけども轟音と反動に、弾を見守る余裕なんて有る訳も無かったのだ。
直ぐに眼を抉じ開けたつもりだった。
だが、それが思い違いだったことが判らされる。
「どこに撃ったんだよ?」
「ちゃんと目を開けて撃たないと危ないぞ」
初弾の行方を教えて来た二人の少尉の声。
それと。
「ミハル候補生の第1射。的から手前50メートルに着弾」
射撃判定員であるミルアからの報告。
「え?!そんなに・・・」
的から外れてしまったのかと動揺してしまう。
それよりも、弾道も見れない程の反動に驚きを隠せなかった。
「フ。どうやら取り越し苦労だったか」
美晴の射撃を観終わったクルーガン小隊長が、ポツリと呟き。
「どうした。射撃を継続しろ」
訓練射撃の継続を命じるのだった。
「うう。凄い音にこの反動。
どうしよう・・・どうすれば良いの?」
魔砲を放つのは慣れたつもりだった。
でも、本物の銃を撃ったのは今回が初めて。
硝煙の匂いと耳に残る射撃音に動揺してしまう。
「次こそ・・・目を開いておかなきゃ」
射撃に怯える心を無理やりに押し留め、再度小銃を握り直して。
「標的を銃眼に捉えて・・・撃つ」
一からやり直して、トリガーへと指を添えた・・・
ガンッ!
意図しない射撃。
否、自分では狙いを絞ってから引き絞る筈だったトリガーに震える指が触れた瞬間の撃発。
「わッ?」
十分に狙いを絞らずにはなった弾の行方など知れたこと。
只、今度は図らずも目を閉じる暇も無かった。
「ありゃま」
「駄目ダメ。腰が引けてるじゃないか」
第2射目も、的から遠く外れた地点に砂煙が上がる。
「ミハル候補生の2弾目。左遠方30メートル付近」
全く命中などおぼつかない。
掠りさえもしない射撃に、同僚達からため息が零れる。
「駄目だ駄目だ。このままじゃぁ的に当たらないぞ」
ド素人の射撃に、小隊長から発破がかかる。
「弾倉が空になっても当たらなかったら、搭乗員から外すからな」
駄目出しと、覚悟を仄めかせて。
本当に小隊搭乗者として失格だと謂わんばかりに。
「当てなきゃ。当てないと!」
小隊長の言葉が美晴を更に慌てさせる。
焦れば焦る程、動揺が激しくなる。
それは狙いを定めるのを邪魔し、射撃に影響を及ぼした。
「今度こそ!」
焦る美晴は十分に狙いを定めることすら出来ずに次射を放つ。
ガンッ!
腰砕けの一発が地面に穴を開ける。
「このぉおおおぉッ!」
更に次の弾も。
その次も・・・
ドムッ!
そして次々に放つ銃弾が10発を数えた時。
「もう無理だな」
「残念だなぁ」
レノア少尉とミーシャ少尉が肩を竦める。
「頑張れ、ミハル候補生」
ミルアだけが諦めずに声援を贈る。
そして、腕組みを解いたクルーガン小隊長が。
「やっぱり。おまえは軍隊には向いていないんだよ」
翳りのある顔で呟いていた。
「はぁはぁはぁ・・・どうして当たってくれないのよ」
肩で息を吐く美晴。
焦燥感を滲ませた顔で小銃を睨んで。
「後の2発で。当ててみせなきゃいけないのに」
どんなに魔法力を注ぎ込んでも、魔砲の異能を使っても実弾射撃には通じなかった。
いいや、本物の弾を的に当てることが叶わなかった。
「マリアちゃんの本心を聞く事も叶わなくなる。
ルマお母さんに迷惑をかけてしまう・・・」
残された弾は、たったの2発。
その2発を外してしまえば。
「もぅ魔法衣を晒す事になってでも当てないと!」
高位の魔法使いである証の魔法衣姿を曝け出す事は禁忌に等しい。
自分が魔法少女であるのを知らしめるだけに留まらず、女神を宿しているのも表わしてしまう。
観ているのが小隊員だけに留まらない衆人環視の中で。
「「焦れば焦る程、悪循環に嵌るのよ」」
再び脳裏に声が届けられる。
「「どうしても当てたいのね、ミハル?」」
訊かれた美晴が臍を噛む様に頷き、
「当てなきゃ!あたしは此処に居られなくなるの」
「「どうしても?この小隊に留まりたいのね?」」
質し直した声に心の底から頷き返して。
「約束を果たしたいから!たった一つの願いを叶えたいからッ!」
想いを叫んでいた。
ざわっ!
ミハル候補生の射撃が停まった時だった。
風も無いというのに周りの木立がざわめいた。
しゅぅううう・・・・
伏せの射撃態勢を執っている美晴の身体が、一瞬だがぼやけたように感じた。
「?!」
その一瞬を見逃さなかったのは、彼女を知る一人だけ。
「ま・・・さか?!」
高位の魔法使いに準じた能力を保持した者だけ。
「本当だったのか?!」
並みの魔法使いなどには観ることすら出来ない異能を観ることが出来た。
「彼女が言った通りだと言うのか?!」
そこには居る筈の無い容を目の当たりにして呟いてしまう。
幼い時から魔砲少女である美晴の傍に居続けて来たから。
小隊員の中で、クルーガン中尉の目にだけ目にする事が出来たのは?
美晴に覆いかぶさるように揺蕩う光る霞。
霞んだ光は時に人の容になり、時に蒼き宝珠から湧き出す息吹へと戻り。
「「さぁ!私と共に撃つのよ美晴」」
優しい笑みを溢れさせる女神の姿を模った・・・
どうしても命中させなければならない。
無理難題の射撃訓練に、美晴は天にも縋るつもりで頼んでしまう。
このフェアリアで生き残りを賭けた戦いに身を投じてきた人へ。
嘗ての魔鋼騎士に。
現世に蘇りし女神へ・・・
次回 魔鋼の乙女 17話
温かな光に包まれる時、少女は孤高の戦士と一つになる・・・




