表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>  作者: さば・ノーブ
第2部 魔砲少女ミハル エピソード7 第3章 夢幻 時の静寂に棲む者
195/428

ACT 7 時の静寂に棲むモノ 後編

真実は・・・何処に?


蘇ろうとするのは聖なる者だけには止まらない。

闇に染まった女神だって・・・


否。

彼女が謂わんとするのは?

娘の言葉を吐く孫の姿を前に独り。

歳を召した母である美雪が涙を堪えて。


「どうして?あなたは還りたくはなかったの?」


帰るべきでは無かったと言った堕神ミハルに質す。


「人に。人として帰って来たくはなかったの?」


美晴の身体を憑代に選んだ堕神へと。


「あなたを取り戻す為に・・・私達は。

 今のあなたが宿った子を産んだのよ?」


女神再生計画のあらましを知らせようとしたのだが。


「そう?

 でもおかしいわね、お母さん。

 この子は弟である真盛マモルの娘でしょう?」


確かに、産み落としたのはマモルの妻であるルマだ。


「マモルの幼馴染でもあったルマの娘なのよね?」


間違いではない。

しかし、計画のあらましは見抜けていないとでも言うのか。


「出生証明を観たって間違ってはいないわ。

 でも、事実は・・・私とマコトが・・・」


美雪はマコトの実験を全て承知していた訳では無かった。

だが、代理出産を拒めなかった事実だけが重く伸し掛かってもいた。


「マモルもルマちゃんも。

 あなたを取り戻す為に承諾したのよ・・・身代わりに産む事を」


本当は美晴が自分の子なのだと明かそうとした・・・のだが。


「美雪お母さん達は、信じているようね。

 この躰を使えば宿れるのだと、転生出来るんだって考えた様ね」


驚いた事に、ミハルは実験を理解していた。

美晴の本当の母が、美雪であると分かっているのか?


「そうよ。身体の無い魂には宿る器が必要な筈でしょ?!」


思わず声に出してしまった。

過去に行われた事のある、転生の秘術が復活されたと。


「昔日の禁呪を・・・執り行おうとしたっていうのね」


闇に奪われかけた魂を取り戻そうと試みたマコトの実験が繰り返されようとしているのを、ミハルが言い当てる。


「だけども美雪お母さん。

 実験に関わった人々は、大切なことを忘れてしまったようだね。

 転生する為には、闇の異能が必要なことを。

 聖なる光と相反する闇の異能が必要だったことを」


「忘れた訳では無いわよミハル。

 この世界のどこかに居る筈の異能者を見つけ出そうとしていたのよ」


命を吹き込む為には、光ではなく闇が必要なのだ。

魔王級の強大なる魔力が。

神にも匹敵する程の闇の異能に依ってのみ、転生が成し遂げられるのだから。


「そうみたいね、美雪お母さん。

 あなた達は光の子であるこの子に、相匹敵する子を宛がおうとしている」


正直、帰って来たミハルが墜ちていても神なのだと分からされる。

話しても居ない計画のあらましを言い当てるのだから。


「その闇に属した子は、後に決定的役割を担う。

 光の属性を宿すだけに留まらず、理を以ってこの子へ尽くそうとする。

 そして、光と闇に因って究極の力となる」


闇の者が光を宿す?

光と闇を以って究極たらんとする?


それは昔日の女神の如く?否、今の美晴が双方の魔力を使える異能者まほうつかいであるように?


「言っておくわ美雪お母さん。

 この躰にはお母さんの遺伝子が流れてはいるけど。

 美晴と名付けられた子は、お母さんの娘でもないし私の妹でもない」


「え?!そんな事がある筈が・・・」


無い筈だったのに。


「だって拒絶されているから。

 私という魂に、盗って代えられないような身体だから」


「そんな・・・嘘でしょ?!」


堕ちた女神でも盗って替えられない身体。

それが意味したのは・・・


「分ったでしょうお母さん。

 この子はルマの娘でしかないと言う事が」


そう。

代理出産で産まれた子では無いということ。


「この子には確かにお母さんとお父さんの遺伝子情報がある。

 だから、この躰が無垢だった頃には宿れたの。

 でもそれは、弟であるマモルの子だったとしても同じ事なのよ・・・」


「あ・・・ああ?!」


真実は・・・母であると思い込んでいた美雪に痛みを伴わせた。

本当の母親は、産んだルマなのだと知らされたから。

代理出産ではなく、ルマの娘に他ならないと知らされたから。


「マモルとルマはね。

 私達が考えるよりももっと、深く愛し合っているの。

 子を授かるのは、理だったのよ・・・美雪お母さん」


教えられた時、幾許かの痛みがあった。

でも、真実を告げられた美雪の胸には、刺さり続けていた棘が抜けたようにも感じられていた。


「私が今、この躰へ()()()()に宿ったのは。

 美雪お母さんを救いたかったから。

 罪の意識に苛まれ続けるのをほってはおけなかったから」


「美春・・・あなたは?!」


堕神では無いと言うのか。

今迄と変わらず護り神であり続けているのかと。


「私を癒す為に・・・現れたと?」


「そう想ってくれるのならば。

 間も無く訪れてしまう災禍を食い止めて貰いたいの。

 この子が病み、心まで穢されないように手を尽してあげて」


「美晴ちゃんが?どうして穢されなければならないと言うの?」


紅く光る左目で美雪を観た、美晴に仮宿りしている女神ミハルが応えた。


「この世界に戻って来たのは光だけではないの。

 真の闇に属する者も・・・やって来ようとしているのよ」


真の闇?その答えは?


「この躰を欲した者は、神から贈られた異能を誇る子も狙う。

 女神であり続ける私をやっかむ者は、先に手を下そうとするから」


理を司る女神を懼れる者達の策謀が始まるのだ・・・と。


「その時まで。

 理を司る私は、時の静寂に身を隠し続けようと思うの。

 身勝手だとは思うけど、そうするよりこの子を守る術が無いのよお母さん」


「美晴ちゃんには宿れないと?護っては貰えないの?」


美雪は自分よりも美晴を想って訊いたのだ。


「宿れないとは言わない。

 けれど、今は失った魂を蘇らせてあげたいから」


「魂を甦らせる・・・って?!一体誰のことなの」


それは美晴を指しているのかと考えたが、女神は頭を振って。


「いいえ。私の恩人だった人。

 嘗ての闘いで喪ってしまった、大切な子よ」


「ミハルの恩人だった人?!」


返された言葉で分かってきた。


「ミハルにとって、掛替えも無い人を取り戻そうと?」


今度は、はっきりと頷く。


「まだ時は満ちていないの。

 この躰が17を迎える日に、闇の中から現れる・・・真の闇が。

 その時、必ずやって来るの。二つが一つになる時が」


女神であろうと万能ではないことぐらい承知している。

人の世界を守り続ける女神であるのならば、魔の手から護ろうとするだろうことぐらい理解する。

そして、女神の言うのは新たな闘いを意味してもいたのだ。


「ねぇ、美雪お母さん。

 何時になれば、世界から闘いが無くなるのかな」


左の瞼を閉じた美晴が溢した。


「私が穢れた女神と呼ばれても、お母さんは信じてくれるかな?」


「ええ!今はっきりとミハルなのだと分かったから!」


美雪は心の中で謝り続けた。

娘を堕ち女神だと罵ってしまった後悔を。


「理の女神は美雪わたし達人類の守り神であるのを!」


「・・・ありがとう。お母さん」


言葉少な気にミハルが礼を返して右手を突き出す。


「観て、この手に宿るのは堕神の証。

 真の敵を油断させる為に、私が闇と同化したように見せかけるモノ。

 でもね、この子には光と闇を抱ける者としての異能を授け続けるの。

 どんな時でも、味方が現れるようにって・・・ね」


右手の平に描かれた、堕神の紋章を見せられて。


「この紋章が消える時。

 真の敵に立ち向かう二つの異能ちからを持てるの・・・」


女神からの神託。

護りの紋章は偽りの形を模るのだと。


それは娘である女神ミハルが、護り神となって美晴を観ている証なのだと云って除けた。


「護ってミハル。

 私の孫娘を・・・お願いよ」


コクリと頷いた美晴がゆるゆると寝そべっていきながら。


「お母さん。

 辛いだろうけど、真実は胸の中に納めておいてね」


最期に告げるのは。


「この子が真実に気付く迄。

 ルマ達にも・・・誰にも内緒にし続けてね。

 それがこの子を守る術になるのだから」


「分かったわミハル」


真実は美雪の中だけに仕舞えと告げられた。


「美晴ちゃんに訊かれても、偽りを教えて。

 産まれの謂れに秘められた真実を明かさないで。

 誰にも知られないことだけが、運命の子達を守る術なの」


味方に知られる事は、敵にも漏れるからと教え。

運命の子が他にも存在しているようにも採れる意味深なる言葉を残して。


「じゃぁね、お母さん。

 時が来れば・・・本当に帰れるから」


「信じてるわよミハル。あなたはこの美雪の娘なのだから」


孫娘の身体から抜け出して消えて行こうとするミハルへ。


「待ち続けるから、あなたの帰還を」


必ず帰って来てと願うのだった・・・


時の静寂に棲む者。

流れ往く時の中で。

女神ミハルが待っていたのは?


告げられた啓示。

放たれた警告。

再び世界に惨禍が起きようとしているのか?

真の敵とは?

二つの異能とは?

女神はいつになれば目覚めると言うのだろう・・・・


次回 ACT 8 降魔ヶ刻

美雪の許を離れた美晴。

混乱と焦りが彼女を苛む時、忍び寄ったのは・・・邪気を孕む者!

美晴に危機が迫る!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ